(……?)


着物を纏った少女は、二人の人間――本から浮かぶ小さな姿には、驚くことに気づいておらず――を目の前にして、きょとんとしてしまった。

そして少女はあることを考えていた。嫌に深刻そうな表情で、だ。


暫しして、当方のみに訪れていた沈黙を少女が静かに破る。


「…ねえ、ボロ子ちゃん」

「ほけ」

「この人たち、……誰なのかな?」

「ほけー」

「ん、そうだよね。ごめん」


知る由のない問をしてしまったと、少女は眉尻を下げた。

しかし少女は、自分でも何故こんな質問をしたのかわからなかった。


この人たちは、誰なんだろう?


驚くほどに純粋な疑問。

その中に、否その疑問を抱いたとき心を過ぎった思いに深い意味があったことに。

少女は、気づくことはなかった。



ふと少女は、二人組の方へ視線をやった。

二人は小声で何かを話しているように見える。否、そうとしか見えないのだが。


「…ぁ、ね、ましゅ?見てるよ、こっち…」

「え、ちょ…そんなこと言われても困るし…ッ」

「お、おなか、すいたんだけど」


ぼそぼそとした話し声は少女の耳にも入るが、少女は耳が悪いのか小首を傾げた。

ただ、少年が口にした言葉は少女の耳に強く残った。



「あの」

「は、はいッ?」


若干うわずった返事に少し遅れ、少女は袂のあたりに手を忍ばせた。

手を戻すと、少女の手には竹の皮の包みがあった。

藁でしっかり結ばれた、丈夫そうな包みである。



「おにぎりでよければ、どうぞ」



少女は両手で大事そうに包みを持てば、二人組にそっとさしだした。


二人組は、どこか驚いているようにも見える。

一方少女は、自然と微笑んでいた。




硝子についてきてよかったのだろうか。

わたしにはみえないものが多すぎる。
わからないことがありすぎる。
 
硝子は、あれから口を1度も開かない。
目をとじて何かつぶやいてるようにもみえる。
全く、話していることといい、行動といい、不可解なことばかりおこなう。

詮索はしないことにしているが。


(ん・・・?)
歪んだ世界のように、悪夢のあらわれのように、平面が、空間が
何らかによってくずれていくような感覚におそわれる。
肌を舌でなめられたようにザラリと撫でられた気がする。

(ああ、気持ち悪い・・・わたしどうなるんだろう。硝子は?)

いやに冷静だった。
なぜだろう。

そして、なぜか首筋が痛んだ気がした。




ーーーーーー…はぁ。
ためいき?
ここはどこだろう?
みたことあるような場所。
みたことあるような人達。

あたたかい空気。気持ちのよい感覚。


ここはわたしの居場所・・・?

彼らはわたしのことを知っている?
(待って!!)

思って、求めて、出したい声がでない。駆けよりたい体は動かない。

(待って!!)

こんなに心から叫んでも、叫びたい声が出ない。

(待って!!)

次に叫んだとき彼らは、この空間はもうなかった。
かわりに、硝子と田園。

「でんえん。」

硝子はそうつぶやいた。

(は・・・?)
「で、でんえん!?」


「暗闇からは出れたわ。ただ、出る場所はランダムなの。
私にはどうすることもできない。」


ここはランダムに選ばれて、わたしたちの居場所となった。
でも、いやにできすぎている。
ほんとうに何もない。わたしたちをあざ笑うかのように。
自然の音のみしか・・・ない。

すくすくと米はそだっているみたいなのに。
無人。静かというか、むしろこの静けさは不自然なくらい。


「ぼやっとしないでよ。わたしの前では。」
たまに硝子は悲しい影をみせる。

「ゴメン、ゴメン!!とりあえず、歩こうよ。
進めば誰かに会えるかもしれないしさっ」


コクリと小さくうなずく。


私たちは広い畦道をあるきはじめる。


…FINCと出会ってから、小一時間ほど歩いた。

けれど…辺り一面、田園風景。


「だ、誰もいないし。街、見えないし。風景、変わらないし。」

「お、お腹空いた…ね。俺いちお、食べ盛りだ…し。」

「ま、ましゅったら、やっぱり正反対だったんじゃないのっ。」


(…このまま、まだ成熟していない稲から無理矢理、

 米をむしりとって…田んぼの水でふやかして食べるのかな…。)

三人の脳裏に、そんな恐ろしい光景が一瞬よぎった。


三人は溜息をつきながらあぜ道に足を投げ出した。

コンクリートがしかれていないため、小石でごつごつしている

自然のままのあぜ道に手をつき、三人は空を見上げた。

空を見ると、もうだいぶ太陽が傾いてきている。


(いくら今の季節はまだ日が長いからって、

そろそろ寝泊まりするところを探さなくては。)


三人の顔に焦りの色が浮かんだ。

…しばらく三人はそれぞれ物思いにふけっていた。



「…ん?」

のけぞって後ろをぽかんと眺めていた麻朱莉が

何かに気がついたように、ふと口を開いた。

「…誰かいるみたいだ…よ?」


二人はしばらくその言葉に気がつかず

空をぽかんと見つめていたが、

二分ほどして『はっ』とし、麻朱莉の視線をたどった。


「…こ、こんにち…は…。」

朱毬がぎこちなく『ぺこっ』と頭を下げた。

「ど、どもー…。」

FINCが売れないお笑い芸人のような安っぽい挨拶をした。


「…。」

なんというか、『スラッ』とした和服の少女がそこに立っていた。

肩に、不思議な生命物体を乗せて。

…会ったことは無いはずなのに、不思議と懐かしさをおぼえた。

そして、三人はその少女の頬の「02」という数字に釘付けになった。


(私…何か…何か大切なこと、忘れてる…。)

麻朱莉は『はっ』とした。

二人の表情を見ると、二人とも同じことを考えているようだった。


「…ねぇ、ましゅ…?

服…に、さ。数字が…さ。」

朱毬が、とても不思議そうに言った。

「04…だって…。」


「…!!

FINC…05って…05って!!」


三人は、自分たちの正体をまだ思い出せないようすだった。


そして…これが、三人と“彼女”の出会いだった。


-続く-