ああ、愛しの女たちよ


 次代を背負う四十代そこそこのエリートたちが久しぶりに同窓会で顔を合わせた。
 一次会は天下国家の論争や自身の近況報告、あるいは自慢話で話題が弾んだ。
 二次会は気の合った者同士で三々五々街の盛り場へと散っていった。

 助辺太郎も仲のよかった連中数名と盛り場に繰り出した。
 まずは居酒屋に始まり、最後にはひとりの先導で行きつけの高級クラブへなだれこむ按配となった。

 店に落ち着くとウイスキー片手に女たちを笑わせ、喜ばせ、みんなしてご機嫌なひと時となった。

 彼らのわずかな友情の狂いはそこで生じた。
 仲間の一人がそこの女といつしか抜け駆けしていたからである。
 しかもその女は店でとびっきりの美人で看板娘ときていた。
 彼女の美貌が酔った脳に強くインプットされていたから、残された者たちは面白くない。


 店の女たちがそばを離れた隙に一人が舌打ちして言い放った。
「あいつ、いい店があるといって俺たちをここへ連れてきたのは、自分のカッコ付けだったのか」 
「まったくだ。俺は今後、あいつとの付き合いはごめんこうむる」
「俺もだ」
 みなは口々に同調した。
「ちくしょう。それにしてもいい女だったなあ!」
 ひとりが嘆きとともにしめくくった。

 アルコールが入っているから理性のタガはすっかり外れている。
 それなら俺たちも…助辺太郎らはもの欲しそうな顔で女たちを食事に誘い始めた。
 だが、運の悪いことに景気のいい客が現れて彼女らはそっちへ移ってしまった。
 代わりに回されてきたのは、サブとかいって美貌も魅力も乏しい女たちだった。
 とたんに酒はまずくなった。
 当然、会話も弾まない。

 店を出てきた時、旧友とのハシゴ酒でいい気分だったはずが、みんなしてドッチラケである。
「これでお開きか。あいつ一人が極楽だったってわけだな…」
「俺はもう帰るよ」
「俺もだ。勘定、半分持ちだって! 株でも当てたのか? どうせなら全額にしろってんだ」
「んだ、んだ。俺はもうあいつの誘いにはもう乗らないから」

「待て待て」
 散会しかけた時、助辺太郎が切り出した。
「それなら、欲ボケNEWサロンにでも行ってみるか? 」
「欲ボケニューサロンだ?」
「ああ、ストレス発散は自分の金に限る。だろ?」
 みなは顔を見合わせる。
 目に好奇心があふれだす。
 それもそのはず近頃売り出し中のピンクサロンだからである。
 ひとりが首を傾げる。
「行くのはいいが、誰も行ったことがないと来てはちょっと不安だな」
「よし、俺が案内してやる」
 助辺太郎が胸を叩いたのでみなは彼に従った。


 入場料金5000円。プラス指名料。プラス本手当。

 彼らは受付の後ろの壁に貼られた白いポスターの文字をぼんやり眺めた。

「…」
 それはきれいなプリント文字ではなかった。カラフルなマジックペンで、中学生か高校生の女子が描くような丸文字だったからである。


 で、受付に立っているのは女を終えたような年配の女だった。
「サロン嬢のご指名は、そちらでコース選択をすませてから行ってください」
 案内を受けたすぐの部屋は(1)のコースとなっていて、当店サロン嬢の顔ポスターが番号を振って壁に貼りつけられてある。
 この中から好みの女を選ぶのである。

 指名料金は1000円。

「まあ、それぞれ顔の好みはあるからな。世間で話題になるだけあって美人が多くて迷うが、俺はこの女がいいな」
 助辺らはそれぞれお気に入りを決め、番号札を取った。

 受付に戻ろうとすると念尾入世が呼び止めた。
「おい(次)のコースもあるぞ。お前たち顔だけでいいのか? 次は彼女らのスタイル決めだ。胸のボインとか、腰のくびれたのとか、ここで選ぶ相手が変わることもあるみたいだぞ」

 なるほど、確かに顔だけよくてスタイルが悪いではもうひとつしっくりこない。
 みなは素直にそのアドバイスに乗った。ここの指名料は2000円となっていた。

 その通りであった。みなの好みのタイプはここで多少の変更をみた。
 これで決まりだ。助辺たちは札を変更し、納得し、気分よく受付に戻ろうとした。

 するとまたしても念尾入世がみなを呼び留めた。
「まだあるぞ」
「何だよ、もう…これで十分だろ」
「(3)のコースがまだ残ってる。彼女達の詳細データ-だ」

 助辺たちはあっけにとられた。顔を見合わせ、プラス7000円のフダを見て大笑いした。

「お前、何言ってる。そんなの知ってどうなる。女なんて見てくれがすべてじゃないか。そんなのに7000円も追加するバカがどこにいるんだ!」
「俺も右に同じだ。女は見てくれのほかに何がある? 俺たちは行くぞ。お前は一人で好きに進んでくれ」
「そうだ、そうだ」
 口々にそう言い合って助辺たちは念尾入世に背を向けた。

「何でここに来たんだ…?」
 連中を見送って念尾入世は首を傾げた。
「それなら他のサロンと違いはないだろが! しかし、お前たちがそれでいいなら別にいいや。俺も付いて流れて来た口だが、まあ、この部屋では、彼女たちのアクロバットヌードが楽しめる上に、年齢、学歴その他、彼女らの整形前の顔、豊胸前のおっぱいというのも拝ませてもらえるし、他にも何か面白い工夫があるかもしれんし、がっかりも待っているかもしれん…だが、まあ、すべてデタラメや加工だとしても、行くとこまで行ってみようじゃないの。本番は精々頑張っても5分やそこらだ。前戯を楽しむのが欲ボケサロンの神髄と奥行ってものなら…天国か地獄か、俺はパアツ-って堪能してやるよ。散ってやるよ。金なんていくらあってもこれには及ばないシロモノだ。レッツ・ゴー-!」