2022年2月5日に「学びは喜び」というテーマで講演された大森肇教授の最終講義を聴講した。
大森先生は中学生の時、テニスの魅力に取り憑かれ、プロテニスプレーヤーになることを夢見て、名門早稲田大学に進学。早稲田大学庭球部時代は、テニスに全力を傾注するも、全国からエリート選手が集結する早稲田大学にあっては、なかなか頭角を現すことができずにいたが、プロテニスプレーヤーになる夢を捨てきれず、卒業を機に渡米されたという。
米国ではカリフォルニア州を拠点に現地のトーナメントに参戦されるなど、自分の夢を実現するためにテニスに没頭する日々を過ごされたと、若き日を振り返られた。この話を聞いて、自分も海外の水球を見てみたいと、大学院時代に単身スペインへ渡った時のことを思い出しが、大森先生のチャレンジ精神の旺盛さには到底及ばない。
残念ながら大森先生の夢は叶わず、帰国されて東京でテニスコーチをされている時、ふとしたきっかけでスポーツ科学の面白さに触れる機会があり、「これこそ自分がやるべきことだ」と啓示を受け、東京大学体育学研究室の門をたたき、さらに学問を深めたいと筑波大学大学院へ進学された。これを機に大森先生の研究者への道が開かれるわけだが、どこで人生を変える転機が待っているか分からないという典型であろう。
そして大森先生は、ケトン体の代謝に関する研究で博士号を取得された後、筑波大学の体育センターに赴任され、共通体育のテニス実技を担当される傍ら、運動生化学領域での研究にも取り組まれた。大好きなテニスを学生に教えながら、自分の興味のあるテーマについて研究できる環境は、まさに大森先生にとって天職だったのではなかろうか。
その中で大森先生が常に心掛けられたのが、「学び」の大切さであり、「学ぶことは自分が伸びること」であるとの信条を持ち続けることとおっしゃっていた。また次のようにも述べられた。「人は使命を持って生まれてくる」「その使命を全うするために学ぶ」「そして学んだことを誰かに返す」「誰かに貢献することがすなわち喜び」であると。
講演後、かつての教え子やテニス関係者から、ねぎらいと感謝の言葉が贈られ、異口同音に大森先生の穏やかなお人柄と笑顔が印象的であることにも触れられいたが、私もまったく同感である。30年の長きにわたるお勤め、本当にお疲れさまでした。