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サッカーの関東大学対抗戦だった。
右サイドの離れた位置にいた俺のところへ、ボールが飛んで来た。
少しゴールまで遠かったが果敢にシュートした。
近くにいるのは敵ばかりだ。
パスでもドリブルでもゴールへ迫ることができない。
定石通りゴールの右上を狙った。
弾丸シュートは見事にゴールへ突き刺さった。
瞬間、真後ろから猛烈なアタックを食らった。
体が吹っ飛んだ。
ラグビーじゃないんだ。誰だこんなことをする奴は!
しかもキックした後の体当たりだ。
レイトアタックはラグビーでも重い反則だ。
「この野郎!!」と振り向こうとした瞬間、目の前がグラッ!とブラックアウトした。
深い深い闇に落ちていく。
俺は集団の斬り合いの真っ只中にいた。
本物の槍で戦っている。
危ッネエな!と引いた途端、横にいた中年の侍に怒鳴られた。
「新六、臆するな!吉良を見つけるまでは、手を緩めるな!」
俺は新六と言う名の侍らしい。
どうなってんだ!
怒鳴ったやつの服装を見て、俺は全てを悟った。
着物の袖と襟と裾に、大きな山形のだんだら模様。
俺も同じ格好をしている。
こいつは赤穂浪士の討ち入りだ!
のちの幕末に新選組が、真似したスタイルだ。。
俺たちは吉良上野介の屋敷へ討ち入ってる真っ最中なんだ。
新六と呼ばれた。すると俺は間新六か。
忠臣蔵が好きで、四十七士のことは詳しく知っている。
今は元禄十五年十二月十四日てことか。
義士の戦い方は、のちに新選組が手本としたまさにそれだ。
一人の敵に三人以上で向かう。
内一人は手槍を使う。それは俺だ。
これは効果的で、面白いように突ける!自分でも驚いた!
いや、俺じゃなく間新六と言う奴の腕が凄いんだが。
こんなに強けりゃ、不謹慎だが突きまくってて実に楽しい。
俺はサッカーで鍛えた足で縦横に飛び回り、敵を撹乱して吉良の付け人を突きまくった。
人を突くことが、こんなに楽しいこととは思わなかった。
ただ、フェアじゃないことは確かだ。
こっちは鎖帷子を着込んで、手甲に鉢金をつけてるのに相手は素肌の上に寝巻き一枚だ。
ハンデがあり過ぎる。
けど、これが四十七士の狙った作戦なんだから仕方ない。
悪いけど俺は、殺戮の限りを尽くした、
激闘は四時間ほど続き、裏口の方角で合図の笛が鳴った。
吉良を見つけたのだ。
大石は無事に吉良を首を取り、我々は勝鬨をあげた。
隊列を組んで、殿の墓所のある泉岳寺を目指した。
みんなはこれで本懐を遂げ、公儀の沙汰を待つばかりとなる。
多分、全員切腹だろうけど。
だが俺は違う。もう一つ大きな闘いが待ってる。
それに、これをしなければ俺は生きていけない。
初恋の落とし前だ。
転生したばかりで、なぜそんなことを知ってるんだと思うだろうけど体が覚えてる。
討ち入り前も俺は大石様の命令で、いろいろなことをした。
人様の前で口に出来ないことばかりだ。
全ては吉良の首を取るためと思ったが、
瀬尾お慶と言う吉良と縁続きの娘を騙したときは辛かった。
吉良邸へ出入りして入るお慶に近づけと、堀部安兵衛に命じられたのだ。
お慶は琴の名手だった。
月に一度、吉良の前で琴を引くために屋敷へ通って居た。
縁続きのお慶を、吉良は全く警戒せず可愛がっていた。
俺は琴を習い、師匠の紹介でお慶に会った。
お慶と親しくなった。
二十四にして俺は初めて恋を知った。
お慶も俺を慕ってくれた。
もちろん、彼女は俺が吉良を狙って入る赤穂浪士だとは知らない。
討ち入り三日前、お慶は自害した。
俺の正体を知り、自分の部屋で懐剣で喉を突いたのだ。
辛い死だったろう!
俺は激しく胸が痛んだ!
殿の本懐を遂げるまでは、後を追うわけにはいかない。
仇討ちがなかったら、その日の内に腹を切っていた。
本当に辛かった!
お慶の死の真実を知るのは俺だけだと思っていたら、もう一人いた。
彼女の兄の潤次郎だった。
討ち入りの前の晩、彼は俺の前に現れ、妹の仇を討つと言った。
立ち会えと迫る。承知した。
みんなと別れ、俺は潤次郎と斬り合いをする。
今度はこっちが仇だ。立会いを受けた後で、彼が一刀流の達人と知った。
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