Scope3 が対象とする範囲は多岐にわたります。そのため、15 のカテゴリに分けて、それぞれのカテゴリごとに排出量を計算します。ここでは、① 15 カテゴリの概要、②排出量算定方法の基本的な考え方―を学びます。

 

■上流(カテゴリ1 〜8)、下流(カテゴリ9 〜15)に分類
Scope3 は、Scope1・2 と比べて、企業ごとの算定方法にバリエーションが生まれやすくなります。サプライチェーンの中で自社が与えている影響について、どこまでの範囲を想定するか、販売する製品の数量、製品の使われ方(=シナリオ)をどのように想定するかによって算定方法が変わります。
Scope3 は15 のカテゴリに分類されています。これらの15 カテゴリは、サプライチェーンの上流に相当するカテゴリ1 〜8 と下流に相当するカテゴリ9〜15 に分かれています。
上流(カテゴリ1 〜8)は、主に企業が事業を行う過程で購入した製品やサービスに関する範囲を指します。例えば、原材料、部品、その他の販売に係る資材などや資本財(生産するための様々な設備機器、建物車両など固定資産として挙がるようなもの)、従業員の出張や通勤、自社が賃借しているリース資産の操業などがあります。
これらが共通している点は、企業からすると通常お金を払うことによって対価として得ているものなので、より低炭素な製品やサービスが出てくれば意図的にそちらを選択して購入できることです。そのため、GHG 削減に取り組んでいる企業が排出量が少ない製品やサービスを積極的に選ぶことで、排出の変化が反映されやすいといえます。このような理由があるため、Scope3 の中でも特に上流の排出量削減に積極的にかかわっていくことが求められます。
上流(カテゴリ1 〜8)を別の視点で説明すると、それぞれのカテゴリは財務諸表上の項目とおおむね整合しています。例えば、カテゴリ1 の「購入した製品・サービス」であれば、PL(損益計算書)上の売上原価か仕入れ高、あるいは管理費に計上する品目であることが一般的です。その会社がキャッシュアウトさせている、すなわちキャッシュを使って入手した製品やサービスを算定の対象とします。カテゴリ2 の「資本財」は基本的にはバランスシート(貸借対照表)上での固定資産の増加額に対応します。カテゴリ4 は配送費、カテゴリ5 は産廃処理費としてメンテナンス費の一部として計上されているケースが考えられます。
このように、各カテゴリの算定対象は、財務諸表上計上される数値との整合を図る、というのが基本的な考え方です。ただし、算定に使用するデータとしては、勘定科目の金額データよりも精緻なデータがあればそちらを優先する、ということになります。

 


■下流(カテゴリ9 ~ 15)では「シナリオ」を想定
一方、下流(カテゴリ9 〜15)は、主に企業が販売した製品やサービスに関する範囲を指します。製品やサービスが消費者のもとに届いてから、あるいは中間の製品を作っている企業であれば組み立ての会社に製品を送ってから、製品がどのくらいの期間にどのように使用されるかを想定します。こうした想定を「シナリオ」と呼びます。なお、下流の算定は、上流の算定に比べて精度が落ち、削減へのアプローチも難しくなります。販売した製品がどのように使用され、どのように廃棄されたかの実データ取りは難しく、最終消費者へのアプローチも限度があるからです。そのため、企業としては、排出のホットスポットを特定したうえで、Scope3 上流の削減を優先して注力するのがよいでしょう。
また、企業の排出量を評価する側も、Scope3 の各カテゴリの特徴を十分に理解した上で、排出量大=悪といった、安易な評価を避ける必要があります。
上流に対しては、サプライヤーエンゲージメント(協調・協力)や調達製品の見直し、下流に関しては、製品の省エネ化といった、企業の削減努力の方に目を向けるのがよいでしょう。

 

■算定対象範囲
Scope3 は15 のカテゴリに分かれていますが、その最初が自社で購入した製品・サービスの排出に関するカテゴリ1 です。以下、環境省と経済産業省が取りまとめた「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.4)」に基づいて説明していきます。
まずカテゴリ1 の算定対象範囲について理解しておきましょう。算定対象範囲は、自社で算定年度内に購入・取得した、全ての製品とサービスの資源採取段階から製造段階までの排出です(図の赤枠部分)。ここで重要なポイントは、算定対象を対象年度の会計勘定科目ごとの内容と極力一致させるということです。
製品・サービスの調達形式に関しては、直接調達(事業者の製品の製造に直接関係する物品など)だけでなく、間接調達(事業者の製品の製造に関係しないが、事業を行う上で必要な物品・サービス)も算定対象となります。直接調達は、原材料、中間製品、最終製品(仕入商品含む)が含まれます。間接調達は、損益計算書の一般管理費・販管費に当たるような項目が主となります。具体的には、製品としては、事務用品、ユニフォーム、社員食堂用の食材などが該当します。サービスとしては、上下水道、クリーニング、修理・修繕、外部のレンタルサーバー利用などが該当します。

