はじめに物語の設定はこちらから♪




【語り:ヘンリー】


僕がケートにその気がないことがわかって安心したのか、スティーブは嬉しそうにスキップまで始めた。



そんなにケートのことが気に入ったんだ…




確かに、

どうしようもなく心惹かれる相手に出会ってしまったら、もうその気持ちは誰にも止められない。




今のスティーブはまさにそんな感じだった。


表情や態度、身体の動きのすべてがそれを表していた。





そして、 

僕はそのことをひどく羨ましく感じた。



それはおそらく僕には一生叶わない夢だから。



エマ…





*******************






「わっ。」


そんなことを考えながら歩いていたせいか、前を歩いている人にぶつかってしまった。


「すみません。」


慌てて顔を上げて謝る。



でも、ぶつかったのは知らない誰かではなく、スティーブの背中だった。


「なんだ、スティーブ。ごめん、ちょっと考え事してて…って、スティーブ?」



「…」




返事がない。




「…スティーブ?」


僕は不思議に思ってスティーブの顔を覗き込んだ。




するとスティーブは、なぜかまっすぐ前方を見ながら固まっていた。

その瞳は大きく見開かれ、口も開けたまま、閉じるのを忘れている。



「ねぇ…スティーブ?」




「女神さま…」




「えっ?」


「女神さま…女神さまが、俺に笑って手を振っている。」





女神さま?





僕は全くもって意味がわからずに、スティーブの視線の先を追った。



「あっ…」


そして、彼が何を言っているのかを理解した。



*******************



父さんの言っていた次の案内所に着くと、そこには母さんと、エマの母親のメグが立っていた。


先ほどと同じように、ふたりの頭の上には



“新1年生はここに集合”



の煙文字が浮かんでいる。




僕とスティーブがふたりの前にくると、


「ヘンリー、無事着いたのね。お疲れ様。よかったわ。」



メグがにっこり笑って、ここまでの移動をねぎらってくれた。



「ところで、エマは?」


辺りを見回しながら聞く。


「もうすぐ来ると思う。電車で席が隣になった子と話しながらこっちに向かっているから。」



「あら、エマはもうお友達ができたの?あの子が珍しい。でもよかったわ。」


メグが嬉しそうに微笑んだ。


「うん。」

と僕も笑いながら答えた。



エマとケートはここに着くまでに、まるで昔からお互いを知っていた親友のように仲良くなっていて、駅のホームに降りるときも、何やら後ろの方で楽しそうに話をしていた。





そんなふうにメグと穏やかに話をしていると、突然そこに、



「ヘンリィ〜💕寂しかったぁ💕💕💕」


メグの隣にいた母さんがピョンピョンと飛び跳ねながらこちらへやってきて、そのままガシッと僕に抱きついてきた。




するとそれを見ていたスティーブが、驚いて、でも粗方予想通りのことを言う。


「えっ、なに?お前女神さまのお知り合い?なんだよ。ずるいぞ、俺に紹介しろよ。」



僕は一瞬面倒だから無視しようかとも思った。



だけど黙っていると余計うるさそうなので、できるだけシンプルに、本当のことを言った。


「…僕の母さんだよ。」



「ええーーーーー!!!」




はぁ、面倒くさいなぁ。




「あら、こちらヘンリーのお友達?」


母さんが隣のスティーブの存在に気がついて僕に尋ねた。


「いや、友達じゃない。ただ電車で偶然席が隣になっただけ。母さん、みんな見てるよ。」



周りがざわついている。




あら、と言って母さんが離れた。


やれやれ。



「はっ、なに?女神さまがお前の母ちゃん?こんな綺麗な人が子持ちかよ!」



「変な言い方するな!」



心の中でなんで漫才みたいなことをやっているのだろうと思いながらも、スティーブに言い返すと、スティーブはもうすでに僕からは離れ、まっすぐ母さんの方に向き直っていた。
姿勢を正して、敬礼までしている。


「僕は、スティーブ・マクレーンと申します!先ほど、あなたの息子さんのヘンリーくんと親友の誓いを交わしました!こんな僕ですが、可愛がってください!よろしくお願いします!」


「はっ?」


「あら、ヘンリーと親友になってくれたの?ありがとう。仲良くしてあげてね。」


母さんがそう挨拶して微笑むと、スティーブはまるで絵に描いたように鼻の下を伸ばした。



僕はもう面倒くさかったからあえて何も言わずに、ため息だけついた。


母さんとメグが笑っている。




「あっ、リリー、エマたちも来たみたい。」


メグが言った。



「あら、本当。隣の子はそのお友達ね。」




母さんとメグが、エマとケートの方に手を振ると、ふたりは顔を見合わせて笑った。



こんな時はふたりとも、まるで学生時代に戻ったような顔になる。



後ろを振り向くと、エマもこっちに向かって手を振っていた。