第一章:欠落と変身
血というものは、混ざれば混ざるほど濁り、その正体を失っていく。
僕には腹違いの姉がいて、さらに後から知ったことだけど、別の腹から生まれた弟と妹がいた。
不倫の末にこぼれ落ちた僕という存在を、母は愛し方も捨て方もわからず、結局、僕は祖母の背中と叔父たちの手の中で「普通」のフリをして育った。
中学生までの僕は、背が低くて頼りない、格好の標的だった。けれど、僕の心臓のすぐ隣には、自分でも制御不能なスイッチがあった。
一度それが入れば、相手が誰だろうと狂犬のように噛みついた。怪我をさせ、震え上がり、そしてまた疎まれる。教室という箱庭に僕の居場所なんてどこにもなかった。
だから僕は、ライブハウスの重い扉の向こう側と、酒や食べ物、調味料の匂いが混じったバイト先の中にだけ、自分の輪郭を求めた。
高校なんて、受からないと言われたから受けただけだ。「やればできる」という証明さえ終われば、学費を払えない家庭事情も、退屈な授業も、僕を繋ぎ止める理由にはならなかった。
何人か付き合っている女の子はいたけど、子供みたいに愛情を束縛するだけの愛し方しかできずに、終わりを迎えるその時まで傷つけていた。そんな中、キョウコと出会ったのは、楽器屋の片隅に貼った「メンバー募集」の無機質な紙切れがきっかけだった。
女の子をバンドに入れる気なんて毛頭なかった。けれど、なんとなく会ってみようと思ったのは、あの頃の僕が、自分と同じ「根無し草」の匂いを無意識に嗅ぎ取っていたからかもしれない。
キョウコは、僕より三つ年下だった。
雑誌のモデルをやっている姉と、父親の違う弟。彼女もまた、複雑にこんがらがった家庭から逃げ出すように、男の家を転々とするような少女だった。
彼女からは、いつもタバコの煙と、それとは不釣り合いな甘い香水の匂いがした。小説家を夢見ていると言った彼女の瞳は、どこか遠い場所を見ているようで、酷く透き通っていた。
四畳半の一間。湿った空気が淀む僕のアパートで、曲作りに煮詰まり、僕たちは並んで布団に転がっていた。
どちらからともなく、ノリで重ねた唇。
最初はただの暇つぶしのような遊びだったはずなのに、一度触れてしまった熱は、僕の胸の奥に居座ってしまった。しばらくして、僕は自分でも驚くほど素直な声で、彼女に告白した。
キョウコは一時期、僕のバンドでキーボードを弾いていたけれど、付き合い始めると同時に「私はあなたの音楽を聴く側がいい」と言って楽器を置いた。
世の中はまだ、僕たちのような存在を「ヴィジュアル系」という便利な言葉で括ってはいなかった。
Xがメジャーに殴り込みをかけ、BOOWYやBUCK-TICKの残響が街に溢れていた頃。僕らが心酔していたのは、D'ERLANGERやJASTY-NASTYのような、退廃的で鋭利な美学だった。
当時のライブハウスの楽屋は、馴れ合いなんて皆無の戦場だったと思う。僕はいつも、黒い合皮のテーブルに愛用のバタフライナイフを突き立てて座っていた。
「触れたら切れるぞ」
そんな子供じみた虚勢がなければ、自分という薄っぺらな存在が、あの爆音とメイクの中に溶けて消えてしまいそうだったから。