小説家の赤江瀑さんが死去 YOMIURI ONLINE 2012年6月18日(月)19:31
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/life/20120618-567-OYT1T00999.html
伝統芸能や古美術の世界を舞台にした幻想的な小説で知られる作家の
79歳だった。本人の遺志で告別式は行わない。自宅は山口県下関市長府宮崎町9の22。喪主は弟、友紀(とものり)氏。
下関市生まれ。日本大芸術学部演劇学科を中退後、放送作家を経て1970年に「ニジンスキーの手」で第15回小説現代新人賞を受賞。
74年に「オイディプスの刃」で第1回角川小説賞、84年に「海峡」と「八雲が殺した」で第12回泉鏡花文学賞。
赤江さんは一人暮らしで、8日夕に自宅を訪ねた助手が、居間で倒れているのを見つけ、18日公表した。
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既に8日の日に亡くなられていたのですね…10日以上前になります。
後で聞いた話しでは「夜の藤十郎」の上演台本に、加筆訂正を終えられたばかりだったそうです。
実はこの訃報も、Mさんのメッセージで初めて知り、しばし茫然でした。
赤江作品との初めての出会いは「獣林寺妖変」で、この一冊でハマリました。
歌舞伎の世界を背景にした狂気が描かれたこの作品がきっかけで、京都に散在する血天井巡りもしました。
表題の「獣林寺」のモデルとなった京都洛北にある「正伝寺」には、当時何度か訪れ、作品の雰囲気に浸ったものです。
静かな禅寺で、縁側に座り比叡山を借景にした庭園を眺めて、ただぼーっと時が流れるのを待つ…には持って来いの場所でお気に入りでした。 頭の上には「血天井」だったんですけどね…!
そのあとは、取り付かれたように赤江作品を読み漁りました。
「ニジンスキーの手」「花曝れ首」「花夜叉殺し」「罪喰い」「阿修羅花伝」「雪花葬刺し」「オイディプスの刃」「恋怨に候て」「八雲が殺した」「野ざらし百鬼行」「夜の藤十郎」・・・・
作品の中から(私の)ベストワンを選ぶなら「花曝れ首」…文頭から素敵で惹きこまれます。
嵯峨の野の奥、小倉山の北山麓といえば、このあたりは夏のさかりの陽曝らし道を歩いていても、
闇の黄泉路のおどろなかげが、ふと見あげた揚げ店造りの人家や軒場や木立の葉裏、
草間の底にさまよい出でて、眼を灼く陽ざしにつつまれてはいるけれども、
なにやら手まねき袖引きする黒い見えないものの手が、不意に間近で身をおどらす。
赤江さんの作品には、こういった美しくて妖しげな文章がちりばめられていて、それが惹かれる理由かもしれません。
山尾悠子さんの解説に「現実と妖魔の棲む世界との交錯が肯定された世界」とありましたが、
妖しくて、美しくて、哀しくて、怖いお話しです…映像で描けたらさぞ美しいだろうと思いますが…
果たしてこのお話しの世界観を描けるものかどうか?! 下手したら安っぽくなりそうです(-"-;A
昨夜から文庫本を何冊が引っ張り出して、何篇か読み返し、私なりの「葬」をしていました。
四世鶴屋南北を題材にした「恋怨に候て」も大好きです。
ここまでディープに嵌った作家さんは、後にも先にも赤江瀑さん一人でした。
淋しく思います。
心よりご冥福をお祈り致します。