不意に窓を打つ音に
気を取られる。
解りきった事だが
窓を打つ音の”正体”を
探して視線を巡らせた。
もちろん、その”正体”は「雨」なのだが…
季節は初夏の香りが漂い始める頃
僕はこの雨に”思い出”を呼び起こされた。
今日の雨はあの日に似ていたからかも知れない。
思い起こして見ると
もう十年近くも昔になる
誰しも僅かには覚えている事だろう、僕が思い出したのは高校生活の締め括り、卒業式。
その日も雨降りだった。
最後の最後で雨かよ…
最初に胸を支配したのはそんなどんよりした気分だった。
視線の先、次第に近づく校舎
色とりどりの傘がちらちらと揺れている。
いつもより人が多くいる事に疑問を覚えたが
すぐに解決した
卒業式なのだから来賓だとかそう言う”オエライサン”が居る分、いつもより賑やかなのだ。
どことなく憂鬱な気分のまま、教室への階段を上る
その途中、鞄の中を探りながらニヤニヤと笑う。
今日はカメラを忍ばせて来たのだ。
ポラロイドみたいにその場で写真が出てくるタイプのヤツ。
コイツで友人の間抜け面を撮ってやるところを想像すると、ニヤニヤしてしまう。
泣き顔なら更に良いな。
教室のドアは卒業式など関係ないと言わんばかりにからからと
いつもの様に音をたてる。
中に入ると既に感極まってるヤツがいたり
いつも元気な娘がシュン
としていたり
その様子は僕に”卒業式”と言う非日常を深く印象付けた。
件の友人はいつも通りへらへらしていたけど。
担任の教師が入って来るなり、淡々と式の進行などの説明を始めた。
冗談の一つもない
最後まで面白くない人だった。
式の開始時刻が迫り
それぞれの教室から生徒が廊下に出る。
整列している途中に
窓の外に眼をやった
憂鬱な雨はまだ止みそうにない。
よかったと言えばよかった。
だけど何か期待していた。
なんのトラブルもハプニングも無く
式は順調に進んだ。
卒業証書を受け取る時にふざける奴が何人か居て笑えた。
かく言う僕も少しだけふざけたのだけど
式が終わりそれぞれがそれぞれの旅立ちを胸に教室へと戻る。
これが本当に高校生活最後の時間だ。
いつも笑顔が元気印なあの娘は、やっぱり泣いていた。朝から元気無かったもんな。
激写してやろうとした友人は相変わらずへらへらと笑っている。
くそ、泣けよ。
このままじゃカメラを持って来た一番の目的を果たせないじゃないか。
そんな折に、思い付いてしまう
二年に上がる時のクラス変え、その時から気になってるあの娘。
写真を撮らせてくれないだろうかと
あわよくば一緒に写ってくれないだろうかと。
えーと、誰と仲が良かったっけあの娘…
泣き顔、笑顔、ばか笑い、号泣。
様々な表情が並ぶ中、彼女の顔を探す。
あ…いた
今思えば何故気になら無かったのか
決して友達が居ない訳じゃない彼女が隠れる様にそこに居た。
教室の窓際
たった一人、外を見つめている
まだ春風と呼ぶには冷た過ぎる風が彼女の髪を撫でている
雨はいつの間にか止んでいた。
「あのさ…写真撮らせてよ!!つーか一緒に写ってくれ!ほらあれだ!卒業式だから!」
”卒業式”を理由にして彼女に声をかけた。
あんまり会話した事ない女の子に声をかけた事自体が大冒険だ。
キョトンとした顔で僕を見た彼女は
申し訳なさそうな笑顔の後にこう続けた。
「ゴメンね、あたし写真はちょっと…ほら!!記録より記憶に残すって、そういうタイプなの!」
…もう少しマシな言い訳は無かったのか。
正直、哀しかった
そりゃあ、僕となんか写りたくないだろうけど
まあ「気持ち悪い」なんて言われ無かっただけ良かった…
「…あ、ああそうだよね」
もう会えないのだから
写真がどうしても欲しかった。
諦めきれなかった
悪いとは思ったけど
不意をついて
写真を…
「だけど、アイツに頼まれたら断らないんだろ?」
言って僕はクラスで一番顔の良い男を指さした。
「そんな事ないよ!本当に写真は苦手って言うか…」
どこか煮え切らない彼女は困った様に笑っている。
もう少しだ、もう少し笑ってくれれば…
「でもさ、記憶に残すってどうやるの??例えば
こぉぉんな顔とか?」
僕は思い切り変な顔でおどけてみせた。
「…ぷっ!!あははっ!!何!?その顔、キミってそんな変顔出来たの?あたしてっきり…」
弾ける様な笑顔で彼女は吹き出した
今だ。
彼女が何か言い終る前に
僕はカメラを構える
ファインダー越しに
彼女の笑顔を”確かに”捕えた。
ぱしゃり。じーーーー。
閃光を放ち、写真を吐き出すカメラ。
すごく驚いた顔でこっちを見る彼女。
重い沈黙が二人を支配する。
「お!お前良いモン持ってんじゃん!!貸せよ、写真撮りまくってやるから!」
いつの間にか近くに居た友人にカメラを奪われる
最初の一枚、吐き出された写真だけは見つからない様に隠した。
「あーあ、駄目だって言ったのに…
撮っちゃったね?写真」
意外にも先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。
怒っているかと思ったが悪戯っ子の様に笑いながら彼女が近づく。
初めて見た表情だった
その笑顔を見た時
僕は勝手に写真を撮った事を酷く後悔した。
「ゴメンっ!!どうしても写真に残したくて…
でもさっ!!すげー良い顔撮れたって!!写真うつりだって悪くないよ!
