アマレスタイツでデビューした超大型新人が引退の日を迎えるなど想像もできなかった。
群雄割拠の若獅子達の中で揉まれながら、中々その突出した力を発揮できずにいた。
それでもなんとか若獅子闘争を制し、のし上がる為の切符を手にする。
海外修行で名前を変え、一気に上を狙うもアクシデントによりトップ戦線に"入れてもらえなかった"。
凱旋後のカード発表に異常なまでの期待を感じた。
そのシリーズ、大物との対戦で結果を残すも、今一つ盛り上がらない。
その後、真ん中辺りでくすぶり続けタッグがメインになる。
誰もがあの時感じた期待感を忘れかけた頃、夏の祭典で遂に大爆発。
その日を境に野人のファイトスタイルが会場を沸かせる。
レスラーとして完成したように思えた。
しかしそれでもトップのベルトには手が届かず、いつしか失速が始まる。
必要があったかなかったか、異種格闘技にトライ。
ライバル団体の大学アマレス後輩に敗北。
なんとも言えない、ため息しかでない状況。
格闘頂点のはずのライオンマークが悲しく見えた。
他競技にも他団体にも勝てない、そんな野人の背中に、これがこの団体の本当の実力なのかと。
そこから勝ったり負けたりのトップ手前が定位置のようになった。
皮のタイツになったり、海賊と発言したり、夏の祭典でもアマレス出身の方舟選手に敗北。
だがタッグの対抗戦ではその存在感を遺憾なく発揮する場面も見られた。
そう考えればやはり野人はタッグ向きなのか。
そんな事を思い始めた頃、まさかの頂点ベルトを奪取。
全員がハッピーな気分になれた。
それはここに至るまでの長き険しき野人の道のりを皆んなが知っているから。
本当にプロレスラーらしいプロレスラー。
常にファンの感情を焦らし、忘れた頃にビッグサプライズをプレゼントしてくれる。
それが野人が人を惹きつける秘訣なのか。
将来プロレスラーという言葉を辞書で引けば、"野人"という文字が載っているかもしれない。
繊細と豪快の狭間で揺れながら、沢山の感動をくれた野人。
やはりこれは"のびと"と読むべきなのか。
ありがとう。