こんにちは。なかにしゆいです。



前回のつづきです。


あの白い家がアナの住む家だと知ったわたしは、驚きと感動でしばらく動けませんでした。



アナに手を引かれ中に足を踏み入れると、そこにはアナのお母さんが立っていました。



背が低く、ほっそりとした優しそうな女性でした。



『ハロー、ユイ。アイム、メリッサ』


彼女はつたない英語で挨拶をしてくれました。


アナが言った通り、彼女のお母さんはまだ英語を話すことに慣れていないようでした。



わたしは彼女をミス・メリッサと呼ぶことにしました。


ホストマザーは早口でミス・メリッサに何かを確認していました。



アナが通訳に入り、中国語で説明しなおしていました。



わたしは緊張していました。


ホストマザーはミス・メリッサがちゃんとわたしをホストする気があるのかどうか、いつからここに住んでいるのか、どういった仕事をしているのか、永住権はあるのかなど、なにやら色々と質問をしていました。



アナの表情がどんどん無表情になっていきました。



きっと怒っていたのだと思います。


そしてアナが言いました。



『わかりました、ネルソンさん。

これから父を呼びますから、気になることは全部彼に聞いてください』



わたしはアナのその態度にびっくりしました。



ホストマザーの見た目は大柄で、目つきも鋭く、話し方も攻撃的です。


わたしは彼女と対峙すると、


いつも蛇ににらまれたカエルのように萎縮していました。




【15.悪魔】囚われの身、不自由な心


けれどアナは違いました。



彼女はやはり自然体で、堂々としていました。




【3.女帝】ありのままに、わがままに、それでOK


アナの父親の到着を待つ間、



家の中の空気はピリピリしていました。


ミス・メリッサはホストマザーにまくし立てられたのが怖かったのか、別の部屋に行ってしまいました。



わたしはホストマザーの顔を見ることができず、かといってアナと話すこともできず、言いようのない焦燥感を感じていました。



「もうすぐアナのお父さんが帰ってくる!

どんな人だろう…お父さんは英語喋れるのかなぁ。

怖くない人だといいなぁ…」



そんなことを思いながら、待つこと数十分。


アナのお父さんが帰ってきました。



わたしはドキドキしながら、彼が部屋の中に入ってくるのを待ちました。


そしてドアが開き、中に入ってきた人物は…


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出典:cinematoday.jp



『…マッカーサー?』

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出典:blogs.discovery.com


現れたのは、長身の大男でした。


黒い帽子に黒いサングラス。


口には黒い葉巻をくわえ、


黒いウインドブレーカーを着た全身黒ずくめの彼は、


『メン・イン・ブラック』よりもブラックな格好をしていました。


てっきり中国人男性が現れると思っていたのに、彼はどこからどう見ても白人男性で、わたしが想像していた人物とは大きくかけ離れた容姿をしていました。


彼の名前はジミー


ウインドブレーカーを脱いだジミーは、制服を着ていました。


左肩には『POLICE』と書かれたワッペン。


腰には警棒と拳銃。


『…け、警察官!?』ゴクリ。

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出典:livedoor.blogimg.jp


これにはホストマザーも驚いていました。


ジミー登場で、そのあとの手続きはスムーズに行われました。


コーディネーターのグローリアにもその場で電話をかけて、話をつけてくれました。



【4.皇帝】一家の大黒柱として大活躍!


わたしはホストマザーと一緒にネルソン家へ戻り、すぐに荷造りをしました。


ダッドは仕事でいなかったので、ホストマザーとアマンダに別れを告げて、ネルソン家を出ました。


アマンダはつまらなさそうな顔で、
『…Bye』とだけ言いました。


彼らとの最後は、とてもあっけないものでした。


アナが宣言した通り、


わたしはその日のうちに引っ越すことができました。


ネルソン家から出て行くことができました。


まるで夢を見ているようでした。



【21.世界】完璧な調和、最高最善の今ここ!


アナの家に戻ったわたしは、改めてジミーに挨拶をしました。


わたしはビビッていました。ジミーが怖かったからです。


彼は無口で、何を考えているのかわかりませんでした。


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出典:cinematoday.jp


3年前、ミス・メリッサは親子2人で渡米し、ジョージアでジミーと出会い、恋に落ちて結婚したそうです。


アナはジミーのことを名前で呼んでいました。


わたしはおそるおそる、ジミーに気になっていたことを質問しました。


『あの…サングラスはずっとかけたままなんですか?』


我ながら間の抜けた質問だなと思いましたが、わたしはそのことがとても気になっていたのです。


するとジミーは、黙ってサングラスを外しました。


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出典:reinbach-junbow.blogspot.jp


カールじいさんでした。


ミス・メリッサ(40代後半)とは、10歳以上年が離れているように見えました。


ジミーはムスッとした顔をしていましたが、それが普通の表情なのだとアナが教えてくれました。


ジミーはわたしの顔をじっと見ながら、静かに問いかけました。


『君が彼らとうまくいかなかったのは、君が原因かい?』


『…はい。そう思います』


『彼女は君のことを〈racist:レイシスト〉と言っていたが、そうなのかい?』

※レイシスト…人種差別主義者


わたしはびっくりしました。


ホストマザーがわたしのことをそんなふうに思っていたなんて、衝撃でした。


わたしはジミーにきっぱりと言いました。


『わたしはレイシストではありません。
彼らを差別したことなんてありません』


むしろ彼らの方が、わたしを馬鹿にする発言を繰り返していたではないか。


わたしは腹が立っていました。


どうやらホストマザーは、
『あの日本人は黒人に対して差別意識を持っている』
とグローリアにも言っていたそうです。


ネルソン家の人達は黒人でした。


けれどわたしは黒人に対して差別するような発言をしたことは一度もありませんでした。


ジミーはそれ以上何も言わず、うつむいていたわたしの頭をポンポンと軽く撫でました。


『人間は誤解しやすい生き物だからね。

これからはそうやって自分が思っていることをはっきりと口にして行けばいい。

ここはアメリカだ。

言いたいことを言っても誰もきみを嫌いになったりしない』



顔はムスッとしているのに、ジミーの言葉は温かく、胸に響きました。


わたしは泣きました。


嬉しくて涙が止まりませんでした。





アメリカに来て3ヶ月が経とうとしていました。


たった3ヶ月の間に、さまざまなことを体験しました。


ミシガンでの楽しかった語学研修。


シンプソン家と過ごした最高の夏。


ジョージアでスタートした高校生活。


9.11同時多発テロ。


ネルソン家との不和。


そしてアナとの出会い。


どれもこれも、今まで経験したことのない世界でした。



【19.太陽】異質なものを受け入れた先に待っていた驚きと喜びの世界


今までのことを振り返りながら、


「これからはアナとミス・メリッサとジミーとの新生活が始まるんだ」

「彼らと良い関係が築けるよう頑張ろう」



と、新たな気持ちで前進しようと決意しました。



【1.マジシャン】新しいスタートを切ることへのワクワク



…が。

現実はそう甘くありませんでした。



わたしはこの1ヵ月後、アナの家から出て行くことになります。


運命はわたしに、更なる試練を用意していたのです💦


けれどそれはまた別のお話…✨


《おわり》


シリーズに最後までおつきあいいただきありがとうございます!\(^o^)/