アメリカ生活……
いま思えば色んな出来事がありました。
あれは、最も忘れがたい珍事件の一つでした。
当時、ランチの仕事で約2年間
毎日ビバリーヒルズの一角にある、ロデオドライブという町へ行ってました。
(Camden & Brighton通り)
月~金、毎日この周辺で、3~4件の配達があった。
周りはシャネルやディオール、ティファニーなど、高級ブティックや、小綺麗なカフェやレストランが立ち並ぶ。
その町のほぼ中心部に、12階建てのビルがある。
まわりの賑やかさとは裏腹に、中に入ればほとんど人も見かけない、ひっそりとしたビル。
そのわりに、内装はとてもシャレていた。
中にどんな会社が入っているのか、ほとんど知らないまま、毎日そのビルの最上階にある、D社(美容関連会社)にもランチを届けていた。
チップは相場より多めにくれるので、お気に入りの配達先でもあった。
そんなある日のこと、いつものように12階のD社へ配達して、帰りのエレベーターへ、来た廊下を戻っていた。
途中にトイレがあり、たまに立ち寄る時がある。
その日もトイレへ行こうと廊下を歩いていたら、トイレ手前にある右壁側のドアが突然開いて、人が出てきた。
出会いがしら、一瞬ぶつかりそうになった。
Gジャンにジーンズ姿の、ガッチリした人だった。
おや?
どっかで見たことあるな……
あぁ、シルベスター・スタローンか……
リアル

いきなり目の前に現れたので
一瞬ビックリしたが
焦る間もなく、そのままトイレへ入った。
その直後、背中にすごい威圧感を感じた。
そう、スタローンもそのトイレに入ってきたのだ
しかもそのトイレ、全体的に金色でピカピカしていて、とても綺麗なトイレだけど、こじんまりしてて、男性用が2つしかない。
なので、スタローンと隣どうしで、用を足すことになった……
なんということでしょう

肘が当たりそうなほど
すぐ横で・・・
あの銀幕の大スターと・・・
自分はいま、誰とナニをしている最中なのか……
人生、何が起こるか分からない……
そんな事を考えながら……
そして、ほぼ同時に用を足し終え
手を洗う場所が一つしかないので、一足先にスタローンが。
前には大きめの鏡があり、ふと目が合った。
思わず「Hi」と挨拶してみたら、あの太い声で「Hi」と返してくれた。普通に返してくれるんだ……
トイレを出て、すぐ左側にエレベーターがあり、ちょうどスタローンも帰るところだったのか、エレベーター前で再び一緒になった……
他に誰もいない中で、じーっとエレベーターを待つ。
結構長く待たされた感があった。
ようやくこのあたりで、今スタローンと二人きりだという、あり得ない状況に緊張しはじめる。
そして到着したエレベーター。
ドアが開き、二人乗り込み、ドアが閉まる。
1秒1秒がいちいち長ーく感じる。
狭い密室の中、スタローンが一瞬こちらをチラ見した。
トイレからずっと一緒だったせいか、向こうもこちらを意識してるようだったので、思いきって普通に話しかけてみた。
「映画、結構見てますよ」(みたいな事を英語で)
すると
「Oh yeah ? Thank you」と答えてくれた。
ビルの2階には、VIP専用のパーキングがあり、そこでスタローンは降りた。
エレベーターのドアが開いたら、キチンとした身なりの人が立っていた。専属のドライバーだろうか……
嬉しい事にエレベーターを降りる際、「Bye」と別れの挨拶でがっつり握手もしてくれた。
あのゴツゴツした手で、ロッキーやランボーなどの名作を作り出してきたのか……
そう思うと、とても感慨深いものがあった。
スタローンが去ってから
しばらく頭の中でロッキーのテーマ曲がはなれなかった。


