先日、10名程の管理職登用試験の候補者のプレゼンテーションを評価する機会がありました。感動するプレゼンテーションをした候補者がいた一方で、非常に厳しい評価をした候補者もいます。それを踏まえて、私の思う所をお伝えしたいと思います。

キーワードの1つ目は「エトス、パトス、ロゴス」、2つ目は「上司視点/顧客視点」、3つ目は「伸びしろ」です。

営業というお仕事は、自分ひとりの能力ではなく、技術者や経営者、様々なステークホルダの力を併せ、顧客に価値を提供しなくてはなりません。

会社の全責任を自らが負い、長期的な観点で、最前線で業を営むのが営業と言えます。

そして、営業の成果を左右するのは、商品やサービスの機能性能だけではありません。

素晴らしい商品や企画をチームと共に作り上げることはもちろん重要ですが、その優れた価値を、自らの言葉や態度を通して、顧客に直接届けるという、重要な役割を営業は担っています。

営業の最前線で求められる重要な能力は、しっかり事前の準備を行い、当日はそれをベースに顧客に出来るだけ分かりやすく伝え、不測の事態においてもその場で臨機応変に対応する力、であると思います。実際、私の知る優れた営業は、それを苦にせず、当たり前のように、楽しみながら実行します。

最前線における営業活動は、その毎回が採用を左右するプレゼンやコンペであったり、ディベート大会であるということを、意識したほうが良いと思います。

重要なキーワードの1つ目として、プレゼンやディベートの双方において重要となる次の3つを理解し実行する能力が求められ、日頃から意識してトレーニングする必要があります。

① エトス:信頼・安心

② パトス:感情・感動・情熱

③ ロゴス:論理

この中で私が最も重要と考えるのは①信頼(エトス)です。

仮に③論理(ロゴス)が完璧で、②情熱(パトス)が伝わってきても、何か腑に落ちない部分が残り、信頼が置けない人とは、その後の関係が継続することはありません。

少なくとも私は、そういった人から、何かを得たいとは思いませんし、継続して対話したいという感情が起きないのです。

次に重要になるのは②情熱(パトス)です。最初に考えた仮説提案は、ほぼ間違うものです。顧客との対話での気付きを糧にし、また次の仮説を新たに構築し、あきらめず進化させ続ける為には、その人の情熱や熱量が大切になってきます。相手を話しに引き込む、喋りのテンポも大切になります。

最後に大切なのが③論理(ロゴス)です。論理というと理屈っぽさをイメージする人も多いかもしれませんが、一方的な屁理屈ではなく、万人向けの「わかりやすさ」といえます。ここがスマートに整理されていることで、相手に伝わる情報量が格段に上がります。自分がいかに分かっているつもりでも、相手に伝わらなければ、営業的には価値はゼロです。プレゼンやディベートの本番当日に至る事前の準備として、分かりやすく伝えられるように、極力シンプルに整理し、出来る限り多くの人にレビューしてもらいブラッシュアップすることを、徹底的にやっておくことが重要となります。

プレゼンテーションにおいて、私たちは往々にして「③論理(ロゴス)」を中心に物事を考えてしまい、「②情熱(パトス)」や「①信頼(エトス)」といった側面を軽視してしまいがちです。しかし、それでは人を説得し、感動させ、動かすことはできません。 昔からよく言われることなのですが、人は理屈では動かないのです。

ポイントの2つ目は、会社(上司・同僚)視点と顧客視点の双方で見つめることです。良否の判断がしやすくなります。

社会人、営業職、人生の先輩として、私個人の考えとして、少なくとも先に述べた①信頼(エトス)、②情熱(パトス)、③論理(ロゴス)の何れかが著しく不足している同僚や後輩、部下などを見たときに、単独ではお客様先に行かせられないと判断しますし、ましてや管理職への登用などは考えられません。そのレベルに至るための教育を考える必要があります。

日頃、もう一方の視点として、顧客側の視点で人を見ています。もし私が顧客の立場だとしたならば、少なくとも①信頼(エトス)や②情熱(パトス)に欠ける営業担当や、それを容認する会社とは継続して付き合いたいと思いませんし、場合によっては出入り禁止にすることすらありえると思います。重ねてお伝えしますが、営業は長期的な信頼関係の構築が重要なのです。

さて、話しを元に戻して、営業管理職に求められる要件として、もちろん先に述べた、

は①信頼(エトス)、②情熱(パトス)、③論理(ロゴス)を、自らが体現していることが前提となります。自らが理解もしておらず、実行も出来ないことを、部下に指導できるはずもないからです。

また時折、自らがプレーヤーとして体現出来ていても、いざ部下を持った時に、部下に対して適切な指導できない人もいます。

内村鑑三は、「人生の目的は品性の完成」であると言いました。自らの利益の為にだけ行動するのではなく、広く公益のために行動したいと考えるならば、有限の命を持つ自らの能力を高めるだけでなく、後進の育成に取り組むことが、真の公益にかないます。

これからの日本をより良い社会とするには、国を担うリーダーの人間性を高める事が必要となります。

先の管理職登用試験の候補者プレゼンで私が感動するプレゼンテーションをした候補の一人を近くで見ていました。その準備の念入りな準備や、直前まで自身が出来得る限りのことをやりきる姿勢は、他の候補者を凌駕していました。

一方で、非常に厳しい評価をした候補者は、私のところに一度も相談に来ることがありませんでした。いつでも誰に対しても窓は開けているのですが、そこに来る者、来ない者、積極的に対話する者、避ける者、まちまちです。結果も相応なものでした。

ポイントの最後、3点目は「伸びしろ」です。現在の担当者としての優秀さだけで、管理職に登用してはいけません。この先、管理職として更に大きな事業を任せ、さらにその事業活動の中で、若手の成長をまかせられる人材なのか、見極めを行う必要があります。

この「伸びしろ」というのは、年齢的なことだけではありません。

若くても、周囲に助言を求めない、自らの考えに固執してしまう人がいますし、反して、比較的高年齢でも好奇心旺盛で、周囲とのコミュニケーションをしっかり取り、柔軟な思考を持つ人もいます。

一方、年配の方でも若手の成長に興味を示さず、積極的に関与したがらない人もいますし、若手であっても周囲のメンバーの成長に資する情報発信を積極的にする人もいます。

その人自身の伸びしろや、周囲の若手の成長を阻害する人材を管理職にしてはいけません。会社の幹部が求めているのは、管理職の登竜門である課長の先、部長、事業部長、執行役員へと伸びしろを持つ人材なのです。

自信や慎重さを持つことは良いともいます。

しかし、過信であったり、ネガティブな発言を周囲に振りまく人については、管理職としての資質に欠けると、私は考えます。

2019年9月8日



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