コントラバスをオーケストラで演奏していると、ハーフ・ポジションのF・B・Es・Asの音程を高めに押さえていることに気づくときがあるだろう。たいていレッスンでは低めにとるように教わるのに…

ここにはオーケストラの響きを美しくする「オーケストラ・ピッチ」と呼んでよい概念が存在する。

オーケストラは一般的にはオーボエのAに全ての楽器が寄り添うことで始まる。弦楽器はAをもとに全ての弦を調律する。

この「動かし難い」音の存在が共鳴する音程の規準となっていく。

特にCとFは、ヴァイオリンの上2弦のEとAに対して美しい長3度の音程を形成するように仕向けられる。

普通は(例えば声のアンサンブルなどでは)根音となるCに対してEを、Fに対してAを(平均律音程より狭めるために)低くするだろう。

しかし、EとAはオーケストラでは「動かし難い音」になっている。

よってCとFを高めにとることはオーケストラの共鳴に役立つ操作と考えられる。

更に順を追ってDに対するB、Gに対するEsも、高めに設定することになる。つまり臨時記号フラットがつくと音高は高めになる。反対に臨時記号シャープが着くと低くなる。これらの音程変化の頻度は完全5度の関係で見ると理解しやすい。調律法では「ヴァロッティ」や「ヤング」がこれに近い。

実際には、より複雑な音の関係があるので、鵜呑みにしてはいけないが、基本方針としてオーケストラ・ピッチを考えてみると面白い。

慣れてくれば、ハ長調で属7の和音が鳴っているときにFを弾いていると気付いたら、オーケストラ・ピッチの定石の「高いF」ではなく、低いFを選択できるだろう。とはいえ、動かし難いEに解決すために移行するわけであるから、殊更低いわけでもない。根音Gがわずかに高いと響きは良くなるだろう。

このように共鳴を考える場合、「中全音律(ミーン・トーン)」の調律において、長3度を純正にとるために完全5度を狭くする処置をすることを知っておくと有用だろう。完全5度は少し狭くなっても響きに影響が少ないと考えておくと、矛盾の解決ができるだろう。

「田園」や「英雄」を明るく輝かしい響きにするには、オーケストラ・ピッチの操作が効果的だろう。オーケストラのハ長調が輝くためにも必要な知識であろう。