妻の記憶によると、
その日妻は買い物の帰りに路地に入っていく大人と子供を見かけたという
最初は親子か何かだとおもったが、手を引かれる子供が執拗に嫌がり、抵抗する姿があまりにも凄かったという
妻は気になり、こっそり跡をつけた
大人の男はサングラスにマスクをつけていたが、花粉症の時期のせいだと、特に違和感は湧かなかったという
男は泣き喚く子供の手を引き、鉄工所内へ入っていった
それでも跡を追いかけながら、警察へ連絡をするが事件性がないという判断から警察は相手にしてくれなかった
あまりに暗い鉄工所は普段から営業してないような雰囲気だ
慣れた手つきで施錠を解き、男は所内へ入っていく
ふと頭をよぎったのは、最近起きた事件だ
1ヶ月近く前に児童行方不明のニュースがあった
まだ足取りは掴めず、未だ行方不明のままだ
まさか…と思い、息を殺して所内にまで跡をつけた
工場の設備の電源が入る
溶かした鉄を整形する設備だ
真っ赤に煮えたぎる鉄の匂いがする
男は子供の手足にチェーンを巻きつける
口にはガムテープを貼り、泣きながら抵抗する子供
子供が女の子だと分かった
ただならぬ雰囲気の中、警察へ連絡すると、ただごとではないと察した警察がやっと動いた
一度所内からでて、周りを見渡し現在位置を警察へ知らせる
最寄りの交番から現場へ急行指示がでるも
最短15分の距離だという
決定的証拠になると、携帯のカメラを起動する
動画撮影を行う
彼女はそこで画面越しに信じられない生き地獄を目の当たりにすることになる
両手、両足を縛られ、言葉も発せない女の子は椅子に縛られ、台車に乗せられる
熱風だけでも暑くて息もできないだろう場所に小さな子供が置いていかれる
子供はすぐに気を失い項垂れる
次の瞬間
子供の頭から熱せられた鉄が降ってきた
嗚咽がした
携帯も持っていられないほど手が震える
まだかまだかと警察を待つ
人の体が焼けただれて、崩れ落ちる
人の形になっていく真っ赤に熱せられた鉄
人が焼ける匂い
関節が溶け、人の形を保たない
あっという間に原型がなくなり
もはや人だっとは思えない鉄の塊
鉄に埋もれる骨
するとどこからか高らかな笑い声がする
「人が焼けるのを初めて見たか!」
「芸術だろう!」
「脆いだろう」
見つかっている。
携帯を落とした。
拾うこともなく、出口へ走る
出口の鍵がかかっている
出られない。
外には警察の車両が来ている
警察が必死の思いで扉を開ける
すると、男は自ら監視台に立ち
「無力。国家の英雄、警察も所詮無力」
「組織にしばられ、体裁ばかりを守るだけの集団に俺は捕まらない」
そういう時男は監視台から煮えたぎる鉄の窯の中へ飛び込んだ。
再び人が焼ける匂い。
たちこめる異臭。
そこで、気を失った。
そして、犯人身元不明のまま、行方不明事件は終結した。
前に行方不明だった児童もここであの子と同じように殺されたようだ。
嘲笑うかのように机の上に並べられた名札が二つ。
そして、彼女は無力な警察に怒りを向けるようになった。
嘲笑うかのように、笑いながら人を殺せるほどに。