第1楽章は結核という病と闘うカリンニコフ自身の内面の吐露と見ることが出来るだろう。


♪唐突に弦楽器で始まる旋律は、将来展開されるいくつかの要素がある。カリンニコフ自身の心情を表すテーマと見ることが出来るだろう。

最初のDの音から上下に1音揺れるモチーフは、そのリズムは固定されて音の抑揚が変化する。

音階上行のあと、D・F・Gの3音を使ったモチーフは最後のG→F→D(2度→3度)と降りる形が、後の楽章の主題等に反映される。



♪このテーマに続くシンプルな半音階の上下への乖離は「和音モチーフ」と呼べるもので、前半は不安感があり、後半では2声が加わり、不安からの克己を表すかのように力が加わる。楽章内で度々現れ、第4楽章でも扱われる。作曲家自身の闘病の心理を表しているように感じる。


♪続いて、冒頭のテーマが展開されていくが、ここで音階上行のモチーフは早くも変形され新しいモチーフとなる。そしてこれが以降リズミカルになり頻出してくる。

冒頭のテーマが力強く再現されると、最後の3音モチーフが繰り返されて場面の終わりを宣告する。その残り香に和音モチーフを匂わせて、第2テーマが現れる。


♪第2テーマは、2音目を省くと第1テーマの最初のモチーフと音の並びは似ている。また、音階上行に代わり音階下行を含み、最後に3音モチーフが逆行で現れる。このテーマは展開部では抑揚が大きくなる。

また、第2テーマを伴奏するモチーフは第1テーマ部分の終結部の3音モチーフをリズム的に縮小したものと見ることができる。

第2テーマをおおらかに歌い切ると、第1テーマのモチーフによる終止部となる。各モチーフの受け渡しに終始するが、あらゆるものが解体され、最後は属7和音な第3展開形の音塊となって、ヴィオラの落胆するような音階下降とそれに応える弦楽器の淋しげなピッツィカートで終わり、冒頭への繰り返しとなる。


♪展開部の始めは、3音モチーフから始まり第2テーマと混ざり、初めて安堵感のある空間となる。

しかしすぐに、終結部のピッツィカート部分が展開され、第1テーマの展開となる。

転調をしながらテーマは希望を持って進む。しかし、和音モチーフが現れると第1テーマはそれに合わせるため歪んでゆく。病に侵されていく作曲家の姿を見るようでもある。

そして第2テーマと第1テーマが絡みあってクライマックスを迎える。ここまでを第1展開部とみることができる。


♪低弦と木管の対話を経て第2展開部へ入る。まずは弦楽器のフーガで第1主題が重厚に扱われ、それを全合奏で広がりのある形に再構築される。

すると展開部冒頭と同様の3音モチーフの引き延ばしが現れ、低弦から現れるアルペジオが音楽に力を与えて、最大のクライマックスを形作る。

2つの展開部の間にあった挿入句がホルン(上行に変わっている)と木管の対話で現れ、弦楽器の深い響きに移り、再現部につながる。


♪再現部は展開部で現れた素材を含めながら進行するため、内容が濃くなっている。第2主題が低弦アルペジオモチーフを伴って歌われたあと、第1テーマの頭のモチーフの抑揚が高まった形が音価を倍に延ばして現れる。

高揚した結末にはやはり属7和音第3展開形の音塊が現れる。とどめを刺すような響きは、マーラー6番のハンマーの役割を連想させる。


♪ピッツィカートが終焉を表すが、倒れた人が急に起き上がったかのように急激に高揚する。しかしまたしても同じ音塊…。

打ちひしがれるようにオーボエがテーマを奏し、それを掻き消すように3音モチーフを低音に持つ嗚咽のような強奏で曲を閉じる。