その頃、タカユキから連絡を受けたユウトは病院を目指して、必死に自転車のペダルを踏んでいた。




あの日以来、ユウトは携帯を手離すことはなかった。




病院まであと少し…




今日は日が沈んでも気温が高く、じめじめしている。




ユウトは額の汗を拭った。




『ルカ…まだ大丈夫だよな。まさか行っちゃわないよなッ!』




ユウトはルカに届かないと分かっていながら話しかけた。




ユウトの自転車は高台の病院へ向かう最後の坂を上りきった。




坂の一番上の視界が開けたところで、ユウトは“青白い満月”を見た。




¨ルカ…あと少しで着くから…待ってろよ¨




その時…




“青白い満月”のほうから…



¨ユウト…あたし…先に行くね…バイバイ…¨




と、声が聞こえた…気がした。




『え?ルカ?なんだって?』




~~~~~~~~~~~~



そして…





ルカの身体は人形のように、何の反応もしなくなった。






¨あぁぁッ!ルカぁぁ!¨




医師はルカの身体をもう一度確認し、真知子たちを見た。




『ルカさんの心臓は…もう、がんばれないと言っています…』



『はい…ありがとうございました…』





真知子は目を伏せたまま、医師たちに礼を言った。






水本ルカ…享年18歳。




ルカは、満月の夜に天使になった。



静かに、静かに…その翼を広げて、飛び立った…





¨みんな…バイバイ♪¨




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『ルカ…ルカ?』





真知子はルカの瞳の閉じかたが普通と違うことに気付いていた。




ルカが瞳を閉じたと同時にハートモニターがアラーム音を発した。




『ルカッ!ルカッ!』





駆け付けた看護師が、モニターを見ると慌てて部屋を出ていった。




『ドクターを呼んで!』





モニターが発するアラーム音は鳴りやまない。




『先生!水本さんの血圧が60ですッ!』





部屋に入ってきた医師は腕時計をちらっとみると、




『ドパミン始めてッ!』





と看護師に指示をした。





『先生!ルカはルカはッ!』





医師は少し舌打ちをすると、




『非常に危険な状態になりました。ご家族には集まってもらったほうがいいと思います』





『そんな…』





真知子は慌ただしく動く、医師や看護師を見て、さきほどのルカとの会話を思い出した。




¨あたしが眠ったら…¨




¨あたしを…起こさないでほしい…¨





ルカは…起こさないでと言った。




真知子は何度も頭の中で、その言葉を繰り返した。




¨ルカ…あなたの最後のわがままだけは聞いてあげられないわ¨





真知子は大声で叫んでいた。




『お願いしますッ!この子を助けてくださいッ!』





しばらくすると兄のタカユキが駆け付けた。




『タカユキ!お父さんはッ?!』




『オヤジはダメだ…妄想とばかり話してる…連れてこれなかったよ』





真知子はこの時、ルカにもしものことがあれば、俊夫と別れる決心を固めた。




『ルカッ!頑張れ!頑張れ!』





タカユキがルカに向かって声をあげた。




¨お願いします…神様どうかルカを…ルカをお助けください…¨





真知子はこの状況に、祈ることしかできなかった。




『ルカッ!もうすぐユウトくんも来てくれるぞ!だから頑張れ!』





その時、ハートモニターから聞こえるアラーム音が¨ピーッ¨と長く単一な音へと変化した。




『先生!モニターフラットです!』




『いかん!電気ショック!』





続く




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『ルカ、具合はどう?』




真知子はルカに声をかけた。




ルカは一日中寝ていることが多い。




たまに目を開けて笑顔を見せたりもするが、40度近い熱が下がらない。




医師の話では、最初の一週間を乗り切ってくれれば、生命の危機を脱することができると言っていた。




最善の治療は行われている。あとはルカの精神力に頼るしかなかった。




ルカが強く¨生きたい¨と願ってくれれば…




どんな形でもいい、ただ生きていて欲しい。




真知子はそう強く思っていた。




父俊夫は病院に顔を出さない。




家でカーテンを閉めきり、暗い部屋の中で、何かぶつぶつと独り言を言っている。




今回のことでは長男のタカユキが様々なところで頼りになった。




俊夫はタカユキのことを出来損ないのクズだと口癖のように言っていたが、今回の件では父親よりも強く逞しく感じた。




真知子はルカの寝顔を見つめていた。




父親の体裁のために重い期待をかけられ、意にそぐわぬと今度は酷い仕打ちを受けて…




『ルカ…苦しかったね…お母さんがもっとしっかりルカを守ってあげていれば…』




真知子は嗚咽を堪えきれなくなった。




どうして娘が、お腹を痛めた娘がこんなに追い詰められなければならなかったのか…




真知子は後悔してもしきれないくらい胸が苦しかった。




『…さん…お母さ…』




小さく細いルカの声だった。




『どうしたのルカ!どこか痛いの?!』




真知子は慌てて身を乗り出した。




『母さん…泣かない…で』




ルカは真知子の涙に気付いていたのだった。




『うんうん。ごめんねルカ…痛いのはルカなのに、お母さんが泣いていてはダメね』




『お母さん…お願いがあるの…』




『うんうん。言ってごらん』




『あたし…みんな大好きだよ…』




『うんうん…』




『あたし…お父さんとお母さんの子供でよかった…よ…』




『ルカ…あなた…』




『で…ね…お願い…』




『ルカ…』




『あたしが眠ったら…起きなくなったら…』




『何を言ってるのルカ!そんなことありません!』




『ちゃん…と聞いてよぉ…』




『もぉ!ルカが縁起でもないこと言うから』




『だから…あたしが眠ったら…ね…』




『ルカ…』




『あたしを…起こさないでほしいの…』




『あなた何を言ってるの!』




『もぉ…頑張れ…って言わないで欲しいの…』




『ルカ…そんなお願い…』




真知子は言葉を無くしていた。この子は自分の命を知っている。




『あたし…¨天使¨になれるかなぁ…』




そう言うとルカは、静かに瞳を閉じた。




『ルカ…ルカ?』




続く




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