12音平均律を用いる以前の時代では、調によって各音階音の間の音程が異なり、それによって現れる音楽の気風が異なっていた。それらを調の性格として類別して、楽曲の表現に役立てていた。

ヘンデルの「メサイア」はその好例であろう。アーノンクールのCDのライナーノートには、調性格についても説明されている。



それでは、私が感じるオーケストラ曲での調性格についていくつかみてみよう。



◇変ホ長調 Es-dur

Gを基準にEsとBが高めとなり、輝かしい響きが特徴となる。やはり

英雄的気質

を持っているといえるだろう。ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」&ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、R.シュトラウス「英雄の生涯」など、栄光に浴する響きである。ヴェルディ歌劇「アイーダ」の凱旋行進曲でも使われている調である。
滑らかな旋律を奏すると、高貴な香りがただよう。今や有名なホルスト組曲「惑星」のなかの「木星」の中間部などが好例だろう。ハイドン交響曲「マーキュリー」「哲学者」もこの調。モーツァルト交響曲39番なども気品を感じさせる。

また、私は「海」のイメージも感じる。

R.ヴォーン=ウィリアムズ交響曲第1番「海の交響曲」の印象が主であると思うのだが、広大な印象や爽快な輝きを感じる。同交響曲第7番「南極交響曲」もこの調だ。




◇変ロ長調 B-dur

この調には喧騒や陽気な雰囲気を感じる。軽快な音楽に良く使われている。

モーツァルト交響曲第33番、ベートーヴェン交響曲第4番が挙げられるだろう。ヘンデル「メサイア」では民衆が集まるシーンで使われる。

弦楽器としては開放弦が沢山使えて、比較的高い音域で旋律を弾いて楽しめる。Dの音が主和音の3度音として、弦の共鳴も手伝って明るく響くのが魅力だろう。

ハーフポジションの音が主要音なので、弦長が長いが指で押さえた音となる。かなり激しい演奏をしても、音色が汚くならないのも、快活な曲調に合っているだろう。



今回は、2つの調を考えてみた。調の性格を表現するためにも純正律に基づくオーケストラピッチが有用であることも理解できるだろう。他の調についても後日見てみよう。