1991年に公開されたアメリカ映画で、監督は実力演技派俳優としても名高い、ショーン・ペンです。
ショーン・ペンは今までに6本の映画作品を撮ってきています。
どれもクオリティーの高い微細な作品で、映画監督としても高い評価を得ていますが、そのきっかけとなったのが彼の初監督作品である本作です。
ショーン・ペン監督がこの作品を撮ろうと思ったきっかけが、シンガーソングライターである、ブルース・スプリングスティーンの曲「ハイウェイ・パトロールマン」の歌詞にインスパイアを受けたことでした。
大変情緒的で、静かなトーンで展開される作品で、ショーン・ペンの繊細な感覚が非常に特徴として出ている作品です。
【あらすじ】
舞台は、ベトナム戦争真っ只中の1968年のネブラスカ州の田舎町の話です。
そこに暮らす、ジョーとフランクという兄弟をを中心に話が展開されるヒューマン・ドラマです。
実直な兄、ジョーは州警察のハイウェイ・パトロールマン。
物語はジョーがあたり一面真っ白な雪景色のハイウェイで犯罪者を車で追跡しているところから始まります。結果的に犯人を銃殺してしまうジョーは苦悶しています。
彼にとって大事なものが妻と赤ん坊。ジョーは物静かなとても優しい心を持った家族人間。
ジョーがある日、母の心臓の状態が良くないと聞き、実家の両親を尋ねたら、ベトナム戦争に出征している弟、フランクからの手紙が届いたことを告げられます。そして、近く帰還することが手紙に書かれていました。うれしそうなジョーに反して、両親は苦み走った表情をしています。
そして、ジョーは両親に「ウチで面倒見るよ」と告げます。
フランクが帰還してくる日。町はその日も辺り一面の雪景色。
駅に迎えに来たジョーは物静かな彼ながら、弟との再会を今か今かとソワソワしているのがわかります。
駅に汽車が入ってきて、客車から続々と人が下りてきます。必死にフランクの姿を探すジョー。しかし、見当たりません。すると、貨物車からフランクは飛び降りてきました。ホッとするジョー。それを見て何気ない会話で返すフランク。兄弟にだけしか分かり合えないふざけ合いをしたかと思うと、フランクはおもむろに雪玉を作り、ジョーに投げます。それに応戦するジョー。本当に子供の兄弟がふざけ合っているような美しい再会のシーンです。
戻る車の中で、落ち着くまでウチに住まないかとフランクに告げるジョー。それだけで何を意味するかを察したフランク。寂しそうな遠くを見る目。
フランクは昔からこの町では名の知れた不良でした。両親がそんな自分を煙たがっていたことを知っていたフランクはジョーの申し出を受けます。
ジョーの家に到着したフランクはジョーの妻から歓待を受けます。妻も本当の弟が帰還したかのように喜んでいます。それを見た赤ん坊もケタケタ笑って、フランクの再起は明るいかのようにみえました。
しかし、戦場を体験したフランクはPTSDを抱えて帰ってきたのでした。
そんな中でも、ジョー家族の暖かさに包まれ元気になっていくフランク。兄、ジョーの更正させたいという思いも組んで、なんとかまともな生活を送ろうとするフランク。
しかし、とあることで問題を起こし留置所に入れられてしまいます。
保釈される弟を迎えに行ったジョーは出口から少し遠めのところで出てくるのを待っていましたが、思いがけない情景を目にします。
フランクが出てきて、嬉しそうに駆け寄ってきた女性と嬉しそうに抱擁を交わしキスをする二人を見て、ジョーはホッとしたような表情をして声をかけず戻っていきます。
その彼女との甘い生活は、フランクに活力を与えました。二人で同棲をはじめ、仲睦まじい毎日を過ごしていました。
しばらくして、フランクが彼女を連れてジョーの家に遊びに来ました。
そして、もったいぶった様子でフランクはジョー夫妻に告げました。
「赤ん坊が出来た」
喜ぶジョー夫妻。そして、嬉しそうなフランクと彼女。
友人たちとビーチで結婚式を挙げ、幸せいっぱいの二人。
ある日の夜。
畑で兄弟二人で語り合うシーン。目の前はトウモロコシ畑。
ほんとうに兄弟の何気ない会話。しかし、先日相次いで亡くなった両親への懺悔の気持ちを語るうちにフランクは激しく泣き出します。優しく肩を抱くジョー。
落ち着いたフランクは目の前のトウモロコシ畑をみて、昔していた畑の中を疾走する追いかけっこの話をしだします。ごく自然に。そして、突然畑の中に入っていきます。姿が見えなくなったフランクはコヨーテの鳴きまねをして、ジョーに追いかけて来いと誘いをかけます。ジョーもそれに応じ、二人は畑の中を疾走します。ただの遊戯に見えるこのシーン。実はこの映画の一番大事なメタファーなのです。
フランクと彼女は一見、何気ない日常を過ごしています。
フランクは肉体労働をし、彼女は大きなおなかを抱えながら家事を。
しかし、彼女のおなかが徐々に大きくなるのに呼応するかのように、フランクの中に空虚感に似た感情が襲ってくるようになりました。
そんな自分に苦悩するフランク。
それは、徐々に怒りと変わっていき、ある日突然暴発します。
彼女を罵倒し、口に含んだ豆料理を彼女に吐き掛け、鬼の形相で詰め寄るフランク。
意味の解らない彼女はどうしていいかわからず、泣き出してしまいます。
それを見たフランクは、家を出ます。
何気なく入ったバーで、事件は起きます。
笑顔で対応してきたバーのマスターを椅子で殴打し殺してしまいます。
一方、その頃どうしていいかわからなくなったフランクの彼女はジョーの家へ相談に。
その時、産気づき急いで病院へ。
そして、ジョーの警官の相棒からフランクの事を聞いたジョー。
ラストシーンでも子供時代の兄弟を想起させるシーンで終わっていくのですが、
全編通して一切説明的な演出を施していない作品です。
【感想】
母親の葬儀のシーンでの出棺のシーン等の何気ない風景の演出もそうですが、特にフランク(ヴィゴ・モーテンセン)のPTSDでの苦悩を説明的な表現ではなく、微細な表現で演出をしたショーン・ペンの繊細なセンスに感心しっぱなしの作品です。そして、兄弟を演じた、対照的な俳優デヴィッド・モースとヴィゴ・モーテンセンの演技力には舌を巻きます。相対的に見るとまるでドキュメンタリーを見ているかのような錯覚に陥ります。
本作は脇役陣が、デニス・ホッパーをはじめ、チャールズ・ブロンソン、サンデイ・デニス、ベニチオ・デル・トロと豪華ですが、その誰もが一切自己主張をしていないので、作品を邪魔することなく、深みを与えています。
挿入音楽も、トラフィックやザ・バンド、ジャニス・ジョプリン、C.C.R.等の名曲が効果的に流れ静かな映画ながら停滞感を感じさせない素晴らしい映画です。