事例34)

甲土地に、持分を等しくする4人の共有者(ABCX)がいる。

Xが行方不明の場合、Aが、BCの関与なく、Xとの共有関係を解消する手段はあるか。

 

本事例は、共有物が不動産である点が特に重要である。

こうした不動産の共有者が行方不明のケースでは、特別な規定がある。

すなわち、裁判所は、Xの持分をAに取得させることができる旨の裁判をすることができる。

Aは、その請求をすることにより、その行方不明者との共有関係の解消を図ることができる。

取得といっても無償ではない。

所在等不明者であるXは、Aに対して、Aが取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。

 

・共同請求

事例34においては、A及びBが共同して、裁判所にX持分の取得の裁判を請求することもできる。この場合、ABはその持分の割合で按分して、X持分を取得することとなる。

 

なお、Aが、上記請求をしたときで、次の双方の条件を満たした場合は、甲裁判所は、Xの持分をAに取得させることができる旨の裁判をすることができなくなる。

①他の共有者が、甲土地について裁判による共有物分割(又は遺産分割)の請求をする。

②X以外の共有者が、甲裁判所に、異議がある旨の届け出をする。

 

本事例の手続(X持分のAによる取得)は、AXのみを当事者とする手続きであるところ、他の共有者から上記の異議が出た以上、その者を含めた全体的な紛争の解決をすべしという制度趣旨である。

 

事例35)

甲土地に、3人の共有者(ABX)がいた、その後、Xの死亡により、X1X2がXの持分を相続した。その持分について、X1X2が遺産分割をすべき場合において、Aは、行方不明者X2の持分を自らに取得させる旨の裁判を求めることはできるか。

 

相続開始のときから10年を経過した後であれば、裁判所にその旨の請求をすることができる。

すなわち、相続人の遺産への無関心が推定された後であれば、可能ということである。

 

事例36)

甲土地に、持分を等しくする4人の共有者(ABCX)がいる。

Xが行方不明の場合、Aが甲土地の全部を第三者Yに譲渡する手段はあるか。

 

本事例も、共有物が不動産の場合に限って、以下の記載が妥当とする事案である。

共有土地全部の譲渡であるから、原則として、共有者全員の同意がなければ、売却などの処分は不可能である。

しかし、行方不明者Xがいる場合、Aは、裁判所への請求により「他の共有者BCが、Yにその持分全部を譲渡することを停止条件として、X持分を第三者Yに処分する権限の付与」を受けることができる。

この手を使えば、Aは、この権限を行使して、BCと共同して、甲土地を第三者Yに譲渡することができる。

なお、この場合、所在等不明共有者Xは、譲渡をした共有者(ABC)に対して、甲土地の時価相当分をXの持分に応じて按分した額の支払を請求することができる。

 

事例37)

甲土地に、3人の共有者(ABX)がいた。その後、Xの死亡により、X1X2がXの持分を相続した。その持分について、X1X2が遺産分割をすべき場合において、Aは、甲土地を第三者に譲渡するために、行方不明者X2の持分を処分する権限の付与を受けるための裁判を請求することはできるか。

 

相続開始のときから10年を経過した後であれば、裁判所にその旨の請求をすることができる。

 

10.所有者不明土地管理命令

所有者が不明のため管理が行き届かない土地の隣地に住むものなど、利害関係人の保護を図るための制度が新設されている。

たとえば、廃棄物の散乱する土地の隣地の住民は、どのように保護されるのかといったことが問題の所在である。

所有者不明土地管理命令は、そうしたときに、必要があると認められた場合、利害関係人の請求により裁判所が発する。

その命令においては、所有者不明土地管理人が選任される。

先の事例であれば、この管理人に、散乱する廃棄物の処理をさせようというわけである。

 

なお、所有者が不明とは、次のいずれかの意味である。

①所有者を知ることができない(誰が所有者か分からない)

②所有者の所在を知ることができない(所有者は分かるが、所在が分からない)

