「…はい」
両手に持っていたカップのひとつを、陽輝はゆりに差し出した。

「ありがとう。あの、陽輝ここは…」

「あぁ…小さな家だろ?ここは…母が亡くなるまで、一緒に過ごした家だ…。

母は…俺にこの家を残してくれた。部屋は借りているが、ここが俺の家だ…。部屋は解約しようと、考えている…」

陽輝は優しく微笑んで言った。

「そう…大変だったのね…」

「それより、ゆり…スタジオには来るな、と言っただろ?」

「あ…ごめんなさい」
うつむきながら、応えた。

「済んだことは構わない。ゆりが気になって居ること…話したほうがいいのかな…?」
陽輝はゆりを、見つめた。



陽輝はゆっくりと口を開いた。

「桜花と俺は、学生の時に知り合った…。音楽の趣味が合うことから、意気投合して…バンドを組んだ。その時はまだ、珀と俺…桜花だけだった。」

学校の文化祭で、コピーした曲を演奏した。それを見ていた、蓮がバンドに加わった。

後に、蓮の詩に陽輝がメロディーを付け、自分たちのオリジナル曲も、何曲も出来た。

徐々に活動の場を広げ、ライブが出来るようになった。最初は、何人も居ない会場で演奏した。

ゆっくりだが、確実に陽輝達、black・lilyは人気を集め、限られた人だが、ウワサにのぼるようになった。

「ゆりも聞いたと思うが…。ある日のオーディションで、桜花だけが…大手のプロダクションの目に留まった。

桜花は悩んでいた。black・lilyをとるか…デビューするか…。

そして、そのうちに…行動を共にしなくなった。練習に来ても、どこかおかしかったんだ…」

陽輝は、ゆっくりと話すとカップに唇をつけた。

「…コーヒー、入れ直すか…?」