レノが仕事に復帰したのはそれから三日後だった。

 三日間の無断欠勤だったため、ツォンさんにしかられてから仕事を始めた。

  「よっ!ルード。久しぶりだぞ、と。」

 いつもの調子でレノはルードに声を掛けた。

 ルードは、レノの明るい表情を見て少し笑っていた。

   「大丈夫なのか?」 

  「おう!大丈夫。心配掛けてすまねぇ・・・。」

 <俺には一言もないのか> 二人を見ながら俺はそんな事を考えていた。

  「レイ!」

  「ん?」 俺は<やっとかよ・・・。>と思いつつ反応してやった。

  「・・・。昨日は迷惑掛けてすまなかった・・・。」

  「いいさ、あれぐらい。お安い御用だぜ!」

 レノは、小さい子が悪い事をして母親に怒られたような顔をしていった。

  「ほら、早く仕事しろよ!じゃねぇと仕事。どんどん溜まっていくぞ。」

  「うん、ありがとな」 俺は息をつきながら仕事を再開した。

 しかしその時、誰もレノの異変に誰も気が付かなかった。

 レノの帰還に安心しきっていたからだ。ツォンさえも・・・。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー    俺がレノの異変に気が付いたのは それから更に五日後だった。

 今は、昼休みでレノとルードで食堂に来ていた。

 俺は見慣れた赤い色を見つけたからルードと分かれて飯を食うことにした。

    「レノ」  俺はいつものようにレノに声を掛けた。

 しかし、レノは何の反応を示さなかった。

  俺は肩に手をおいて少しレノを揺すりながら声を掛けた。

    「レノ!!」

  レノは思い切りおどろいて椅子からずり落ちた。

   「いってぇ~~~!!」 

 「レノ、どうしたんだ?」

 レノの事を心配して俺は聞いてみた。

  「何が?」

  「何がって・・・。お前、最近ぼーっとしすぎじゃねぇか?」

 しばらく俺とレノは、気まずい空気の中互いを見ていた。

 沈黙を破ったのは俺だった。

   「一体、お前に何があったんだ?」

   「・・・に・・・・い・・・。」

 俺はあいつがなんていったか聞き取れなかった。

   「ん?もう一度。」

 レノは、スッと立ち上がってその場から小走りで逃げ出した。

   「おい!レ・・・・!?」

 俺は見たんだ。レノが涙を流しているのを・・・。

 人前では決して見せない本当のあいつを・・・。

 俺は、あいつを追いかけようとする足を無理やり止めた。

 追いかければよかったのかもしれない。

 でも、心の中では<追いかけたらだめだ>と言っている。

 俺はその時、どっちが正しい行動だったのかもう分からなかった。

 ただ、これだけは言える。

 俺は、泣きながら逃げていくあいつを見ていることしかできなかったということだ。

 その日の夜。俺は仕事を終えた後、レノに誤ろうとしてレノの家に向かった。

 あの後、赤く目を晴らしたレノの前で仕事を続けた。 レノは、何も言わずに機械的に仕事をしていた。


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 それからだ。レノがだんだんと無口になっていくのは。 原因は俺かもしれない。

 あの時ほっといたらよかった。 レノだってたまには一人になって考えたいこともあったのかもしれない。

 お前のことは絶対に忘れない・・・。


     レノ視点 でお読んでください。



   今日は丁度三年目のあいつの命日だ・・・。

   あいつは泣き言など一言も言わず、いつも笑って人生を歩んでいた。

 

   三年前。あいつは俺を守るために死んだ・・・。

   そして、あいつの人生という時計は時を刻む事をやめた。


   俺は、あいつに助けられた命で時計を刻んで生きている。

   

   だが、俺の時計はあの日から時を刻む事をしない。

   

   俺が心の中で流し続けている涙で錆び切ってしまったからだ・・・。


   俺はあいつのために、前向きに生きなくてはいけないのは頭では分かっている。

   でも、前向きに生きるためには時計の錆びをすべて取り除かないといけない。

   どうしたら時計にこびり付いた錆びは取れるんだ?