 

事例38)

廃材が積まれ周囲の環境を害する土地について、所有者不明土地管理命令が発せられた。

行方不明者(X)がその土地の所有者または共有者であるそれぞれの場合、所有者不明土地管理命令の効力は、どこに及ぶか。

 

1 行方不明者(X)がその土地の所有者である場合

土地とその土地上にあるXの動産に及ぶ。

つまり、その廃棄物がXの所有であれば、所有者不明土地管理人の管理の対象となる。

 

2 行方不明者(X)がその土地の共有者である場合

土地のX持分とその土地上にあるXの動産に及ぶ。

こちらも、共有者Xの所有する廃棄物であれば、所有者不明土地管理人の管理の対象となる。

 

事例39)

Yは、所有者不明土地管理人である。その土地の所有者であり、行方不明者をXとする。所有者不明土地管理命令の効力は、その土地及び土地上の動産に及んでいるとする。

1 行方不明者Xは、その土地(及び同地上のX所有の動産)の管理、処分の権限を有するか。

2 所有者不明土地管理人Yは、その土地上のX所有の廃材を廃品回収業者に売却することができるか。

3 所有者不明土地管理人Yは、その土地を第三者に売却することができるか。

4 所有者不明土地管理人Yは、Xに対していかなる義務を負うか。

 

1について

Xは、その土地の管理、処分の権限を有しない。

→そもそも、行方不明者の管理、処分は期待できない。

次の権利は、所有者不明土地管理人Yに専属する。

①土地、土地上の動産の管理及び処分をする権利

②土地、土地上の動産の管理及び処分、その他の事由によりYが得た財産の管理及び処分をする権利

→上記①の土地、動産および②の財産を併せて、民法は「所有者不明土地等」と定義する。

 

2について

当然には処分できない。

所有者不明土地管理人Yの基本的な権限は、保存行為及び利用、改良行為(所有者不明土地等の性質を変えない範囲内の行為)である。

これを超えた行為、つまり、その処分行為をするには、裁判所の許可を要する。

なお、裁判所の許可のもとで売買をした場合、所有者不明土地管理人の権限は、廃材の売買代金にも及ぶ。

 

3について

2の場合と同様である。

裁判所の許可があれば、土地の売却をすることができる。この場合、所有者不明土地管理人の権限は、土地の売買代金にも及ぶ。

 

・権限外行為と第三者の保護

所有者不明土地管理人Yが裁判所の許可なく所有者不明土地等の処分を行った場合、その許可のないことを善意の第三者に対抗できない。

所有者不明土地管理人Yの権限は強い(管理・処分権の専属)。

したがって、これを信頼した第三者の保護要件は、一段低くなっており、無過失までは要しないと考えればよい。

 

4について

所有者不明土地管理人Yは、行方不明者Xのために善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

→なお、共有者の数名が行方不明であり、その数名の持分に対して、所有者不明土地管理命令が発せられることがある。この場合には、その行方不明者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 

事例40)

Yは、所有者不明土地管理人である。その土地の所有者であり、行方不明者をYとする。その土地の上に、第三者Tの廃棄物が散乱している。Yは、いかなる手段を講じることができるか。

 

本事例では、Tの廃棄物には、所有者不明土地管理命令の効力は及んでいない。

このため、裁判所の許可の上、処分というわけにはいかない。

そこで、どうなるかというと、この場合、Yは、自らを原告として、Tに対して、その撤去の請求(所有権に基づく妨害排除請求)をすることができる。

 

民法264条の4(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い)

所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。

 

11.管理不全土地管理命令

管理の行き届かない土地について、利害関係人からの申立てにより、裁判所が、その土地の管理人(管理不全土地管理人)を選任する仕組みである。

一例として、その管理不全土地から、土砂の流入や、竹木の倒壊などの継続的な被害を受け、又はその恐れのある近隣住民が、上記の利害関係人にあたる。

 

