『医療崩壊のすすめ』特集記事

「病院を増やせば医療は良くなる」は本当なのか?

医師・森田洋之氏の『医療崩壊のすすめ』は、刺激的なタイトルとは裏腹に、「医療を壊そう」と主張する本ではありません。著者が問いかけているのは、「医療とは何のために存在するのか」という根本的な問題です。

森田氏は夕張市で地域医療に携わった経験をもとに、日本の医療制度が抱える構造的な課題を分析し、「医療崩壊」と呼ばれている現象の多くは、実際には医療資源の絶対的不足ではなく、制度設計や資源配分の問題であると論じています。著者は同様の問題意識を、その後の著作『日本の医療の不都合な真実』でも展開しています。


「医療崩壊」の正体とは

一般には、

  • 医師が足りない
  • 病院が足りない
  • 病床が足りない

ことが医療崩壊の原因だと考えられています。

しかし森田氏は、世界的に見ても日本は病院数・病床数が非常に多い国であるにもかかわらず、「医療崩壊」が繰り返し問題になる点に着目します。コロナ禍でも「病床数世界一」でありながら受け入れ困難が起きた背景には、単純な数ではなく、医療提供体制の仕組みが関係していると論じています。

つまり、

医療崩壊とは「医療資源が存在しないこと」ではなく、「必要な場所へ適切に配置・運用できないこと」である

という視点です。


夕張市が示した意外な事実

森田氏が全国的に注目された理由は、財政破綻した北海道夕張市で地域医療を実践した経験です。

多くの人は、

「病院が縮小すれば住民は不健康になる」

と考えます。

しかし夕張では、

  • 在宅医療
  • 地域包括ケア
  • 住民同士の支え合い
  • 介護との連携

を進めることで、医療依存を減らしながら地域全体で健康を支える仕組みづくりが進められました。こうした経験は、森田氏の医療政策に関する議論の基盤となっています。


医療は「治す」だけではない

本書が強調する重要なメッセージは、

「医療は万能ではない」

という点です。

現代医療は

  • 手術
  • 救急医療
  • 感染症治療

では極めて大きな成果を上げています。

一方で、

  • 老化
  • 認知症
  • 慢性疾患
  • 人生の最終段階

については、医療だけで解決できる問題ではありません。

そのため著者は、

「生活」
「地域」
「介護」
「家族」

を含めた社会全体で健康を支える必要性を訴えています。


「医療に人生を預けすぎない」

森田氏は、

「人生の主導権を医療へ渡してしまってはいけない」

と繰り返し述べています。

健康とは、

病院へ通うことではなく、

自分自身の生活習慣や地域社会とのつながりによって維持される部分が大きいという考えです。

これは

  • 食生活
  • 運動
  • 睡眠
  • 人との交流
  • 生きがい

など、医療以外の要素が健康に大きく影響するという予防医学・公衆衛生の考え方とも重なる部分があります。


読者への問い

本書は次のような問いを読者へ投げかけます。

  • 医療はどこまで人を幸せにできるのか。
  • 病院を増やせば本当に健康になるのか。
  • 人生の最後まで医療中心でよいのか。
  • 地域社会にはどのような役割があるのか。

こうした問いを通じて、「医療の量」ではなく「医療のあり方」を考える契機を提供しています。

 

 

 

 


編集部の視点

『医療崩壊のすすめ』は、刺激的な題名ゆえに誤解されることがありますが、その主題は医療の否定ではありません。

むしろ、

「本当に必要な人へ、持続可能な形で医療を届けるにはどうすればよいか」

という制度設計を考える一冊です。

一方で、本書の提言や医療政策に対する評価には賛否があり、専門家の間でも議論があります。医療制度は患者の安全性、公平性、財政、地域差など多くの要素が関わるため、本書を読む際には、異なる立場の研究や政策論もあわせて参照し、多面的に検討することが重要です。