   

   だれでもいいから教えてくれよ。 頼む。


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    レイ視点 でお読みください。<オリキャラです。こいつは>



  あれから、今日で三年がたつ・・・。

  この三年間、レノは 「笑う」 事をしなくなった。

  レノの心の中から 「喜び・笑い」 が抜け落ちた。

  たった三年でだぞ・・・?


  あいつが死んだのは俺にとっても、タークスにとっても、新羅カンパニーにとっても大きな損失だった。

  あいつがいたから今まで俺たちは陽気に仕事ができたんだ。

  

  本当に、しんどいデスクワークだってあいつがいるから気楽にできたし、

  長期任務から帰ってきた時、あいつの笑った顔を見るだけで疲れが吹っ飛ぶくらいだった。


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  あの日。電話が掛かってきた。

 

   ; トゥルルルルル トゥルルルルル ・・・・・ ガチャ :

   

     「レノか?」

   電話に出たのはツォンだった。

     「任務完了だぞ、と・・・・・。」

   その弱弱しい言い方で、俺はレノの様子がおかしいことに気づいた。

     「代わって、ツォンさん! レノ?俺だ。レイだ!何があった!?」

   単刀直入に言った俺の作戦は有功だったらしい。

   レノの声は明らかに震えを帯びていた。

     「・・・が、あいつが・・・。・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・。」

   その後は、ぜんぜん言葉になっていなかった。

     「とりあえず、帰って来い。話はそれからだ。分かったか?」

     「分かった・・・・。」


   : ツーツーツーツー ・・・・・・。 :


   俺は、嫌な寒気が背中にゾワゾワッと走り向ける感覚を感じた。

    「なにがあったんだ。」

   ツォンが聞いてきた。 ほかのタークスのメンバーも。

    「レノ・・・。泣いてた・・・。何があった?って聞いたら言葉になっていなかった。

     だから、とりあえず話は帰ってきてからしろということにした。」

   

   ふと外外をみると、土砂降りだった。

    「俺、レノを迎えに行って来る。」

   すると、今まで傍観者であったレノの相棒のルードが席を立った。

    「それなら俺が行こう。」

   そりゃ、最もな意見だった。しかし俺はそれを拒絶した。

    「いや、俺が行く。確かに、相棒であるお前が行ったほうがいいかもしれない。

     けどな、今回は何でか知らねぇが、今回は俺が行かなけりゃいけない気がするんだ。」

   レイが言うことはなぜか妙な説得力があった。

    「・・・ ・・・。そうか。そう思うならお前が行って来い。」

   俺は、ルードに感謝した。

    「今度、酒奢ってやる。」

    「わかった。」



   レイは、新羅カンパニーを小走りで出た。レノに電話を掛けるためにアドレスを呼んだ。

    <出てくれよ・・・。>

    ; トゥルルルルル ルルルルル ・・・・・ ルルルルル ルルルルル ・・・・。  ;

    

    「レイ?」

  

    「あぁ・・・。今どこにいる?」

   俺は、レノが電話に出てくれたので安心した。

    「駅前の・・・公園のベンチに座ってる。」


    「わかった。今からそっちに向かうから、雨宿りでもして待ってろ。」


    ; ピッ・・・ ツーツーツーツーツー ;

  

   俺は、びしょ濡れになるのもかまわず、駅前の公園まで全速力で走った。

   早くいかねぇとヤバイと思ったからだ。


   電話を切ってから五分後。公園に着いた。

   公園は暗かったが、レノのあの赤い髪のおかげですんなり見つかった。


    「レノ。びしょ濡れじゃねぇか・・・。」

   俺はレノにスーツの上をレノの肩に掛けながら言った。

    「・・・ ありがと。」


    「さっ、レノ。神羅に帰るぞ。」


    「うん。あのさ、話しながらでいいか。さっきの事。」


    「お前を家まで連れて帰ることにするよ。そんなぐちゃぐちゃな顔、ルードには見せられないからな。

     みんなには俺から言っておくからさ。

     ほら、傘させよ。」

   持ってきた傘の内、一本をレノに渡した。

    「サンキュー・・・。」

   やっとレノの笑顔が見られた。苦笑いだったけど・・・。

   

