第59回の演奏会の曲目の成立には少し紆余曲折がある。

まず、定期演奏会とは別に演奏する機会が出来る可能性があり、そのために適当な曲としてシベリウスの「カレリア」組曲を選定した。そしてこれを定期演奏会の中にも組み入れることで、練習の効率を図った。

そして、古典を演奏するにあたってトロンボーンも参加させるために魔笛序曲を取り上げることとした。

そして、私が数年前にその存在を知った「カレリア」の序曲を、組曲の終曲として演奏するアイデアを採択して、これを前半のメインとすることにした。

「カレリア」序曲はハ長調の壮大なエンディングがあるので、それにあった交響曲ということでベートーヴェンの5番とブラームスの1番が候補となった。

ここで、この2曲のどちらにするかを団員の投票で決めるという案がでた。そこでメールを使って投票してもらい。ベートーヴェンが僅差で当選した。

ここで私はベートーヴェン第5番の直前に魔笛序曲を演奏するアイデアに至った。「カレリア」組曲は変ホ長調で始まる。序曲はハ長調で終わる。魔笛序曲は変ホ長調、ベートーヴェン第5番は調号が同じハ短調で始まり、ハ長調で終わる。

これを行うと前半は「カレリア」だけになってしまう。そこで、変ホ長調の序曲としてベートーヴェンの「シュテファン王」序曲を選んだ。

演奏する調性をある程度規制することは、演奏する上においても対応する調が少なくなり響きを整えやすい。聴き手にとっても調性を把握しやすく聴きやすくなるだろう。

「カレリア」の曲順は、序曲を最後にするので、その前をイ短調のバラードにした。組曲で終曲の行進曲を第1曲間奏曲の次に演奏する。変ホ長調とイ長調は関係が離れているようだが、いわゆる「裏コード」であり、バルトークの調性システムでも同軸となる。もし変ホ長調の次にホ長調の曲を弾くととんでもないことになる。その実例をブルックナーのロマンチックのあとのアンコールの愛の挨拶で経験した。ヴァイオリンは音を取れなくなる。「カレリア」においては主音が半音ずれたようには聞こえないので意外と問題がない。


🎶さて、このようにしてプログラムを組みあげてみたが、後から見えてくる楽曲相互の関係も面白い。

魔笛序曲のメインテーマは同じ音を6回8分音符で連打する。同音連打の曲と言えば、ベートーヴェン第5番第1楽章であろう。

「シュテファン王」序曲の旋律は第九の旋律の雛形であると言われているが、この旋律をシンプルに伴奏する低音は4度下降して2度上がり4度下がる、いわゆるマーラー「巨人」のテーマ音形である。これが「カレリア」序曲の旋律の中でハッキリ聴き取れる。

意図したわけではないが、そういったつながりがあることで、楽曲に面白い味付けがなされてくる。楽曲相互の関連を意図したプログラミングがあると、個々の楽曲に新たな側面が生まれてくることにもなる。

シベリウスとベートーヴェンのスコアを見ると、オーケストラの楽器配分に少し共通するものがあるように思えた。切り詰めた編成で長い時間を保ったり、管楽器の重厚な響きで弦楽器を埋もれる寸前まで包み込んだり、執拗にひとつの独特なリズムをひとつのパートに与えたりする。両者の作品にある集中度の高い表現への希求の表れと見ることができよう。今回はシベリウスにおいては少しベートーヴェンの響きに寄った表現にしてみようと考えている。そのほうが演奏する側も楽しめるだろう。

♬アンコールに用意した曲はハ長調の小品だが、突然変ホ長調が顔を出す。本編との関係をここでも意識した。






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