 

カテゴリ2 の算定対象範囲は、算定対象期間に購入または取得した資本財に係るCO2 排出量です。資本財のサプライヤーが資本財を建設・製造・輸送する際に発生するCO2 排出量を算出します。
「資本財」とは、長期間の耐用期間を持ち、製品製造、サービス提供あるいは商品の販売・保管・輸送などを行うために事業者が使用する最終製品であり、財務会計上、固定資産として扱われるものです。資本財の例には、設備(工場・オフィス・店舗など)、機器、建物、施設、車両などが挙げられます。ただし土地は、それ自体の取得にGHG 排出が伴わないものであれば含みません。
テナントとして借りている既存の施設を改装する場合には、改装する部分(内装・機械など)のみが算定対象となります。無形固定資産はCO2 を排出しないものとして原則算定対象外ですが、例外として「ソフトウエア」は含まれます。鉱物探査やプラントエンジニアリングも固定資産として算定対象に含まれます。
なお、資本財を使用する際に発生する排出量についてはScope1 またはScope2 で算定します。資本財以外の製品・サービスの調達はカテゴリ1 で算定します。

 

 

カテゴリ4 とカテゴリ9 の対象範囲は、自社のサプライチェーン上の「輸送」、および「荷役・保管・販売」に伴う排出です。
輸送の範囲としては、一次サプライヤーから発送されて以降の輸送が対象となります。一次サプライヤー以前の輸送に関しては、カテゴリ1 で算定されているため、考慮に入れません。対象となる輸送は、自社が委託している輸送業者や販売先など、他社が行う輸送です。自社が保有・管理している車両で輸送する「自社輸送」はScope1 に含めます。
また、物流倉庫や仲介会社・販売会社など、他社で行われる「荷役・保管・販売」に伴う排出量も対象となるため、空調使用をはじめとするエネルギー使用も、原則としては考慮に入れる必要があります。ただし、輸送と同様に、自社で行う荷役・保管・販売に関してはカテゴリ4、9 には含めず、Scope1、2に含めます。


■カテゴリ4 と9 の違い
一次サプライヤーから発送されて以降の輸送を対象とするカテゴリ4 と9 ですが、両者はどのように区別すればよいのでしょうか。「図表●カテゴリ4、9:輸送・配送(上流、下流)」をご覧ください。
基本的には、「調達物流※である」、または、「自社が荷主である」という場合のいずれかを満たせば、カテゴリ4(上流)として算定を行います。すなわち、自社が関わる物流の多くは、カテゴリ4 に分類されるということです。
例えば、「自社」から「販売先」への出荷輸送はモノの流れでは「下流」であるためカテゴリ9 と思われがちですが、日本の商習慣では発送側が運賃を負担することが多いため、自社が運賃を負担している(自社が荷主である)限りはカテゴリ4 で算定します。
一方、カテゴリ9(下流)は、最終製品メーカーの場合、他社倉庫までの他社による「輸送」、他社倉庫から販売店、販売店から最終消費者への他社による「輸送」のほか、倉庫での「保管・荷役」、販売店での「販売」といった部分が対象となります。
なお、以下の除外項目と他のカテゴリでの算定項目に注意してください。

 

