中型・大型と幅広いサイズのモンスターが存在する。そんな世界でも、竜人族を主とした人類は村を築き、日常生活を送っていた。しかし、村を出ればモンスターが生息しているし、出なくてもモンスター側から接近して来ることもある。生活を脅かすモンスターは討伐、もしくは撃退しなければならない。竜人族らがモンスターハンターの世界に村を築き上げてから数百年。人類の技術は圧倒的に進歩した。長年かけて生まれたシステム。それが、『人類ハンター化システム』だ。
第1話・決意と旅立ち。轟く咆哮と共に
ハンター化システムのおかげで今や何千もの人がハンターを職業としている。村や街の安全もハンターのおかげで保たれていた。しかし、ある日、たった一日でハンターはモンスターの恐ろしさを改めて知った。正確には飛竜種の恐ろしさを知ったのだ。モンスターハンターの世界で最も大きな街、グモーグ。そこへ飛竜を数多く従えたピエロの仮面をつけた男が現れ、次から次へと街を、人を、壊し殺していった。グモーグへ集ったハンターたちも無数の飛竜を前に為す術もなく倒れていった。
「人類の破滅。これは序章に過ぎない。僕はいずれまた無数の飛竜を従えて人類に攻撃を仕掛ける」
飛竜種、アカムトルムの背中で一人、そう告げるピエロの仮面をつけし男。その男の元へ一人のハンターが辿り着く。
「よくここまで来られたね。歓迎するよ。現時点でハンター界最強と言われている、ラミエル・ファントム」
「お前が何者かはこの際どうでもいい。飛竜を従えているのがお前ならば、ここでお前を殺してしまえばいいだけのことだ」
ラミエルは背中に装備している太刀を鞘から抜く。
「ハンター条例に背くんだね。ハンターはモンスター以外を素手であっても故意に攻撃してはいけない。僕は人間だよ?」
「飛竜を従え、人類に仇なすような存在はもはや人間とは呼べぬ! ラミエル・ファントム、参る!」
「やれやれ」
ピエロの仮面をつけた男はアカムトルムの背中から降り、ラミエルの太刀を右腕で止める。腕装備によって刃は防がれ通らない。
「僕だってハンターです。あなたを傷つけることはしたくなったのですが……。先にやられたので正当防衛ってことでお願いしますね」
一瞬の殺気とともに、ラミエル・ファントムは膝から崩れ落ちる。左胸からは大量の出血。心臓を突かれたのだ。
「いつまでも懐を空けて突っ立ているから殺されるんだよ。ああ、もう聞こえてないか。ハハッ! さようなら、ラミエル・ファントム」
無数の飛竜を従えしピエロの仮面をつけた男は、その日の内に襲撃し、その日の内に姿を消した。
グモーグ襲撃事件から10年の年月が過ぎた。小さな村、バルトの農場で15歳の青年が桑を武器に見立てて素振りをしていた。
「おーい、またハンターの真似事やってんのかゼット」
農場を管理するお爺さんが素振りをしている青年、ゼットに声をかける。
「真似事じゃねえ! 俺はハンターになったんだ!」
「馬鹿なこと言ってるんじゃねえよ。いくらハンター細胞と適合したからって、お前の父親がどんな末路を辿ったのか知ってんだろ」
ゼット。ゼット・ファントム。10年前、グモーグ襲撃事件時に計30頭もの飛竜を討伐したものの、最終的にはグモーグの外れで何者かに刺殺されていたラミエル・ファントムの実の息子だ。
「知ってるさ。知ってるからこそ俺は……!」
「刺殺した者が飛竜を従えていた者だと言うのはほぼ確定している。それを知ってからお前はハンターになるとうるさくなった。復讐のためだけになって続けられるほど、ハンターは甘くはねえんだぞ」
農場を管理しているお爺さんもかつてはハンターだった。グモーグ襲撃事件の日、右腕と左足を食い千切られて引退を余儀なくされた過去を持つ。今は義腕と義手で農場を作り、そこで収穫したもので生計を立てているのだ。そして、父の死後、母も後を追うように自殺し、身寄りのなくなったゼットを引き取って農場の手伝いをさせているのだ。
「あの襲撃事件の首謀者はまだ生きてる。だとしたらまたあの日と同じことを起こすかもしれないんだ。だったら―」
「だったらお前が止めるって? ハンター細胞を手に入れたばかりのひよっこが何抜かしやがるってんだい。そこに復讐心があるだろう」
「復讐はしたいさ。でも、あんな悲劇が起こるのなんてもうい嫌なんだ!」
あんな悲劇。それは父を失ったことを受け止めきれないまま母すらも失った幼き頃の記憶が、想いがそう言ってる。
「勝手にしろ!」
「言われなくてもそうさせてもらうさ!」
ゼットは持っていた桑を投げ、農場を出た先にある家へと入り、支給された武器、鉄刀を背に装備してバルト村を出ようとする。バルト村の出入り口で、バルト村の教官が立っていた。ゼットに気付くなり、よお!と右手を挙げて挨拶をする。
「この村を出るのか?」
「はい。強くなって、グモーグ襲撃事件の犯人に迫りたいと思います」
ゼットは自分の意思をはっきりと教官に伝えた。反対され、止められるとばかり思っていたゼット。しかし、教官は反対しなかった。
「そりゃあ険しい道のりになるなあ! 親父さん超えてみせろ。お前の名が、このモンスターハンターのハンター界に広まることを祈ってるぞ。行って来い!」
教官はゼットの背中を思い切り叩いて激励した。
(痛ッ! こりゃ背中に紅葉出来るな)
