しがない教師の雑感

しがない教師の雑感

入試というものに、悉く失敗してきた者が、自分と同じ思いをする若人を少しでも減らせたらという思いから教師が綴る奮闘記的な何か。時々、内なる何かの発露のような感じで哲学や宗教学の話題も…

Amebaでブログを始めよう!

 

 

詳細は上記の記事を読んでいただければと思うが、記事のタイトル通り、2020年度にわいせつ行為やセクハラを理由に懲戒処分や訓告を受けた公立小中高校などの教員は200人だそうだ。

このうち、児童生徒らが被害者だったケースは96人に上るとのこと。

過去2番目の多さだった19年度より、つまり2020年度の前年度よりも処分者は73人減ったものの、200人台は8年連続であり、文科省は「会員制交流サイト(SNS)での私的やりとりの禁止など一層対策を進めていく」している、と記事は続く。

なお、児童生徒が被害者であった96人のうち、91人は懲戒免職で、5人は停職であったと報告されている。

 

 

この記事に対して、多数のコメントが寄せられているが、ざっと目を通すと、児童生徒に手を出すような教員がいる学校組織は異常であるという論調が多いように感じる。

 

確かに、児童生徒にわいせつ行為やセクハラにおよぶなど、言語道断であり、それらを是とする気は毛頭ないが、少し立ち止まって、冷静に考えてほしい。200人という数字は果たして多いのであろうか。

上記の数字はある自治体の数字ではなく、全国的な、公立小中高校などを合わせた数字である。その分母はどのくらいになるのか、知っている人はいるのだろうか。

 

記事には「公立小中高校など」とあるので、どこまで含まれるかわからないが、「など」を無視して、2020年度(令和2年度)の公立小中高校の教員数を算出すると、公立小中高校を合わせて約814,800人である。すなわち、2020年度にわいせつ行為・セクハラで懲戒処分や訓告を受けた教員は全体の約0.025%であり、児童生徒が被害者であった件は全体の約0.012%の教員によるものである。「など」を考慮して、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校などを含めれば、全国の教員数は 約903,400人である。この数で計算すれば、前者は約0.022%、後者は約0.011%である。

 

この数字を見た上で、200人ないし、96人という数が多いか少ないかは、読者の判断に委ねるが、分母や割合を示すことなく、数だけ報告する報道のあり方には疑問がある。

 

また、当記事のコメントに、「…『過去2番目の多さ』という記述に驚く…」とコメントしている人がいるが、それは前年度の数字であり、本記事とは無関係である。準公人的な立場で発言されるのであれば、記事を正確に読んだ上で発言すべきと思う。

また文科省の「会員制交流サイト(SNS)での私的やりとりの禁止など一層対策を進めていく」という対策がどこまで妥当な策かも疑問である。そもそも99%以上の者が規律を守れているところにいっそう規制を厳しくすることになんの効果があるのだろうか。やや譲って、文科省のこのコメントは児童生徒が被害者となっている事案には有効打になりうるだろうが、児童生徒が被害者でない残りの半数以上のわいせつ行為・セクハラ事案については何の効果もないはずである。まさか教員のSNS利用を一切禁止するなどと言うわけではあるまい。記事の書き方に問題があるのか、文科省が問題としているのが児童生徒が被害者となる事案だけということであろうか。後者だとしたら、104人(以上)の被害者についてはどうでもいいと表明しているに等しい。まさか国家の一機関がそのようないい加減な態度を取るとは思えないが、昨今の入試改革の不誠実さや、新型コロナウイルス感染症関連の入試対応の不誠実さを見ると、このような邪推も妥当なように感じてしまう。

 

 

話を戻して、上述の数字の意味であるが、それでもって「大したことない、瑣末な問題である」と結論づけたいのではない。被害者にとって一生ものの傷になるだろうし、加害者は一生をかけて償いきれない罪を償うべきと思う。免許を失効した後に容易に再取得できないような工夫が必要との世論も支持できる。

私が主張したいのは、上述の数字を改めて見てもらって、「学校組織や教員という人種が異常な組織/集団である」と考えるのを一考してほしいということである。わいせつ行為やセクハラにおよぶ教員は、学校組織の人間から見ても世間一般と同じように異常であると思っているはずである。

 

このように言うと、「報道されている人数は明るみになっている分だけであり、実際はもっと多いはずである」という反論もあろうかと思うし、その可能性は否めないが、その部分に関しては悪魔の証明に近い。その場合、明るみになっていない部分が多いと主張する側がそれを裏付ける客観的なデータを示す必要がある。また、「教員の中でわいせつ行為・セクハラを行う者の割合が0.02%程度というのは分かったが、全業種と比較した際、教員が他業種に比べて性犯罪率が高いということはないか」という質問・反論があるかもしれない。そちらについても、それを主張するのであれば、それを裏付けるデータを示すのは主張する側の論証責任である。先にも申し上げた通り、報道発表されている数値を見る限り、全教員のなかでわいせつ行為やセクハラにおよぶのは全体の約0.02%程度であり、それでもって教員全体が異常な集合であるように見なすという風潮はいかがなものかと思うというのが私の主張である。

 

そもそもなぜこのような主張をするかと言えば、このような報道や印象で教員に悪いイメージが定着すれば、わいせつ行為やセクハラ行為の被害者がより一層増えるということを危惧してのことである。

ある組織の質を維持するのに必要な倍率は3倍と言われている。昨今の報道で自治体によっては2倍を切る校種や教科があるということをご存知の方が多いと思う。倍率が下がるとういことは当然それだけ篩にかけることができなくなると言うことであり、タチの悪い人間が教育に携わる機会を増やすことになる。すでにこの悪循環が始まっているように感じるが、この負の流れを止めなくては、日本の未来は決して明るいものにはならない。「国家百年の計は教育にあり」と言われる。その教育が崩壊すれば、国家が崩壊するのは自明である。

 

不景気による仮想敵作りとして教育公務員を必要以上に攻撃する風潮が一顧だにされないという現状を憂いて、このような記事を書かせていただいた。この意見に賛同せよなどとは言わないが、参考程度にはしてもらいたいと思う。