観たり、聴いたりした事を、つらつらと。

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映画や音楽のことを思いのまま書きなぐり。

今年も半分が過ぎましたが、今の所、個人的ナンバーワンはこの映画だと思っています。


「オッペンハイマー」

「原爆の父」と呼ばれた物理学者、ロバート・オッペンハイマーの半生を描く。監督は「インターステラー」「テネット」のクリストファー・ノーラン。

アメリカより半年遅れ、アカデミー受賞のタイミングでの上映となりました。
日本での公開が本国より遅れるというのは良くある事ですが、今回は「原爆」という日本にとって非常にセンシティヴな題材の為、配給会社が及び腰になったというのは想像に難くありません。

さて、難解な作風がノーラン監督の特徴と言えますが、今回懸念していたのは太平洋戦争時の歴史的背景や、主人公が物理学者である故の専門用語の頻出等、事前に予習をしておかないと物語の理解に苦労するのではないか、
そして上映時間180分という長丁場に僕の膀胱は耐えられるのか、と鑑賞前にはかなり身構えていました。

しかし始まってみると前後する時系列、登場人物の把握に多少苦労しましたが物語自体は分かりやすく、膨大な情報を持つ会話劇と緊張感のある演出がひたすら続き、濃厚な三時間を楽しむことが出来ました。

ネットで感想を見ると、やはり賛否あって「長い」「難解」という感想が大半を占めます。
また「広島の惨状を描くべき」とか「原爆をエンターテインメントにするな」という意見の方も一定数います。
言っている事は分かるのですが、この映画は世界を破滅させる可能性を持つ「原爆」を作った業を背負うオッペンハイマーの苦悩を描いているのであって、原爆の恐ろしさや悲惨さを訴える映画では無いのです。

広島の惨状を描くべきというのは「戦争による唯一の被爆国」である日本人ならではの意見だと思いますが、どこか「アメリカ人に原爆の恐ろしさを知ってもらって反省して欲しい。謝罪の言葉が欲しい」という気持ちが透けて見えて少しモヤっとした気分になりました。
もちろん映画の感想は個人の自由ですが。

物語は中盤、原爆を開発する「マンハッタン計画」の進行で俄然盛り上がります。


「原爆をナチスより先に開発する」「日本に投下して降伏を促す」と様々な理由から、実験場に町を一つ作ってしまう程のスケールの大きさで計画は進みます。
大気が発火し世界が滅亡する可能性は決してゼロでは無いのに、その危険性からは目を逸らし、科学者の欲求に従って原爆開発は続けられる。
誰にも止められないこの完成直前の盛り上がりを、観客も高揚感を持って見届ける事になります。そして、その結果を知っているからこそ開発者に感情移入しつつも複雑な感情を抱くのです。

アメリカ人と日本人の原爆に対する意識は当然異なりますが、決して原爆を軽んじているわけではなく、真摯に向き合ったからこその娯楽作。


配信が始まったらもう一度観返そうと思いました。