■算出対象範囲
カテゴリ5 の算定対象範囲は、自社の事業活動から出る廃棄物が他社で「廃棄」「処理」される際に発生する排出量が対象となります。主に、委託処理を行う産業廃棄物、市町村によって処理される一般廃棄物が対象です。なお、自社内で焼却などにより廃棄物を処理する場合は、自社の敷地内でGHG が発生するため、カテゴリ5 ではなくスコープ1 に含めます。
有価物(有価で買い取られたり、無償で引き取られたりする廃棄物)は算定対象外となります。
また、廃棄物を廃棄・処理される場所まで輸送する際に発生するGHG を含めるか否かは任意となっています。
リサイクルされた場合の算定対象範囲については、リサイクル後のフローの全てを算定範囲とするのは現実的に不可能であるため、一定の範囲で区切る必要があります。区切り方については様々な考え方があり、特定の方法に限定することは困難ですが、リサイクル準備段階(輸送・解体・破砕・選別)までの排出量を算定対象範囲とする、もしくは、それに加えてリサイクル段階(リサイクル原料の製造)を含むリサイクル処理プロセス全てを算定対象とすることなどが考えられます。
例えば容器包装プラスチックの場合、リサイクル準備段階までを含めるとすると、ベール化(収集したものを圧縮し、結束材で梱包して俵状にすること)までの排出を算定対象範囲に含めることになります。リサイクル処理全てを含めると、ベールをペレット化するまでの排出を含めることが考えられます。
なお、環境省の排出原単位データベース(「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.2)」)で公表されているリサイクルに関する原単位では、廃棄物種類別に、リサイクル準備段階(解体、選別等)までの排出量を考慮して設定されているとしています。ただし、リサイクル方法については、廃棄物種類ごとに多様な方法でリサイクルされているため、廃棄物種類別に最も代表的と考えられる方法でリサイクルされた場合を想定して整備しているとしています。

 

 

■算定対象範囲
カテゴリ6 の算定対象範囲は、自社が常時使用する従業員※の出張など、業務における従業員の移動の際に使用する交通機関における燃料・電力消費から排出される排出量です。ただし、自社保有の車両などによる移動は除きます。これらはScope1 またはScope2 として把握します。
出張者の宿泊に伴う宿泊施設での排出は任意とされています。従業員自身が保有する自家用車で営業活動などの業務に関わる移動を行っている場合はカテゴリ6 の算定対象です。

 

 

■算定対象範囲
カテゴリ7 の算定対象範囲は、自社が常時使用する従業員が工場・事業所へ通勤時に使用する交通機関における燃料・電力消費から排出される排出量です。ただし自社保有の車両などによる通勤は除きます。これはScope1 またはScope2 として把握します。なお、テレワークによる排出は本カテゴリに含むことができるとされています。

 

カテゴリ8 とカテゴリ13 はいずれもリース資産に関する排出です。違いは、カテゴリ8 は自社が賃借しているリース資産の操業に伴う排出が算定対象であるのに対して、カテゴリ13 は自社が賃貸事業として所有し他社に賃貸しているリース資産の運用に伴う排出を算定対象とします。算定時に注意すべきポイントは、対象となる排出活動の範囲(=ライフサイクル)はリース資産の「操業・使用」に伴う部分であり、対象期間は算定年度のみである、という2 点です。そのため、リース車両や施設の場合の活動量は、算定年度1 年間のみの燃料使用量や電気使用量となります。このあと出てくる、生涯使用時間を考慮するカテゴリ11 との違いに、ご注意ください。なお、カテゴリ8 は上流、カテゴリ13 は下流に分類されています。以下、それぞれについて詳しく説明します。

 

 

■算定対象範囲
カテゴリ10 は、自社で製造した中間製品(最終消費者が使用する前に更なる加工や組み立てが必要となる製品)が自社の下流側の事業者(中間加工業者や最終製品製造者など)において加工される際に発生する排出です。従って、中間製品を加工する下流側の事業者のScope1 とScope2 の排出量を算定する必要があります。

 

 

