放課後の職員室。
登録がない着信があったとき、僕は3歳下の新人教師に偉そうに説教していた。
生徒との向き合い方なんて高尚な言葉を並べ立てながら、僕は新人教師の胸元をちらちら見ていた。
目の前でうなだれているこの新人教師も、心の中ではきっと僕の小言にあきれながらツッコミを入れている。
そんなことを考えながら、それでも先輩風を吹かせたい衝動を抑えられない自分が格好悪いと思った。
どうせこの新人教師だって僕のこの卑猥な視線にもとっくに気づいている。
おそらく2時間後には彼氏に僕のこの情けない説教と、いやらしい目つきの愚痴をこぼすのだろう。
新人教師の視線が、僕の理想論的教育論が一段落したときに、その細く白い左腕に落ちた。
白く清楚なその腕時計の針は20時を指していた。
名曲「夜風の仕業」が僕の携帯から流れてきて、うつむいていた新人教師の西沢唯はおずおずと僕を見た。
僕は登録のない着信に少し不穏なものを感じ、唯にもう帰るように促した。
待ってましたと言わんばかりに薄いグレーの鞄を手に取ると、肩にかかった栗色の髪を揺らして会釈した唯は、
小走りに職員室を出ていった。
そのふんわりとした残り香りを吸い込みながら、僕は通話ボタンを押した。
「突然すみません、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」
3年ぶりに聞くそのくぐもった声は、低姿勢だが僕の時間の有無など実際はまるで気にしていないようだった。
「これから会えませんか?・・・秋元康です」
僕はほとんど、「はい」という言葉しか発することができなかった。
そして電話を切り、秋葉原へ向かった。