ゆっくり読みたかったので、貼らせて頂きました☆



 http://www.nikkei.com/article/DGXZZO60097200U3A920C1000000/



 日経 Web刊   【表情の美学(杉田秀男)】


 ソチ五輪はプログラム勝負に 重要性増す振付師

 2013/10/2 7:00



 2014年ソチ冬季大会へ向けて、フィギュアスケートの五輪シーズンが本格的に幕を開ける。日本は男女ともメダルを期待できる布陣だが、海外勢との大激戦が予想される。銀盤の争いを占っていきたい。


 前回の10年バンクーバー五輪後のルール改正で、フィギュア選手の戦い方は大きく変わった。「4分の1回転以上、2分の1回転未満」の回転不足については、現在は基礎点の70%を与えられるようになった。それまでは高度なジャンプを失敗すると大幅に減点され、男子では4回転ジャンプを回避する選手も出てきて物議を醸した。挑戦があって初めて技術は進歩するもの。選手もすっきりしただろうし、ルール改正は評価したい。



  **優しい出会い**



コーチ、振付師とともにチーム戦に


 その結果、いまや男子は4回転ジャンプを跳ぶことは当たり前の時代になった。女子の場合は、浅田真央(中京大)だけが実際に試合でトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に挑戦しているが、どの選手も5種類の3回転ジャンプを入れてくるようになった。男女とも選手間で技術的にやっていることに大差がなくなってきており、今回のソチ五輪は「プログラム勝負」といえるかもしれない。


 だからこそ、コリオグラファー(振付師)の存在がものすごく大きくなっている。選手の個性を生かしながら、技術をどう表現し、音楽とどう調和させるのか。腕の見せどころだ。選手からすれば、優秀なコリオグラファーに出会い、優れたプログラムをつくってもらえるかどうかで今後が大きく左右される。選手、選手を指導するコーチ、そしてコリオグラファー。3者の共同作業、チーム戦の様相を呈している。



浅田、五輪SPは慣れ親しんだ曲で


 五輪シーズンに滑るプログラムが次々と明らかになってきた。昨季と同じショートプログラム(SP)「パリの散歩道」を滑る羽生結弦(ANA)のような選手もいれば、SPでショパン作曲の「ノクターン」を7季ぶりに披露する浅田のように慣れ親しんだ曲で内容を充実させ、五輪シーズンに挑む選手もいる。もちろん、フリープログラム「ビートルズメドレー」に新たに取り組む高橋大輔(関大大学院)のように曲を一新する選手もいる。


 選手やコーチらの戦略は様々だろう。音楽は替えていないけれど、去年のプログラムを一層グレードアップして内容は替えているというケースもあれば、新しい曲で選手の引き出しを増やして、ジャッジに対してまた違ったイメージで評価させようという狙いもあるだろう。SP、フリーの両方とも新たにプログラムを作り直すのは、技術に加え、表現力や音楽の解釈が優れている選手でないとなかなかできることではない。



同じ曲でも工夫あればプラス評価


 ただ、戦略は思惑通りにはいかない面もある。ジャッジの目から見ると、選手が慣れているからといって、同じ音楽で過去と同じプログラムを滑ればすぐにピンとくる。仮に去年と内容も同じだったなら、「もうちょっと何とかならないのか」と思うもので、結果的に去年と同じ評価になるだろう。


 だからこそ、同じ音楽で基本的には内容はそれほど変わっていなくても、何らかの工夫が絶対必要になる。「昨年と比べて変化があって、よくなっているな」とジャッジをうならせることができれば、それはプラス評価となる。


 一方、プログラムを一新する場合にもリスクがつきまとう。プログラムは自分の技術の最高のものを入れて一番いい状態のときを想定してつくるものだが、シーズン初めはエンジンがかかりにくく、なかなか思った通りには滑れないものだ。特に今の選手は大会以外のイベントなども増えてオフが少なくなっているから、新プログラムを滑り込む時間も足りない。



シーズン終盤へステップアップ必要


 だから、最初の試合で結果が出なくても全く気にすることはない。たとえ失敗をしても、何が原因で失敗したのかを冷静に分析することが大切だ。滑り込むたびに動けるようになり、内容は濃くなっていく。そうすると、やりたいプログラムと同じ形にほぼ持っていける。シーズン終盤へ向けて、いかにステップアップしていけるかが重要だ。


 「プログラム勝負」になるだろうが、選手の技術が勝敗を分けるのは言うまでもない。ジャンプは、男子はクリーンな4回転をいかに跳べるか、そして4回転―3回転といった連続ジャンプがポイントになるだろう。




女子のジャンプ、カギを握るルッツ


 女子のジャンプは、ルッツがカギを握るかもしれない。女子の場合は骨格の影響があるのか、ルッツとフリップの左足(右足)で踏み切る際のエッジ(刃)の使い分けに苦しむ選手が多い。ルッツがアウトサイドエッジ、フリップはインサイドエッジだが、それぞれ逆になってしまうことが多く、減点の対象になる。ただ、難易度が高いルッツはフリップより基礎点が高い。ルッツをクリーンに跳べれば、フリップでミスをしたとしても傷口は小さくてすむ。


 ジャンプだけならチャンピオンクラスが何人もいるような時代。ジャンプばかりに目がいきがちだが、ジャンプ、スピン、ステップの3つの要素のバランスが取れている選手はそう多くはいない。


 特にステップというのは、基本のスケーティングができているかどうかで大きく違ってくる。実際、ジャンプ、スピンは素晴らしいけれど、ステップになると、とたんに動けなくなる選手がいる。ステップをしているときによく動く選手というのは、エッジの使い方がクリーンだ。正確な動きで全体に余裕が出るから、内容も表現もよくなる。



基本徹底の浅田、ステップが自然に


 浅田はバンクーバー五輪後から佐藤信夫コーチの指導を受けている。佐藤コーチは基本のスケーティングをものすごく大事にする人。浅田は世界チャンピオンになった選手だけに最初は大変だったらしいけれど、それでも辛抱強く基本の大切さを彼女に説いた。その結果、浅田はいまは上下動もなくなり、とても自然にステップをこなして拍手が出るようになった。基本のスケーティングが一番よくなったと思う。


 ジャンプで加点を取るのは大変だが、スピンは本当にいいスピンをすれば加点はもらいやすい。スピンでいかに点を稼ぐかも重要な要素となる。男女とも大接戦が見込まれるソチ五輪のメダル争い。総合力が問われている。


(日本スケート連盟名誉レフェリー)



杉田秀男(すぎた・ひでお) 1935年1月16日、東京都生まれ。現役時代はフィギュアスケートのシングルの選手として活躍し、56年の全日本選手権で優勝、世界選手権にも出場した。引退後は審判に転身し、68年から国際審判に。五輪には日本チームで3度、審判として2度参加した。現在は日本スケート連盟名誉レフェリー。