空模様…こんなひとつのラヴソング 63(幻想曲19) | 気紛れな心の声

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気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「へ~、アイツ巧いじゃん」

新九朗は、あかねを見るわけでもなく、あかねの視線に答えるように呟いた。

「……きちんと作られた曲じゃないみたいだよ」

「えっ?」

「曲が同じだけ…そこに即興で詩を乗せていっている、だけらしいよ」

「そうなんだ」

新九朗は、少し寂しげに笑いをこぼしながらつぶやいた。

この詩が、即興のものなら、この頃の方が一真には才能があるように感じる。少なくとも唱を歌う事に関しては、いまほどに残念な才能ではない。それに、この頃の方が楽しそうだ。何処かゆとりがあるけれど、それでも、口元が必死さを見せている。

「うん、でも、見せたいのは、聞かせたいのは、このあと」

あかねは、新九朗から視線をはずし、静かに、ポツリと呟くように言った。

「いまのもいい感じだったけど、約束」

「そうね…嫌いじゃないわ…これも、でも」

「???」

「このあとの曲は嫌いかも」

あかねが呟くと、画面では、一真に女性が駆け寄り何か言葉を交わした。

何を言っているのかは判らないが、一真も青年も表情を一変させた。それも本の一瞬だった。すぐに何事も無かったように微笑みながら頷いている。ただ、一真の顔からは、ゆとりは消えていたが。

「風餓」

「えっ?」

「風餓っていうチームだったそうだよ」

「ん?」

「違うわね、誰かがそう言い出しただけ、一真たちはただ、バイクを走らせていただけらしいけど…走るための暴力、ううん、走っている事が暴力だよね」

「暴走族?」

「ちょっと違うみたいだけどね…就職して、少し聞けば簡単にわかったんだけど」

あかねは、ふーっと溜息を漏らしながら、チラッとバスルームの方へと視線を向けた。

「一真は、その方面では有名人だったかもね」

「そうなんだ」

「うん、あたしは一真の表面だけを見ていた、後輩の表面だけ、人懐こく、面倒見のよい後輩」

「陰の部分は、誰よりも深い?」

「ん、きっとね、影を作る事で、自分の陰を見せないようにしていたのかもね」

「?」

「風餓…その影は、陰に隠していたのかな」

「???」

新九朗は、あかねが何を言いたいのか判らなくて、あかねの顔を覗き込むようにして次の言葉を待った。

ふ~。と、あかねは新九朗をチラッと見ながら溜息をつき、少し間を空けてから、「私ね、一真にもう少し新九朗と音楽を追いかけて欲しくて…」とポツリポツリと話し始めた。

確かに一真は、一歩引いたような感じで音楽に取り組んでいた。それは、新九朗からしても何処か不満を感じている部分ではあった。でも、それには何らかの訳がある、と思っていたからこそ何も言わなかった。一真が、自分から一歩踏み込んできてくれるようにと引っ張り続けた。

それでも、それほど変わらない一真に、そこに向かう意志はないのだろう、と勝手に感じていた。

一真がそれ以上に身を引くことも無ければ、応援もサポートも必死にしてくれている。それだけで充分だった。画面の中のようなゆとりは見せてくれた事は無いが…。

あかねは、涙をこぼしながら、まっすぐに新九朗に向き合い言葉を繋いでいく。

何故、一真にそう言ったのか。そして、そこにあった自分の思いを。

男と女。感が方感じ方は違うものだ。

ただ、女ほど男は、ひとつの事だけを見つめて行動はしない。自分に向けられる思いは、時として暴走し、手がつけられない事もある。きっと、その先にあるのが犯罪なのかもしれない、と新九朗は苦笑を漏らした。

まっすぐに向けられている思い。それがありがたい。

でも、湧き上がるモヤモヤとした苛立ちが生まれたのもまた事実だった。

「そんな話しをしたんだ」と、あかねは、口を摘むんだ。

「…それでか」

新九朗は、カッとなった感情を押さえつけるように、声を押し殺す様に呟いた。

一真は、少し距離を置くようになった時がある。まだ、あかねが在学していた頃だ。その時は、興味がそれたのかな?程度に捉えていた。それでも、一真は、ずっと応援を続けてくれる。声をかければ、それなりに音を奏でてくれるようにもなった。だから、あまり気には留めていなかった。でも、思い返せば判る。あの頃から、一真のギターに惹かれなくなっていた。それを得てしてできるのかどうかはわからないが、不意に一真の中から音が消えたような気がした。

「ごめんね」

「いや、あかねが謝ることじゃないさ」

新九朗は、焦点の合わない感じで画面を眺めながら言った。正直なところ、戸惑っている。

記憶の中の一真の姿は意外と曖昧だった。あの頃、どう感じていたのかなど判らない。だからこそ、今の戸惑いがあった。

「でも、何故いまなんだ?」

「この後、唱を歌った後だけど、一つの事件が起きるの」

「?」

「それから、一真は、誰かを牽引する事も、先頭に立つ事も少なくなったわ」