久しぶりにワンマン宰相、吉田茂の名を新聞で読んだ。「わが国の繁栄はアングロサクソンと同盟を結んでいることで達せられる」1902年に締結し日本に躍進をもたらした日英同盟を意識しての言葉らしい。作家の半藤一利さんが大磯で取材した当時のことを、新聞コラムで書いている
▼近代日本は日英同盟があった間、日露戦争、第一次世界大戦における勝利など、躍進に躍進をとげた。しかし23年にそれを破棄して以降の日本は、人代わりしたかというほどの変貌を見せ、あれよあれよという間にあらぬ方向へと突っ走り、ついには敗戦の憂き目を見た
▼対するに今の日本外交は、対中国では尖閣問題、韓国では竹島、北朝鮮は核と拉致問題と、どっちを見てもうまくいってない。そこへもって来て「オスプレイ」の問題でアメリカとぎくしゃくし、米兵による性暴力事件が起きた沖縄は沸騰している。論客の中には同盟破棄論まで持ち出す人もいる
▼でもね、と半藤さんはいうのである。日米同盟には、一定の誠実さと共通の価値があった。強気の言動をすればいっとき溜飲は下がるだろうが、同盟なしとなった暁には経済のマイナスや国際的な孤立、某国からの攻撃といった恐怖があるのを覚悟しなければならない。今の日本に必要なのは「平静さ」ではないか、と
▼半藤さん82歳。筆法はやわらかで春風駘蕩(たいとう)の趣さえあるが、読んでいるこちらの胸にストンと落ちる。文芸春秋編集長を務め、退社後に作家となった。ゆっくりと歩み実力をつけるのも生き方だなあと、あくせく生きる僕は妙に納得するのである。
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