娘の足に股関節脱臼の疑いがあり、病院に連れて行った。北大病院は古くて大きな病院で、たくさんの患者がいた。赤ん坊である娘を連れて驚いたのは、その人ごみの中で本当にたくさんの人から話しかけられたことだ。2,3時間の間に10人ぐらいに話しかけられた。
なかでも印象深かったのは90歳ぐらいの老夫婦と、5歳の女の子だ。老夫婦は、唐突で、はじめ話しかけてきたのがわからなかった。僕は娘をあやしながら会計で呼ばれるのを待っていたが、歩いていたその老夫婦が、人ごみの中足を止め、さも感動した表情で話しかけてきた。僕はむかし、年寄りが赤ん坊を見て可愛いというのは一種の社交辞令みたいなものかと思っていた。でも新しい生命に引き付けられる気持ち、今は何となくわかる。年寄りが感動すると僕も感動する。そんな自分にも新鮮さを感じた。抱かせてあげようかと一瞬思って戸惑った。つぎは5歳の女の子。先日、妻の姉が連れてきた男の子が5歳になって、すっかり口達者になって大人びていたのにすでに驚いていたけれど、病院で話しかけてきた女の子が、「可愛い、何歳?」と聞いてきて、10分ほど僕のそばに佇んだ時、本当に子供はいつから大人になるのだろうと思った。その子は完全に僕と普通の会話ができた。そして女性らしく、赤ん坊に対して可愛いと思う感情がわずか5歳の子に強く芽生えている。彼女は可愛いと思う赤ん坊に対して、何かをしてあげたそうだ。何もできなくて歯がゆい感じが僕も歯がゆく、頭を触らせてあげたり、掌を見せてあげた。
人ごみの中ではばからずに泣く赤ん坊を連れていくことに、遠慮を感じるし、誰しも多少は感じるべきだと思っていたが、今日一日の経験は、いろいろと考えさせられた。