この命令は、次の双方の要件を満たした場合に、裁判所が発する。

①所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害される恐れがある場合。

所有者が行方不明の場合の他、所有者は判明しているがその管理が不適当である場合にも発せられる。

たとえば、所有者が遠方にいて、その土地の管理に無関心な場合。

②発令の必要があると認められ場合

管理不全土地管理命令は、所有者が判明している場合にも発せられる可能性がある。

しかし、この場合、土砂の流入や、竹木の倒壊などの被害に関しては、所有者に対して妨害の排除や予防を請求することができる。

それで事が済むならば、管理不全土地管理命令の発令は要しない。

したがって、その発令がされるのは、その必要があると認められる場合に限られる。

たとえば、その侵害が一過性のものではなく、その継続が予想されるため、管理人を置く必要がある場合などがこれにあたる。

 

事例41)

所有者による管理が不適当である甲土地について、管理不全土地管理命令が発せられた。

次のそれぞれの場合、管理不全土地管理命令の効力はどこに及ぶか。

1 その土地が、Xの単独所有である場合

2 その土地が、XYの共有である場合

 

1について

土地及びその土地上の動産に及ぶ。

2について

土地及びその土地上の共有者(XY)が所有する動産に及ぶ。

土地が共有の場合、その共有者の全員が適切な管理を行っていない場合に、管理不全土地管理命令が発令されるため、その効力は土地全体に及ぶ。

 

事例42)

Zは、管理不全土地管理人である。その土地の所有者をXとする。

Xは遠方の所有者であり、その所在も判明している。また、管理不全土地管理命令の効力は、その土地及び土地上の動産に及んでいるものとする。

1 土地所有者Xは、その土地の管理、処分の権限を有するか。

2 管理不全土地管理人Zは、その土地上のX所有の動産を売却することができるか。

3 管理不全土地管理人Zは、その土地を売却することができるか。

4 管理不全土地管理人Zは、Xに対していかなる義務を負うか。

 

1について 

Xは、土地の所有者であるから、もちろん、管理及び、処分の権限を有する。

管理不全土地管理人Zも、その土地の管理権限を有するが、それは、Xの代理人的立場としての性質を有する権限であり、本人Xの権限を制約しない。

 

2について

管理不全土地管理人Zの基本的な権限は、保存行為及び利用、改良行為である。

これを超えた行為、つまり、処分行為をする場合には、裁判所の許可を要する。

なお、裁判所の許可のもとで売買をした場合、管理不全土地管理人の権限は、動産の売却代金にも及ぶ。

 

3について

2の場合と同様、裁判所の許可のもとで、土地の売却をすることができる。

ただ、2の場合と相違するのは、その土地の所有者Xの同意がなければ、裁判所はその土地の処分を許可することができない。

管理不全土地管理命令は、所有者が判明している場合でも発出される。

その所有者の意向を無視して、土地そのものの処分を許可することは、管理不全土地の管理の適正を主目的とする本制度の趣旨からは、行き過ぎと考えられるから。

→その土地の所有者が行方不明のケースでは、その同意があり得ないので、管理不全土地管理人による土地の売却は困難であるだろう。

 

4について

管理不全土地管理人Zは、所有者Xのために善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

→なお、管理不全土地が共有の場合には、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 

 

事例43)

管理不全土地管理命令が発せられた土地についての訴えにおいて、土地の所有者Xを、原告又は被告とするこができるか。

 

もちろんできる。

管理不全土地管理命令については、所有者不明土地管理命令の仕組みにおける規定は存在しない。

管理不全土地管理命令は、所有者が判明している場合にも発せられるからである。

 

・報酬について

所有者不明土地管理人、管理不全土地管理人は、いずれも、土地等から、裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受け取ることができる。

なお、報酬の原資はこれに限らず、管理に関する費用の前払及び報酬は、所有者の負担となる。

→報酬を受け取ることが権利とされている。

→不在者の財産管理人と相違する。