消化試合がめんどいので気晴らしSS
「ちょ、ちょっとまって。こっち見て話してくれないかな」
ぼくの背後から焦ったような声が聞こえる。この反応はまぁ予想していたとおりだ。
振り返らずにもう一度同じ言葉を繰り返す。
「いや、今月末には会社辞めるから。もう部長にも言ったし、許可ももらった」
いまぼくは手元の週刊誌を読むのに忙しいので、少しわずらわしげに言い切った。
「何でわたしに、一言の相談も無く勝手に決めちゃうわけ!?そんな大事なこと!!」
洗い物の手を止めキッチンから出てくる。
「あなた!漫画ばっかり読んでないでこっち向いて!!」
・・・週刊誌です。
「貯金もいくらも無いのにこれからの生活どうするのよ?どうやって食べていくのよ!?」
「祥子」
「なに?」
沈黙が流れる。彼女である祥子はぼくの返事を、固唾を飲んで待っているだろう。
その隙に、週刊誌に耽る。
「・・・」
「・・・」
痺れを切らしたのか、我慢ならなかったのか、祥子はぼくの正面に回りこみ週刊誌を取り上げた。
「あっ、おい、今いいところなんだよ」
「ふざけないで!そんなことしてる場合じゃないでしょう。どうしてこう、真剣さがないのかしら」
「いたって真剣だったのだが」
「漫画にたいしてじゃないわよ!」
さすが連れ合い。わかってらっしゃる。
「何で辞めたの?」
週刊誌を取り上げられた以上、答えないと返してもらえなさそうだ。
「向いてないっぽいからなぁ」
「っぽいで物事決めてたら、何にもできないじゃないのよ!バカ!」
「まだあるぞ。やっぱりほら、仕事に生きがいというかやりがいを求めてみたり、理想と違ったりしてだな・・・」
「もっと現実を見てよぉ・・・」
そういって祥子は泣き崩れた。顔を両手で覆い隠し、これからの生活を危惧しているのだろう。
ぼくはそっと祥子に近づき、手から零れ落ちた週刊誌を手に取りソファに腰掛けた。
物語は始まったばかりだ。