有吉佐和子著の「華岡青洲の妻」を読みました。

華岡青洲は、欧米よりも40年も前に、世界で初めての全身麻酔による乳がんの手術をした実在の人物です。50代の時には、かの杉田玄白からも教えを乞いたい旨の手紙も届くほど。(玄白80歳)。


物語の主人公は、この青洲の妻となる加恵。

青洲の母、於継に望まれて嫁入します。

華岡家は家格としては加恵の実家妹背家より下なので当初気乗りのしなかった父も加恵の気持ちにほだされてこの縁談を承諾します。

というのも、華岡家に嫁いできた於継が大層美しく、また評判の賢婦人であったことから、かねてより加恵は於継に憧れていたのです。

夫青洲は京都に遊学中で、夫不在の中、輿入れして華岡家の人間になります。

当初は、於継は加恵を実の娘のように可愛いがるのですが、青洲が帰宅するや否や、態度が冷たくなり、静かに、そして激しくドロドロの嫁姑戦争が勃発。

いやぁ、凄く怖いのです、この二人の確執が。生理的に忌み嫌う感情がトグロのように渦巻きながら、表面上は何もないかのように繕う。

武士の家のたしなみを教育されてきた加恵 vs 美貌の賢婦人との誉れ高い(またそのことを十分に自覚している)於継。


また青洲が、決して共感力が高く誠実なキャラとはいえず、科学者としての野心がギラギラして、新しい技術を啓くことにやたらと熱心な人として描かれているのですよね。


嫁姑間の確執なんざ、全く気づかない、いや気づいていても、気にも留めない。

なぜなら、中国の医聖と言われた魏の名医華陀が、麻沸湯なる薬で患者を眠らせて外科手術に及んだとの言い伝えにすっかり魅せられており、遊学より帰ってからは、何よりもまず麻酔薬の研究が最優先事項。

犬猫が当初、実験に使われましたが、すでにおどろおどろしい様が描かれておりました。

そして遂に人間の被験者が必要という段になり、加恵と於継が争うように手を挙げたのです。

なんというのか、自己犠牲精神マウント合戦、あるいは青洲に取り自分こそが有用な存在であることを誇示しあう闘いとでもいうのか。

その結果、姑は命を縮め、嫁は失明する。

とはいえ、薬量のちょうどいい塩梅を青洲は突き止め、当時としてはタブーだった乳がんの手術に成功しはするのですが。

全く取り繕っていたため、母と妻の献身は周囲には美談として受け止められたのですが、青洲の妹は、この嫁姑の確執とそれが引き起こした地獄をしっかり見ていたのです。。。


恐ろしいものを見てしまった・・・そういう感想を抱いてしまう小説でしたね。


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