更新、間が空きました。ごめんなさいです。つづきですm(_ _)m。
 
 
 
 
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フードコート内の喧騒と、目の前の食事が乗っているトレーが、ひどい違和感だった。
 
ものすごく場違いで、食欲は脳内から消え失せていたけれど、『チイ坊』の心細そうな「ママ」という呟きに、下腹に力が入った。
 
「チイ坊、タイ坊がドクターヘリで病院へ運ばれる」
 
「え!?(゚o゚;どうして!?近くの病院!?」
 
「ヘリだから、近くじゃないよ。どうしてなのかは、パパが後から連絡くれる。
でも、パパが連絡くれるにはママのスマホを充電しなきゃ残り9%」
 
「(@_@)!?」
 
「だから、急いでごはん食べて家に帰るよ。タイ坊の入院荷物も用意しなきゃならないし」
 
「わかった!」
 
チイ坊が急いで食べ始めた。わたしも、ネガティブに押しつぶされないように、無理矢理トレーの上の麺類を口に押し込んだ。
 
 
それからは、自分でも驚くくらいすばやかった。
10分以内に食事を済ませ、まずタイ坊の修学旅行用カバンを購入。入院荷物を入れる為に必要だったし、『必ず、修学旅行に行ける』という自分の願掛けでもあった。
 
駅前の駐輪場で自転車を引き取り、家に直行。
館内放送を聞いてから40分後には家の近所まで戻ってきていた。
 
 
そして、家からほんの50㍍。
左に曲がれば道の突き当たりに我が家が見えるという場所に、人だかりが出来ていた。
 
ご近所の方々と、タイ坊の同級生の子ども達。
 
息がつまった。
 
「あ、帰ってきた!奥さん、どこ行ってたの!?大変だったんだよ!」
 
自転車から降りて、ゆっくりチイ坊と自転車を押して人だかりに向かう。
 
「ここだったんですか?現場は……」
 
人だかりの中心に入り、地面のアスファルトや周りに目をやり、凄惨な跡がないことを一つ一つ目に焼き付ける。
 
家から、まっすぐ50㍍。忘れ物を取って、戸締まりして、玄関出てから自転車こいで1分もかかるかどうかという距離で、
 
こんな事故。
 
ダンナさんとチイ坊と自転車を押しながら歩いていた時に、住宅街の中からメイの遠吠えが聞こえてきて、
 
「あ、今『タイ坊』が家を出たところだね。メイの寂しい~って声がここまで聞こえるんだね」と、笑いながら話していたのに。
 
そこで待ってるかすぐに引き返したら、違和感に気づいて、現場に駆けつけられたのに。
 
100㍍もしない距離を戻って角を曲がったら、そこに見えたのに。
 
後悔の大波が押し寄せてくる。
 
「ヨーカドーで館内放送を聞いて、主人がドクターヘリで付き添うことが出来ました。今は病院へ向かってます」
 
「会えたんだね。良かった!」
「自転車でぶつかって、飛んで、頭打って、オデコがすごい腫れててね。」
「すごい大きな音がして、出てきたら、タイ坊くんが倒れててね」
「くつも向かいの家の塀越えて飛んでてね」「今、警察が現場検証終わって帰っていったところなんだよ」
 
目まぐるしく声が飛び交い、訊ねる間もなく情報が流れ込んでくる。
 
「見てごらんなさいよ!前、フロントガラスがひどいことになってるから。」
 
横の道端に車が停車していた。前にまわると運転席の反対側のフロントガラスが丸く凹み、ヒビが走っている。こんな高い位置まで身体が浮いて、頭がぶつかって跳ね飛ばされたというのだろうか………。
 
言葉もないわたしに、おそるおそる近づいて頭を下げた女性がいた。
 
誰ですか……?
 
「あの、息子さんを車ではねた者です。私が運転してたんです」
 
「はぁ……」
 
わたしと同世代。たしか、子ども達の通う小学校の保護者の中で見かけたことがあるような……気もする?
 
「いつも通ってる道なんでスピードはそんなに出してたつもりはないのですが、注意してたんですが、息子さんが急に自転車でそこの角から出てきてぶつかってしまって……」
 
「そうなんですね……」
 
このT字路は、大通りからの抜け道になっているような部分もあり、道幅が狭く子ども達の通学路になってるわりに交通量も少なくない。
 
いつも、一旦停止して車がこないかチェックしてから出るんだよと、
 
自転車に乗り出してからは数え切れないほど話してきていたけれど。
 
たぶん、『置いてかれた。追いつかなきゃ』
 
そんな思いでいっぱいになって、焦って、飛び出したのだろう……と、感じた。
 
「あの、私の名前と連絡先です。お母さんの連絡先を教えていただけますか?」
 
渡されたメモを眺めながら、女性にわたしとダンナさんのスマホ番号と名前を伝える。
 
伝えている間にスマホの充電を思い出したが、家の戸締まりを最後にしたのはタイ坊で、そのまま鍵を持って病院へ行ってしまったことを思い出し……青ざめた。
 
家族みんなで出かけるつもりだったので、合い鍵ひとつしか持って出なかったのだ。
 
マズい!
 
「チイ坊、ばぁばの家誰かいるかな?」「見てくる!」アパートの一階の部屋へ駆け出していくチイ坊。
 
ご近所の方が口々に、
 
「出かけてるみたいなの!電話かけてもチャイム鳴らしても反応ないのよ!」
 
「あなた方が出かける後ろ姿が見えたから、息子くんの同級生のママさんがヨーカドーに行ったのかもって話してね。ヨーカドーに電話して館内放送かけてもらうようにしたの」
「お母さん、電話繋がらなかったから」
 
……すみません。6月に機種変して、連絡先変わったの教えてなかったです……。(>。<)
 
なんか、色々、面目ない状態。
 
そんな時に、ダンナさんから電話がきた。
 
あわてて出ると「LINE見て。病院着いた。色々情報書いてるから。タイ坊は検査中」
 
充電残量少ない中、とりあえず、これだけは伝える。
 
「タイ坊とぶつかった運転手さんに会って、連絡先もらった。ダンナさんとわたしの番号教えたから、連絡いきます。あと、鍵をタイ坊が戸締まりしたから、家はいれない!」
 
ダンナさんが「マジか~」と、天を仰いだ気がした。
 
「母さんは?」
「でかけてる」
「甥っ子は?」
「でかけてる」
「父さんは?」
「ジィジは、デイサービス行ってる日」
「なんだそれ~!」
 
「とりあえず、待つ。入れたら、入院荷物まとめて、そっち向かう」
 
スマホ残量2%。電話を切った。
 
LINEを見ると、運ばれた病院のHPとアクセスが乗ってた。
 
とりあえず、ダンナさんに事故の車を写真に撮り、LINEで送った。
 
警察の検証の後に騒ぎをききつけて集まってきたらしい同級生の子達は、
 
「タイ坊くん、大丈夫ですか?」
 
「血だらけだったんですか?」
 
「修学旅行行けるんですか?」
 
「修学旅行?行けるの?マジ、ヤバいでしょ!」
 
男の子は心配そうに俯きがちだったけど、寄り集まった女の子達は、怪談話やうわさ話をするような盛り上がった様子で
「ヤバい」を連発している。
 
「まだ何もわからないからね」
 
悪気は無いのだろうけど、こんな時にノリだけの会話を身内の前でするのは、どうかと思う……。゚(゚´Д`゚)゚。
 
 
つづく



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