2016年6月29、30日の2日間、フランス・ノルマンディー地方に位置するカーン市でバイクフィッティングと運動工学のシンポジウム「Science & Cycling」が開催されました。これに私(伏見)は今回出席しておりました。

会場はUniversite de Caen Basse-Normandieという大学です。教室内は階段状の机と席で、遠い昔の学生気分に帰った気分です。

同地方は今年のツール・ド・フランスのスタート地であったり、カーン市内ではシマノ社による新製品発表会が行われ、今年ノルマンディー地方は大変注目されました。

今回のシンポジウムへ参加する動機としては、運動工学の基礎研究についての講演が多い事にあります。
現在バイクフィッティングでは「角度」という評価方法を用いますが、その根拠は常に多くの基礎研究の蓄積にあります。それを一般に評価し易く理解するために運動工学上の理想角度を範囲値としているわけです。
私にとってはそういった基礎研究についての講演に非常に興味を持ち今回のシンポジウムへの参加しました。

講演者はフランス、カナダ、アメリカ、ブラジル、スイス、ベルギー、オーストラリア、ドイツ、オランダ、スペイン、イタリア他など国際色に富んだシンポジウムになったかと思います。
シンポジウムは2日間の構成で、1日目午前中は参加者全員が下記の講演者による講義を受けました。

多くの運動学に関する著書を出版するMax Glaskin氏

Max Glaskin氏: メディアが取り扱うスポーツサイエンス・栄養学の真偽
Marc Quod氏: Orica-GreenEdge Cycling Teamのスポーツ科学を取り入れたトレーニングについて

発展途上国の選手サポートについて語るTablas氏

Alejandro Gonzalez-Tablas氏:UCIが管轄するWorld Cycling Centreの概要と自転車競技発展途上国への取り組み。
Andrew Lane:アスリートの感情のコントロールによるエネルギーの生み出し方
Fred Grappe:運動による評価について良い悪いをモデルケースについて説明
Daniel Green:身体の許容性と運動について

バイクフィッティングの講義ではおなじみのCramblett氏

その後、参加者は栄養学・コーチングをメインとする教室と運動工学をメインとする別々の教室へと別れ、それぞれの専門分野について残りの1日半を学ぶことになりました。
当然私は後者のバイクフィッティングに関連する事についてより多くの知識を得るために、運動工学をメインとするグループで講義を受けることにしました。

楕円チェーンリングの効果について第3者の視点で研究するAmos Meyers氏

パリルーベなど石畳路面からの衝撃と効果的な軽減方法について語るSebastien Duc氏


私が受講した教室では、バイクフィッティングに関するものから、機材面で多くを学びました。
講演者が25名と多いため、このブログではとてもできませんが、サドルポジション変更によるパワーメーター機材による評価の推移、楕円チェーンリングの効果的な使用条件、競技者のオーバーユーズによる怪我のメカニズムと予防方法など、大変多くの事を学んだかと思います。

少しここで挙げるとすれば楕円チェーンリングについては短距離の加速場面で効果が期待できるそうですが、選手個々の技量でも効果の有無が変化し、長距離ではあまり真円チェーンリングとの差が無いそうです。サドル前後・高さなども影響を与えます。また良くトレーニングされたサイクリストの競技を目的としたトレーニングとして、低ケイデンス・高負荷の『インターバルトレーニング』の方が高ケイデンス・低負荷のトレーニングより遥かに有効であるそうです。

ミリ単位の調整によるパフォーマンスの変化についてのレポートなどもあり、大変興味深い内容の物もありました。

私は受講しませんでしたが、一方の栄養学とコーチングの教室では遠征時のパフォーマンス管理やインターバルトレーニングやその他トレーニング評価方法を学んだそうです。UCIプロツアーチームのアスタナやBMC、Lottoのコーチ陣もツールドフランス直前であるにも関わらず、このシンポジウムに参加しているのを見かけました。

今回は私が普段参加するシンポジウムとは関係の無い、別組織が主催したシンポジウムとなり、ヨーロッパ、とりわけフランス人研究者の発表について私自身受講したことが無かったので、歴史あるフランスでどういった事が現在研究されているのかがわかりました。 事前情報で得た基礎研究の話について講義する講演者が思ったより少ないのが少し残念ですが、その他多くの知識が得られたと思います。

講演者は英語での講演を義務づけられているため、何名かの母国語なまりが強い講演者については、正直さっぱり理解できていない講演もありました。そのため撮ったビデオを再視聴して、今後理解に努めなければいけません。

今回はアジア諸国からも多くのコーチなどの参加者がおり、サイクルサイエンスに対する関心がどんどんグローバルに高くなっていっているのだと改めて感じるとともに、今後もサイクルスポーツが世界規模で発展するであろうと思いました。今後もこういった日本では学べない講習会、シンポジウムなどがあれば、継続的に学んでいきたいと思います。

アジアからは左より韓国、香港、台湾そして日本からは私(伏見)が参加
画像には写っておりませんが、シンガポール、タイからもコーチやバイクフィッター、理学療法士が参加しておりました。


歓迎会ではカーン市長も挨拶。

株式会社サンメリット
伏見 真希門(ふしみ まきと)
米国BIKE FIT SYSTEMS 公認プロバイクフィットインストラクター
Retul公認マスターレベルバイクフィッター
Team右京、愛三工業レーシングチーム担当バイクフィッター