   それから、数分後レノはポツポツと話し始めた。

    「あの任務さ。お前も知っていると思うけど、アバランチの幹部の情報が入ってそれを確かめるために向かっ

    たんだ。珠洲と、俺で。俺たちが組めば人数が多くとも、任務は絶対に成功するからな。」


    「そうだな。」


    「確かに、そこにはアバランチの幹部 フヒト の奴がいた。

     ツォンさんは ; もし、幹部がいたなら殺していい ; と言われていたからすぐに実行に移したんだ。


     途中まで調子がよかったんだが、俺が少しヘマをしてな。重要な任務のときにだぞ?

     それで、俺は フヒト に打たれそうになったんだ。あいつは、それを見て珠洲は

     俺の前に立ちはだかって、俺の目の前で フヒト に打たれた。即死だった・・・。

     

     俺は、怒りで「リミットブレイク」を爆発させ、 フヒト を、そして、その周りにいた下っ端も殺したんだ。

     任務は成功した。でも、俺は仲間を殺したんだ。俺のへまによって。」

 

   最後のほうは、嗚咽混じりで言った。

    「レノ・・・。そりゃ、つらいし、悔しいし、悲しいさ・・・。

     でも、それが珠洲の運命だったかも知れない。

     珠洲は、仲間を守って死んだんだ。


     誰であっても人を、大切な人を守って死ねるんなら、これ程嬉しい事はない。


     これ、親からの言葉なんだけどな・・・。

     俺は、親を二人ともお前と同じ様な状況で殺された。

     だから、お前の気持ちは凄く分かってるつもりだ。

 

     でも、思いの大きさは違うよな。

     だって、唯一の肉親 と 赤の他人 では、ぜんぜん違うもんな。

     でも、思っている事は似ているだろう?


   しばらく、二人の間に沈黙が流れた。


    「俺と、あいつさ」 

  沈黙を破ったのは レノのほうだった。

    「ん?」

 

    「実は、俺とあいつ。腹違いの兄弟だったんだ。」


    「!? マ・・・。マジかよ・・・。」


    「この事を知っているのは、社長とツォンさんだけだぞ、と。

     知ったのは、ごく最近だ。たまたま休暇がもらえて、柄にもなく故郷に立ち寄ったんだ。

     その時、珠洲が俺の家に入っていくの見かけたんだ。


     俺は、家には入らずに、中の様子を伺ったんだ。

     すると、お袋ともう一人女が居たんだ。そいつと珠洲は仲がよさそうに話をしてたんだ。

     しばらくそうしていたけど我慢できなくなって、家に入った。


     すると、そいつと珠洲は驚いた顔をして俺を出迎えた。

     俺は、いろいろ問いただした。お袋にも、その女にも珠洲にもな。

     珠洲は、俺が腹違いであるけど、俺が兄であることを知ってたんだ。


     お袋はいつか言おうと思っていたらしい。けど、言おうと思ったときすでに俺がいなくなってたんだ、と。

     悲しいよな。珠洲にとったら。俺が先に入社していて、後から入社した時驚いただろうな。

     俺は、お袋にこんな仕事をしているなんて一言も連絡してないしな。」


   <ツゥンサンたちは何をしてこのこと知ったんだろうかはどうでもいいけど・・・。>

   俺は、そんな事を思いながらレノの話を聞いていた。


    「つらかっただろうな本当に。珠洲・・・。」


目の前にはレノの住んでいるマンションが見えてきた。

    「レノ、着いたぞ。」

 

    「レイ!ありがとう。ルードじゃなくってよかった。」


    「風邪はかないように部屋に入ったら暖かくして寝ろよ!!」


    「そっちもな、と!お休み、レイ。お前に聞いてもらって、すっきりしたぞ、と。」

  ほとんど、いつものレノに戻った気がした。

  けど、これは俺の勘違いであると気づくのはレノが仕事に復帰してほんの少ししてからだった。