[…ルール説明は以上になりますが質問は御座いますか?]
事務的な男の声が流れるスピーカーを睨む23人の若い男女。
「「はい!!」」
静まる空気の中、月明かりを浴びた一組の双子が手を上げた。二人は大勢の視線を受けながらニコニコ笑っている。
深夜の体育館に集まった年齢、性別がバラバラな十数名の男女
先程スピーカーの男が言ったルールとは【ゲーム】に関してのモノ。
2ヶ月に一度
赤い満月が昇る晩、事前に厳選な抽選を終えた20人の男女が無人の建物に集められ【ゲーム】を行う。
【かくさつ】
番号を付けた参加者がフードを被った黒いパーカーを着た"鬼"の仮面を着用した゛鬼゛を捕まえる『逆鬼ごっこ』
近年20代の若者を中心に注目を集めている政府公認の【裏ゲーム】である。
制限時間(48時間)終了までに一番多く"鬼"を捕まえた参加者の勝ちとなり、一つだけ望みを叶えてもらえる。ちなみに敷地から出た場合はリタイアとなる。
"鬼"は様々な『武器』や『手段』を使って抵抗してくる。それに対し、参加者が如何にして捕らえるかが一部賭けの対象にもなっている。
[何でしょう?
69(狼喰)さん
96(喰糧)さん]
再び流れた声は少し嘲笑っているように感じた。
「「さっき聞いたルールを守れば、後は何しても良いんですよね~?」」
[そうですね。"鬼"を捕らえるために誰かと組むも良し、武力行使も良し。皆様の判断に任せますが、お客様を退屈させないようにお願いしますね?]
回答を聞いた双子は「はーい♪」と嬉しそうに手を取り合った。それから数分が過ぎ、質問が出ないと判断した男はベルを鳴らす。その音は体育館だけではなく校舎、校庭にまで響いた。
[これより第九回【かくさつ】を開始致します。皆様の御活躍、御武運を願います]
ピッ、とスピーカーが切れたと同時に勢いよく体育館を飛び出した数人とは対称的に、のんびりと歩くのは【かくさつ】経験者達。
「"白目"の居場所掴んだのか?」
後ろの方で屈伸をしながら革手袋をつける84(刃踊)は体育館を出ようとした69(狼喰)と96(喰糧)に尋ねた。
赤茶色の髪を揺らして満面の笑みで振り向いた双子の様子に盛大な溜め息を漏らす。
「はあ…何かあったら連絡しろよ?」
「「了解♪また後でね~」」
跳び跳ねて出て行った双子の後ろ姿に再び溜め息をつき、体育館を出た。
ザシュッ…ジュ…ジュル………
「な、何だよコレ…おい主催者!!こんなの聞いてね、ぶぐっ!?…がっ、あ゛ぁ…」
ドサッ
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下で黒いマントを被った"鬼"と対峙していた男が叫んだ瞬間
間合いを詰めた"鬼"が男の右手首を切り落とした。しばらく男を見下ろしていたが動かなくなった事を確認すると、右手首を懐に入れて校舎へ姿を消した。
「開始から5分20秒……ルーキー君、次はココを使いな?
52番リタイア!!」
出血のショックで気絶した男の横に屈み、こめかみをトントンと叩いてスピーカーに向かって叫ぶ。すると迷彩服を着た男が倒れている男の身体を担いで飛び去った。
【かくさつ】が支持される本当の理由
それはもう1つのルールにあった。
参加者は事前に身体の一部にバーコードをつけられ、それを"鬼"に奪われたら『強制リタイア』となる。
しかも"鬼"は普通の人間ではなく、薬で運動能力を特化させた化物だ。
化物と人間が戦ったらどちらが勝つのか?
どれだけの人数が生き残るのか?
どんな戦いを魅せるのか?
皆、スリルを期待して高額な視聴料を払って見るのだ。
「さて、どっちから来るんだ?」
立ち上がった84(刃踊)の前後に一体ずつ"鬼"が現れた。慌てるどころか挑発的な視線を投げ掛け、出方を伺う。
ザシュッ!!
「おっ、と……今度はこっちだ、なっ!!」
両方向の"鬼"が同時に突っ込んで来たのを交わして頭上に飛んだ。
《成果はどう?》
耳に付けていたイヤホンから69(狼喰)の声が流れる。返り血をシャツで拭いながら音声スイッチをONにする。
「渡り廊下で2匹。そっちは?」
足元に転がる2体の首を眺めながら煙草に火をつけて答える。
《僕達は校舎内で7ひ…あ、いま8体目倒した。あのさ~、お願いあるんだけど……》
双子に関わるとろくな事がない。だが付き合いの長い彼らの願いを断るのも忍びなく、溜め息を吐く。
それを肯定と捉えて口角を上げる69(狼喰)
《96(喰糧)が面白い人拾ったんだけど、足手まといでさ…だから》
「引き取れってか?」
《さすが♪二階の美術室に向かわせるから宜しく》
一方的に切られたイヤホンに苛立ちながらも校舎内へ足を踏み入れた。
『皆様、お待たせ致しました。84番、刃踊が校舎内へ入りました。
それに伴い二時間後、"白目"を三体放します。更なる残虐と興奮を御期待ください』
第9回【かくさつ】開始10分経過
リタイア1名
"鬼"13体
"白目"0体
まだ《ゲーム》は始まったばかり