ほら!!こんなに笑って…………ッッ!?」
言いながら写真に眼を落とした僕は
青ざめてしまう。
そこに彼女の笑顔は無かった、いや”彼女自身”写って居なかった。
徐々に描き出される画像
彼女の代わりにそこに居たのは
在るはずの無い無数の手や脚。
男や女、いや人間なのかすらわからない
顔、顔、顔。
そのどれもが怒りや悲しみに満ちている。
「…どっ…どうしてっ!?なんでッッ?こんな…っ!」
僕は取り乱してしまう。
なんだか良くわからない感情が込み上げる。
こんな事有り得ない
理解できない。
写真はおぞましい真実を僕に突き付ける。
たまらず僕は
彼女に”答え”を求める様に視線を預けた。
「だから、ね?”記録”には残らないけど”記憶”には残ったでしょ?」
答えなど無い、あなたにそれを知る必要など無いのと言わんばかりに彼女は言う。
真っ直ぐに僕の眼を見ると
彼女は寂しそうに微笑んだ。
高校の卒業式は雨だった。
三年間の締め括りが雨。
今でもハッキリ
覚えている。

…………っていう大嘘。
気を取られる。
解りきった事だが
窓を打つ音の”正体”を
探して視線を巡らせた。
もちろん、その”正体”は「雨」なのだが…
季節は初夏の香りが漂い始める頃
僕はこの雨に”思い出”を呼び起こされた。
今日の雨はあの日に似ていたからかも知れない。
思い起こして見ると
もう十年近くも昔になる
誰しも僅かには覚えている事だろう、僕が思い出したのは高校生活の締め括り、卒業式。
その日も雨降りだった。
最後の最後で雨かよ…
最初に胸を支配したのはそんなどんよりした気分だった。
視線の先、次第に近づく校舎
色とりどりの傘がちらちらと揺れている。
いつもより人が多くいる事に疑問を覚えたが
すぐに解決した
卒業式なのだから来賓だとかそう言う”オエライサン”が居る分、いつもより賑やかなのだ。
どことなく憂鬱な気分のまま、教室への階段を上る
その途中、鞄の中を探りながらニヤニヤと笑う。
今日はカメラを忍ばせて来たのだ。
ポラロイドみたいにその場で写真が出てくるタイプのヤツ。
コイツで友人の間抜け面を撮ってやるところを想像すると、ニヤニヤしてしまう。
泣き顔なら更に良いな。
教室のドアは卒業式など関係ないと言わんばかりにからからと
いつもの様に音をたてる。
中に入ると既に感極まってるヤツがいたり
いつも元気な娘がシュン
としていたり
その様子は僕に”卒業式”と言う非日常を深く印象付けた。
件の友人はいつも通りへらへらしていたけど。
担任の教師が入って来るなり、淡々と式の進行などの説明を始めた。
冗談の一つもない
最後まで面白くない人だった。
式の開始時刻が迫り
それぞれの教室から生徒が廊下に出る。
整列している途中に
窓の外に眼をやった
憂鬱な雨はまだ止みそうにない。
よかったと言えばよかった。
だけど何か期待していた。
なんのトラブルもハプニングも無く
式は順調に進んだ。
卒業証書を受け取る時にふざける奴が何人か居て笑えた。
かく言う僕も少しだけふざけたのだけど
式が終わりそれぞれがそれぞれの旅立ちを胸に教室へと戻る。
これが本当に高校生活最後の時間だ。
いつも笑顔が元気印なあの娘は、やっぱり泣いていた。朝から元気無かったもんな。
激写してやろうとした友人は相変わらずへらへらと笑っている。
くそ、泣けよ。
このままじゃカメラを持って来た一番の目的を果たせないじゃないか。
そんな折に、思い付いてしまう
二年に上がる時のクラス変え、その時から気になってるあの娘。
写真を撮らせてくれないだろうかと
あわよくば一緒に写ってくれないだろうかと。
えーと、誰と仲が良かったっけあの娘…
泣き顔、笑顔、ばか笑い、号泣。
