去年開催された「LOUD PARK 09」での初来日も記憶に新しい
スウェーデンのゴシック・メタル・バンド、
THERIONのライヴDVD『LIVE GOTHIC』を観た。

百錬ノ鐵 アメブロ支部

最新作『GOTHIC KABBALAH』のリリースに伴うツアーの中から、
2時間に及ぶポーランド公演の模様を完全収録。
さらに、
その音源のみを収録した2枚組CDも同梱する豪華版である。

結成当初はデス・メタルだったが、
作品を重ねるごとに「デス声」を排除し、
今やすっかりゴシック・メタルに様変わりしてしまった……
というよくありがちなパターンのバンドである。
しかし、THERIONの場合は、
スタジオ作品においてシンセサイザーだけでなく
本物のオペラ歌手やオーケストラを起用するなど、
プログレに通じる大仰さを徹底して演出することで、
別の意味でのインパクトを提示している。

この日のセットリストは
ゴシック・メタルに転向したアルバム『THERI』以降の曲のみで、
デス・メタル時代の曲はいっさい含まれていない。
もっとも、
ライヴではいちいちオーケストラを連れて回るわけにもいかず、
よりギターを前面に出したシンプルなサウンド編成となっている。
その代わりに、
ヴォーカリストを男女2名ずつ、
計4名もフロントに起用することで、
音の厚みはスタジオ作品と較べても何ら遜色はない。
ちなみに、その4名の内の一人Snowy Shawは、
私の大好きなブラック・メタル・バンドNOTRE DAMEのリーダーでもあり、
オペラチックな歌唱の他にも
NOTRE DAMEで聞かせる不気味な声を出して、
楽曲の神秘的なムードに禍々しさをプラスしている。

特筆すべきは、
4名のフロントマンが曲毎に繰り広げる
シアトリカルな演出の数々。
曲によっては女性ダンサーも登場し、
幻想的かつエロティックに舞い踊る。
ドラマーがソロを披露する際には、
2名の男性ヴォーカリストもそれに合わせて太鼓を打ち鳴らし、
まるで日本の「鼓童」を思わせる掛け合いを見せてくれる。
バチを剣に見立ててフェンシングするなど、
荘厳なイメージとは裏腹のユーモアもあり。
さらには本編ラストを飾るインスト曲でさえ、
ステージ前方でヘッドバンギングしながら熱演する弦楽器隊の後方で
ヴォーカリスト4名が黒い旗を掲げるなど、
観客を飽きさせない工夫が終始施されている。

ただ、惜しむらくは肝心の楽曲が、
良くも悪くも「普通」のヘヴィ・メタルというか、
ヘヴィ・メタルの「様式美」みたいなものから一歩も抜け出していない。
どうせなら、
プログレ張りの複雑なアンサンブルや構成にも
チャレンジしてみたらいいと思うのだが、
アンコールで披露されたMANOWARのカヴァーに象徴されるとおり、
本人たちはあくまでも
「ヘヴィ・メタル」のフィールドに拘りがあるらしい。

ちなみに、そのMANOWARのカヴァー『THOR(THE POWERHEAD)』で、
リード・ヴォーカルを取るSnowy Shawがハンマーを手にしていたのは、
この曲が北欧神話の雷神トールをテーマにしていて、
そのトールが絵画の中では
常にハンマー(「ミョルニル」と呼ぶ)を振りかざした姿で描かれるから。
日本盤のライナーノーツを書いているB!のライターは
昔からブラック・メタル系のレビューを多く手がけているが、
北欧のブラック・メタルは北欧神話をモチーフにした作品が多いのに、
こんな初歩的な知識すらないのはプロとしてちょっと情けない┐( ̄ヘ ̄)┌