これは、ちょうど去年の秋も深まる10月の、ちょっと肌寒くなってきた頃の話です
職場の同僚とお昼ご飯をたべてたとき、最後にちっちゃいミカンを、その同僚が持っていて、小さいのに私に一房くれたんです。
有難いなあと思って食べました。早生のミカンなので、皮が薄くて、甘いミカンでした。
でもこれからお話するのはそのミカンの話では無いんです
本当に甘くて美味しいミカンをもっと食べたいなって思ったんですね
近くに三越や千疋屋があるけど、多分売ってるのは最高に美味しい代わりにお値段も最高なのは手が届かないよねー
もう少しお手頃で、甘くて美味しいミカン食べたいな、帰りに何処か売っていないか探そう!
と、仕事中ぼんやり考えながら終業時刻になりました
職場のある建物から出た目の前に信号があるので、青になるのを待っていると、大きな段ボールの箱を2つ抱えた、若い男の人が、信号待ちをしている年配の男性に声をかけて断られているのが見えました
話をしている声が聞こえて野菜や果物が箱の中に入っているみたいです
箱の表に『○○○のミカン』と印刷されているのを確認するかしないかと言うタイミングで、不思議な事に食べたわけでもないのに口の中にミカンの甘い味が広がってきました
これは甘いミカンが箱の中に入ってるにちがいない
と思うやいなや、段ボールの男の人が『野菜買いませんか?』と声をかけて来ました。
すかさず『ミカンはありますか?』と、聞くと、下の段の箱中に入っているすべてのミカンが見えるようにあけて、どんな状態か、わかるように見せてくれました
皮がツヤツヤした小ぶりの、いかにも美味しそうなミカンでした。
男の人は、『これは三越の地下で売っているのに負けないくらい甘くて美味しいミカンだよ。和歌山から今日送られてきたばかりで、新鮮だし、一つ試食で食べてみて。』と言いながら一つ私の手に載せました
小さな果実の重みが、手のひらに伝わると、食べたわけでもないのに、その甘さが想像出来ました。
値段を聞くと三越で売っているのの半分くらいだったので、よし買おう!
と一袋15個入りを買うことにしました。
『すこしおまけしてね』と言うと、一つだけおまけしてくれました。
『自信を持って販売してますので、追加注文したかったら、ここに電話してください』と店の名前と電話番号の入った領収書をくれました。
私の対応を終わると、また次のお客さんを探してすぐ声をかけていました
さて本当に甘いミカンなのかなーっと家に帰って食べてみました。
驚くほどみずみずしくて、甘いミカンでした。
ミカンが大好きな母も、娘も、甘くて本当に美味しいねーっと大満足でした
こんなに美味しいならもっと買いたかった!
と、思っていると主人が帰ってきました。
事の顛末を話すと、『そんな素性もよくわからない人間から店もないところで果物を買うなんて非常識だ!』とこっぴどく叱られました
主人の職場の近くだと、よく段ボールを抱えた人を見かけるそうです
そうは言っても、あれからいろんなところでミカンを買いましたが、どれもあのミカンには、かないませんでした
それどころか、箱を持って売りに来ていた男の人も二度と見かけませんでした
今にして思えば、不思議な体験でした。