■算定対象範囲
カテゴリ11 では、製品の使用に伴う排出量を算定対象とします。対象とする製品は、算定対象とする年度に販売した製品(システムやサービスを含む)です。次の2 区分があります。
●直接使用段階排出
・ 使用中に直接エネルギーを消費する製品:乗用車、照明、家電製品などの製品使用時における、電気・燃料・熱の使用に伴うエネルギー起源CO2 排出量・ 燃料やフィードストック(原材料):石油製品、天然ガス、⽯炭、原油など、燃料使用時のGHG 直接排出
・ 温室効果ガス(GHG)そのもの、使用中に温室効果ガス(GHG)が放出される製品:ドライアイス使用時のCO2 気化、エアコンで使用するフロン、化学肥料使用時のN2O 排出など、いわゆる使用時の6.5 ガス※の直接排出
●間接使用段階排出
・ 使用中にエネルギーを間接消費する製品:アパレル製品を洗濯したり乾燥させたりする際の洗濯機と乾燥機の電力使用にともなう排出や、食物を調理する際のガス使用や冷凍する際の電力使用に伴う排出、ソフトウエア使用時のハードウエアの電力使用に伴う排出など、製品使用時に間接的に電気・燃料・熱を使用する製品のエネルギー起源CO2 排出量なお、上記の直接使用段階排出で「燃料やフィードストック」「温室効果ガスそのもの」を対象としている理由は、石油製品、天然ガス、ドライアイスやフロンなどを製品として販売している企業を想定しているためです。
重要な点は、GHG プロトコルでは、直接使用段階の排出は必ず算定対象とし、間接使用段階の排出は任意とされている点です。ただし、規模や削減可能性などの観点から重要だと判断した場合は間接使用段階の排出も算定対象にします。また販売した製品間で同一の排出源に対し明らかにダブルカウントになる場合には除外するのが望ましいといえます。
なお、中古品の販売を主業としていない場合は、中古品販売分(車両の下取りなど)による使用時の排出は算定対象外とします。算定対象とする期間は、「製品が販売された年に、その製品の生涯において排出すると想定される排出量(生涯排出量※)をまとめて算定する」とされています。
排出有無の見極めの例
カテゴリ11 の算定対象となるかどうかは、販売した製品の使用時に温室効果ガスの排出を伴うかどうかで判断しますので、その見極めが必要な場合もあります。例えば、太陽光発電システムの使用はエネルギー消費が無いことから、カテゴリ11 に該当する排出はありません。しかし、パワーコンディショナー(直流の電気を交流に変換するための機器)も一緒に販売しているのであれば、駆動させるのに電力を必要としますので、その使用時排出量を製品仕様などから
推計する必要があります。ただし、太陽光発電により生じた電力を用いて駆動するパワーコンディショナーであれば、使用時排出量はゼロですので排出量の算定対象外となります。

 

 

■算定対象範囲
カテゴリ12 の算定対象範囲は、自社が製造または販売した製品本体および製品に付す容器包装の「廃棄」または「処理」に関する排出です。ここで「廃棄」とは捨てること自体の行為で、「処理」とはリサイクル処理や焼却・埋め立て処理などを指します。製品を販売した年に、将来その製品が廃棄される際の排出量を算定することとします。
廃棄物を扱うカテゴリは他にカテゴリ5 があります。違いとしては、カテゴリ5 が自社の事業活動の中で発生した廃棄物を対象としているのに対し、カテゴリ12 では販売した製品の廃棄を対象としています。例えば、外食業の企業の場合、カテゴリ5 は店舗から出る廃棄食品が算定対象の中心となるのに対し、カテゴリ12 ではテイクアウト用のカトラリー(ナイフやフォーク、スプーンなどの食器)や容器が中心となります。なお、テイクアウトの食べ残しについてまでは、シナリオとして考慮するのは難しいといえます。食品やその他の消費財全般についても同様に、全て消費される前提で容器包装を中心に算定するのが一般的です。

 

 

カテゴリ14 は、自社がフランチャイズ主宰者である場合にのみ算定します。算定対象範囲は、フランチャイズ加盟者のScope1 とScope2 の排出です。ただし、フランチャイズ加盟者の排出のうち、主宰者のScope1 とScope2 に含まれる範囲を除きます。このカテゴリは、算定・報告・公表制度で算定対象としている特定連鎖化事業者※(エネルギー使用量の大きい主宰者に相当)の範囲のうち、Scope1 とScope2 として算定した以外の範囲を原則とします。算定は、対象となるフランチャイズ加盟者のScope1 とScope2 の排出量を計上します。直接データを収集できることが望ましいですが、難しい場合は、Scope1・Scope2 と同様の方法で推計をします。

 

■算定対象範囲
カテゴリ15 の算定対象範囲は、算定対象期間における投資(株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなど)の運用に関連する排出量(Scope1またはScope2 に含まれないもの)です。投資事業者(利益を得るために投資を行う事業者)および金融サービスを提供する事業者に適用されます。具体的には、主として民間金融機関(商業銀行など)向けのカテゴリです(「図表●カテゴリ15:投資」を参照)。カテゴリ15 を理解する上でまず知っておきたいのは、投資は事業者の組織境界の定義によって考え方が変わる点です。多くの企業は支配力基準を採用しているかと思いますが、その場合、連結子会社など支配下にある株式はScope1、2 に計上されています。つまり、これらに含まれない投資(=支配下にない投資)をカテゴリ15 で計上することになります。一方、出資比率基準を使用する事業者は、自社が行う株式投資に係る排出は出資比率に応じて全てScope1、Scope2 で算定するため、カテゴリ15 は対象なしになります。
GHG プロトコルでは、金融投資は次の4 つに分けられています。「図表●カテゴリ15 -基本的な算定方法-」「図表●投資からの排出量の算定(必須)」「図表●投資からの排出量の算定(任意)」も参考にしてください。