久しぶりに(何年ぶりだろうか)、日本語版Harvard Business Review誌を購入して読んだところ、面白い論文があったので、紹介しておきたい。
ダイヤモンド社刊行の同誌2011年4月号は、メインテーマが「ソーシャル・メディア戦略論」で、ちなみに、少ないとは言え広告付で140ページほどのボリュームなのに2,000円もする。当然それなりの期待を胸に買ったのだが、これから紹介する僅か3ページの小論文だけも、それなりに価値があった。(多分に負け惜しみ。これだけなら、立ち読みでも読めてしまいそうなものだ。^^;)
さて、紹介したいのは「流行が起こる本当のメカニズム」と題された、社会学者 ダンカン・D・ワッツ氏の論文だ。
ネットワーク時代になって、それ以前とは流行の起こり方が変わってきていることは誰もが感じていることである。これまで主流的であったと思われる考え方に、一握りの限られた人々の行動によって「社会的伝染」が左右されるというものがある。この「一握りの人々」は、周囲に対して影響力のある、所謂アルファブロガーなどがこれにあたるものと思われるが、本稿によると、「インフルエンシャル」と呼ばれたりする、とある。
このインフルエンシャルに対してメディアから情報が提供され、彼らを通じて情報は広がってゆくという考え方は、これまでマーケター、日本で言えばネット時代に対応しようとしている広告代理店などに特に好まれてきた。なぜなら、このモデルでは、マーケターは適切なインフルエンシャルを見つけて、彼らを刺激さえすれば、マーケターが特に直接手を下さなくても、彼らが流行を作ってくれることになるからである。
しかし、著者はインフルエンシャルの流行に対する影響力は限定的なものではないかと疑問を呈する。大きな流行、社会的伝染という流れが起こるには、インフルエンシャルが影響を与える直接の情報の受け手から、さらに二次的、三次的に情報が連鎖して伝搬されてゆくことが必要であり、重要なのであって、最初のインフルエンシャルとは直接の関係がない。
これを著者達は、「他者への影響度」と「他者からの被影響度」を数値化したコンピューター・シミュレーションによって、社会的伝染の広がり方を観察した。
そのシミュレーションの結果、影響がネットワークを通じて広範に伝播する第一の条件は、数人のインフルエンシャルの存在ではなく、周囲の誰かに影響されやすい人達の数にあった。限られた数の個人の局所的な影響力とは関係なく、周囲から影響を受けやすい人の数が、連鎖反応を起こし、社会的伝染を広げて行く源だという。
少し不謹慎な気もするが、本文に示されていた森林火災の例えが判りやすい。すなわち、森林火災の規模は、発火の原因となった火花の強さとは殆ど関係なく、森林や空気が乾燥していたとか、風が強いとか、そういった森の状態に大いに関連している。
至極、ご尤もである。というか、これだけでは少しご尤もすぎる。
影響される人が、影響されやすい環境をつくる、つまり森を乾燥した状態にするということは、市場で普通に考えれば、マスメディアを利用するというネット時代以前に戻ってしまうことになりかねないのだが、ネット以前と現在が大きく異なるのは、影響されやすい人が個別に存在しているのではなく、ネットによって緩やかに相互に結びつきあっていることにあることを指摘しておきたい。森は木と木の間が近いから、火が燃え移るのである。
最近爆発的に流行っているケータイ系のソーシャル・メディアが、逆説的なほどマスメディアを利用して成功してきているのは、こういうことであるのかもしれない。
最後に、Harvard
Business Review誌を読んでみて思ったことを書き加えておきたい。
人間という不可解な存在が、より深く関係しているだけあって、ソーシャル・メディアは、まだまだ「戦略論」を語れるほど確立はしていない、というのが私の見立てである。