私のジムでの初体験は
ショルダープレスだった。

 

特別な理由があったわけではない。


何の気なしにマシンを見回していて

「あ、これなら分かるかも……」

 

そう思って、手を伸ばしたのがこれだった。

 

ショルダー。……肩か。

 

確かに、肩のトレーニングなんて
今までほとんどやったことがない。

 

そもそも私は、
自宅用にダンベルを買ったことはあったがその重量は10kgだった。

 

それ以上の重さを人生で持ち上げたことがない。

 

つまり私は、「重い」の基準が、10kgで止まっている人間だったのだ。

 

そんな私が、何も考えずに設定した重量。

 

32kg。

 

……今思えば、正気の沙汰ではない。

 

座って、グリップを握る。
動きはシンプルに見える。

押す。
上げる。
下ろす。

 

 

――重い。

 

 

いや、クソ重い!

 

数字だけ見れば上級者からすれば笑われるかもしれない。

 

だが当時の私にとっては未知の世界の重量だった。

 

持ち上げた瞬間、肩が悲鳴を上げる。

 

「お前、それは聞いてない」
「そんな使われ方、初めてだ」

 

そんな声が、体の奥から聞こえた気がした。

 

数回で、腕が震える。
フォームも怪しい。


正しいのかどうかも分からない。

それでも今まで使ってこなかった部位が、確実に動いている


という感覚だけは、はっきりとあった。

 

10kgの世界しか知らなかった私が、
32kgという現実に触れた瞬間。

 

この時、私はまだ知らなかった。

 

この“たった一種目の衝撃”が、
これから先「重量」という概念を根底から書き換えていく
最初の一歩になるということを。