世の中には「そんなつもりじゃなかったのに」が溢れていると思う。

前を歩いている方が落とし物をしてしまった際、それを拾い「落としましたよ」と伝えるのがベーシック。

しかし落とし物をした方が、イヤホンして音楽を聴いてる場合、
少し難易度が上がって、肩を叩いて気付いてもらう所からスタートしなければならない。
振り返った相手は、大体が怪訝そうに警戒心もあらわに奇異な眼差しを向けてくる。
この時プチ「そんなつもりじゃない」が登場する。いや「どんなつもりじゃない」かはわからないが。

まるで不審者を見るような鋭い目線に若干傷つきはするものの、
こちらの真意が伝わると、笑顔と共に感謝のお礼を頂けるので結果幸せな気持ちになれる。

ところが昔、私は思いがけない対応をされ、少し後に大きな「そんなつもりじゃなかったのに」を生み出したことがある。

実家に住んでいたころ、私は考え事や悩み事を抱えると、よく原付バイクで海に行っていた。
波の音を聞きながら、海風に吹かれていると気持ちが凪ぐことが多い。

その日もそのように海辺でボーとして、心が幾分スッキリしたところで帰路につこうと、バイクを止めてるところへ歩き始めた。

すると前方から一人の女性が歩いてきた。母と同じくらいの年齢だろうか。
2人の間が15メートルくらいに縮まった時、彼女の手からハンカチのようなものが落ちた。
そのことに気づいていない様子の彼女に、私はすかさず「落としましたよ」をかました。
それでも彼女は気づかない。
きっと私の声が波の音で掻き消されたのかもしれないと思い、さらに大きな声で「落としましたよ!」を投げつけた。

全く反応がない。

仕方なしに、すれ違う時もう一度顔をしっかり見て「あの、さっき落としましたよ」と伝えた。

いつものように笑顔とお礼を頂けるかと期待していた私に思わぬ反応が返ってきた。
まさかの、舌打ちと共に親の仇を見るような眼差しが返ってきたのである。

頭の中が「?」で埋め尽くされるのと同時に、私の見間違いだったのかもしれないと、不安に駆られた。

彼女の背中を見送った後、落とし物をしたであろう場所まで行き呆然としてしまった。
落ちていたのはハンカチではなく、スナック菓子の袋だった。
落とし物ではなくポイ捨てだったのだ。

おそらく彼女は、ポイ捨てを見咎められ、なおかつ「落としましたよ」と親切心を装った嫌味をぶつけられたと思ったのだろう。
特大の、
「そんなつもりじゃなかったのに!!」が生まれた瞬間だった。

公衆の面前で堂々とポイ捨てするなんて思いもよらなかったのだから仕方ない。
失礼な事をしてしまったかもしれないが、プラマイ0という事にしよう。

あと恥ずかしい「そんなつもりじゃなかったのに」もある。
テニミュが決まり、ブログを始めた頃の話。
どんなことを書いたらいいか毎日模索する日々だったが、とりあえず私という人間を知っていただこうと思い、
文章と共に自撮り写メを載せることが多かった。

当時のブログを見返すと、叫びたくなるほど恥ずかしい。

そのころ住んでいた家の周りを散歩していた時、空がとても澄んでいて雲が綺麗だったので、
空バックで自撮りをしたり、逆にその光を浴びている自分を自撮りしたりした。

一人撮影会に満足し、帰ろうとアパートの玄関に差し掛かった時、上の階に住んでいる小さなお子さんがいる奥さんと鉢合わせた。
こんにちはと挨拶を交わした直後、奥さんから放たれた一言に衝撃が走った。
「さっきこの辺でカシャカシャ写真撮ってる変な人いたから、あなたも気を付けてね」

ワシのことやないかーい!!

遠目で見て怖かったから遠回りして帰ってきたのだろう。
その「変な人」が目の前にいる私だとは気づいていない様子だった。

たしかに住宅街でカシャカシャ写真撮ってたら怖い。
「そんなつもりじゃなかったのに」と思ったが、とっさに私の口を割って出た言葉は、

「そうなんですね。お互い気を付けましょうね」

客観的に観たらサイコホラー。
白々しく、よくもまあそんなことを言えたもんだ。
しかしブログの為に自撮りしていたと恥ずかしくて告白できなかったのである。

お子さんを持つ親御さんに、いらぬ心配をかけてしまったと深く反省した。

このように、人と人はすれ違ったり、重なったりして歩んでいくものなんですね。
といいこと言った風で締めさせていただきます。

本日もありがとうございました。