バルト村を出て数百メートル進めばそこは原生林と呼ばれる狩猟域マップに認定されているエリア。原生林でこれまで確認されているモンスターは色々といるが、どれも現状のゼットの武器では倒すことは難しい。遭遇しないことを願いながら進むしかない。
「原生林を抜けた先にはディアス街がある。そこでギルド入団申請だな。ギルドディアス所属になれば基礎からきちんと学んで強くなれるはず」
毒沼も存在している原生林の中央部へとゼットは到着する。そこでゼットは遭遇してはならない存在を目にしてしまう。
「イーオスの親玉、ドスイーオスを喰らってやがる……。冗談だろ、あれって」
原生林中央部でドスイーオスを食しているモンスター。それは轟竜ティガレックス。幸いまだ気付かれてはいない。ゼットは逃げることをしないでティガレックスを見ていた。
「飛竜の一種。従えられてる感じはなさそうだな」
ゼットがその場を去ろうとした時、轟竜が持ち味の咆哮をあげる。それは、ゼットの存在に気がついたから。
「やっべ!」
ゼットの元へと突進で向かってくるティガレックス。
「早すぎんだろ! 無理……!」
ゼットはティガレックスの突進を避けきれず直撃。そのまま吹き飛び、ゴロゴロと転がっていく。通常の人間ならここで気を失うか死ぬかなのだが、ハンター細胞を手に入れた身体なら耐えることが出来る。それでもそれ相応のダメージを身体は受ける。
「これが大型モンスターの突進。思った以上に痛えぞ」
鉄刀を鞘から抜き、構えるが、実力上討伐が不可能なことはゼットも承知の上。それでも遭遇してしまった以上戦闘は避けられない。
「まず、逃げれそうもないし、逃げるってことを許してくれなさそうだ」
ティガレックスは威嚇をしながらゼットの様子を伺っている。
「迷うくらいなら、まず前へ出る!」
ゼットが突っ込みティガレックスの頭部へと鉄刀を振り下ろす。飛び散ったのはティガレックスの血……ではなく、鉄刀の破片。そして、ゼットに足元に刺さった鉄刀の大元の部分だった。
「嘘だろ……。支給武器折れちまったぞ」
ティガレックスはその場で自らの身を回転させ、ゼットを今一度吹き飛ばす。いくらハンター細胞を取り込んだ身体といえば、慣れていないゼットはもう戦意喪失状態。武器も失い、身体中が悲鳴を上げている。『死ぬ』―その単語だけがひたすら頭をよぎった。
「死にたくねえ……。死にたくねえよ。まだ、始まったばかりなんだよ!!」
そう叫ぶと同時に目の前が光りに包まれる。あまりの眩しさにゼットは目を覆う。そして、収まってからすぐに目の前を確認する。そこには目眩ましを受けたティガレックスがその場で何度も回転行動を繰り返していた。近づくことは出来ないが、逃げることは可能かもしれない。しかし、ゼットとティガレックス。その間に先ほどまではいなかった白いフード付きマントのハンターが立っていた。フードを深く被っている為顔を確認することは出来ない。
「ありがとう。今のは、閃光玉ってやつか?」
「そう、閃光玉。今の君では手に余るモンスターだ。今ここで君に死なれては困る。ゼット・ファントム」
そのハンターはゼットの名を知っていた。だが、ゼットは知らない。必死に記憶を辿っても知らない者だった。
「誰だよあんた。俺は知らねえぞ」
「僕は……そうだ、メシアとでも名乗っておくよ」
そう言って、メシアはゼットに武器を渡した。それは双剣。ゼットはハンターを目指すと決めた時にギルドが把握している武器が全種類掲載されている雑誌を購読し、記憶している。しかし、その双剣はゼットの知らない双剣だった。
「知らないのも無理はない。これは伝説の鍛冶職人が鍛錬して生み出された対飛竜双剣」
「対飛竜双剣……?」
「名は爆竜牙【双ノ刃】。他にも爆竜牙は存在している。僕はそれを選ばれしハンターに渡そうと旅をしている。そして、双剣に選ばれたのはゼット・ファントム、君だ」
「信じられるか!」
そうこうしている間にティガレックスの閃光状態が解けてしまった。ティガレックスは威嚇をし、攻撃の態勢へ入る。
「ならば、飛竜であるあのティガレックスに試してみるといい。爆竜牙は爆破属性の武器だが、飛竜を相手にする際は特別でね。必ず刃を通し傷をつける。そして、傷つけられた部位は弱点部位へと変化する」
「じゃあ、全身を平等に傷つければ全身が弱点になるってことかよ」
半信半疑ながらもゼットはティガレックスと対峙する。先ほどまでと違い、不思議と身体が軽快に動く。
「爆竜牙は選ばれしハンターのハンター細胞と共鳴し、使用者の動きをサポートする。さあ、戦え! そして飛竜を圧倒するんだ!」
いくらかのダメージを受けながらも、ゼットは爆破牙【双ノ刃】でティガレックスを討伐した。
「メシアって言ってたな。どうして対飛竜の爆竜牙を配ってるんだ?」
「グモーグ襲撃事件を君は知っているね? 近い未来、その首謀者が再び飛竜を従えて襲撃してくる。信じるか信じないかは別だが、爆竜牙のことだけ信じ、認めてくれればそれでいいです。今は、実力をつけていってください。では、さようなら」
メシアは地面に球状のものを叩きつけた。そして、緑色の煙が上がりメシアを包み込む。煙が消えるとそこにメシアの姿はなかった。
「モドリ玉か! だったら原生林に設置されているベースキャンプへ行ってやる」
ゼットは走ってベースキャンプを目指す。しかし、到着した時にはもうメシアの姿はなかった。
「仕方ねえ。信じてやるさ」
ゼットは爆竜牙【双ノ刃】を1本ずつ左右の腰へと装備し、原生林を抜けた先のディアス街を目指す。
