始発を待ったのは初めてだと思う。
電車に灯りが点くよりも早く駅に着いた朝。
自分よりも少し早くホームにいた見知らぬ男性と、なぜか軽く会釈を交わした。
前の日にとても楽しいことがあって、
数時間前まで新宿で浮かれてた。
そう言えば、人だかりの新宿駅の改札で
誰かの財布からぶちまけられた小銭を、見知らぬ数人であくせく拾った。
去年の春
満員の丸ノ内線の電車のドアに挟まった私のリュックを、スーツの男性がけっこう無表情に救ってくれた。
すいません、ありがとうございます
っていう私の最大限のお礼を
彼は、マラソンランナーが給水するみたいにサラッと受け取っていった。
いつだったか地下鉄で席を譲った人が
電車を降りたあとわざわざお礼を言ってくれた。
お礼を言うためにわざわざ近づいてきてくれた。
あの時の私も、去年の春の給水サラリーマンみたいだったんだろうか。
私は、東京の優しさが好きだ。
むやみに距離を縮めることのないあのシンプルな親切さが、すごく好きだ。
必要な時に必要な分の手助けを誰かがくれる。
ただ、それだけ。
例えば見ず知らずの人とお天気の話をしちゃうようなフランクさを、私はあまり求めてないから。
例えば作りすぎたおかずをタッパーに詰めて譲り合うような関係こそ人情味、とは思わないから。
東京は、ちゃんと優しい。