様々な表情が並ぶ中、彼女の顔を探す。
あ…いた
今思えば何故気になら無かったのか
決して友達が居ない訳じゃない彼女が隠れる様にそこに居た。
教室の窓際
たった一人、外を見つめている
まだ春風と呼ぶには冷た過ぎる風が彼女の髪を撫でている
雨はいつの間にか止んでいた。
「あのさ…写真撮らせてよ!!つーか一緒に写ってくれ!ほらあれだ!卒業式だから!」
”卒業式”を理由にして彼女に声をかけた。
あんまり会話した事ない女の子に声をかけた事自体が大冒険だ。
キョトンとした顔で僕を見た彼女は
申し訳なさそうな笑顔の後にこう続けた。
「ゴメンね、あたし写真はちょっと…ほら!!記録より記憶に残すって、そういうタイプなの!」
…もう少しマシな言い訳は無かったのか。
正直、哀しかった
そりゃあ、僕となんか写りたくないだろうけど
まあ「気持ち悪い」なんて言われ無かっただけ良かった…
「…あ、ああそうだよね」
もう会えないのだから
写真がどうしても欲しかった。
諦めきれなかった
悪いとは思ったけど
不意をついて
写真を…
「だけど、アイツに頼まれたら断らないんだろ?」
言って僕はクラスで一番顔の良い男を指さした。
「そんな事ないよ!本当に写真は苦手って言うか…」
どこか煮え切らない彼女は困った様に笑っている。
もう少しだ、もう少し笑ってくれれば…
「でもさ、記憶に残すってどうやるの??例えば
こぉぉんな顔とか?」
僕は思い切り変な顔でおどけてみせた。
「…ぷっ!!あははっ!!何!?その顔、キミってそんな変顔出来たの?あたしてっきり…」
弾ける様な笑顔で彼女は吹き出した
今だ。
彼女が何か言い終る前に
僕はカメラを構える
ファインダー越しに
彼女の笑顔を”確かに”捕えた。
ぱしゃり。じーーーー。
閃光を放ち、写真を吐き出すカメラ。
すごく驚いた顔でこっちを見る彼女。
重い沈黙が二人を支配する。
「お!お前良いモン持ってんじゃん!!貸せよ、写真撮りまくってやるから!」
いつの間にか近くに居た友人にカメラを奪われる
最初の一枚、吐き出された写真だけは見つからない様に隠した。
「あーあ、駄目だって言ったのに…
撮っちゃったね?写真」
意外にも先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。
怒っているかと思ったが悪戯っ子の様に笑いながら彼女が近づく。
初めて見た表情だった
その笑顔を見た時
僕は勝手に写真を撮った事を酷く後悔した。
「ゴメンっ!!どうしても写真に残したくて…
でもさっ!!すげー良い顔撮れたって!!写真うつりだって悪くないよ!
ほら!!こんなに笑って…………ッッ!?」
言いながら写真に眼を落とした僕は
青ざめてしまう。
そこに彼女の笑顔は無かった、いや”彼女自身”写って居なかった。
徐々に描き出される画像
彼女の代わりにそこに居たのは
在るはずの無い無数の手や脚。
男や女、いや人間なのかすらわからない
顔、顔、顔。
そのどれもが怒りや悲しみに満ちている。
「…どっ…どうしてっ!?なんでッッ?こんな…っ!」
僕は取り乱してしまう。
なんだか良くわからない感情が込み上げる。
こんな事有り得ない
理解できない。
写真はおぞましい真実を僕に突き付ける。
たまらず僕は
彼女に”答え”を求める様に視線を預けた。
「だから、ね?”記録”には残らないけど”記憶”には残ったでしょ?」
答えなど無い、あなたにそれを知る必要など無いのと言わんばかりに彼女は言う。
真っ直ぐに僕の眼を見ると
彼女は寂しそうに微笑んだ。
高校の卒業式は雨だった。
三年間の締め括りが雨。
今でもハッキリ
覚えている。

…………っていう大嘘。

