チャンミンの手を掴んで出来る限り早足で歩く。

本当はその手を掴んだまま走り出したい気持ちでいっぱいだった。

 

 


途中で何度か水溜りに足を突っ込んで、

後ろから小さく「あっ!」と聞こえる声にどうしようもなく胸が高鳴る。

 

 

こんな些細なことでさえ

初恋みたいに高鳴る自分の鼓動が

恥ずかしくて、嬉しくて、苦しかった。


本当はこれが、今この瞬間が俺の初恋なのかもしれないなんて錯覚を起こしそうになる。

 

 

絡ませた指に何度も力を込めて、チャンミンがここに居ることを確かめた。

そのたびに握り返してくれる温もりが

信じられなくて時々後ろを振り返れば、お前も俺を見て微笑んでくれる。

 

 

だから、

錯覚でもいい。

これはきっと、初恋だ。

 

 

 

濡れた芝生の匂いとか

雨上がりの空の色とか

お前といると、今まで気づかなかったことに気づく。

そうして俺の世界が変わっていくような気がした。

 

 

真四角に切り取られた

狭い水槽みたいなこの世界で、泳いでも泳いでも同じ場所をいったりきたりして、いつの間にかどこが始まりでどこが終わりなのか分からなくなっていた俺の人生で、たった一つの目印がチャンミンだった。

 


太陽のように眩しくはないけれど

月明りのように優しく照らしてくれるチャンミンは、俺の人生でたった一つの慰めだった。

 

 

水底に届く月明かりは掴むことが出来ないと知っていたのに。

その優しさに包まれると幸せで、

いつからか、俺だけのものにしたいと思うようになった。

 

だけどそれが現実になると急に怖くなった。

 

 

キスしたことも

夢中で抱いたことも

そしてお前に出会ってしまったことさえも後悔した。

 

 

そして戻れるのなら同じ過ちは犯さないと誓うたびに、会いたくて仕方ない気持ちが強くなった。

そして今、俺は来てしまった。



 


 

漠然と、もう戻れない場所に来てしまったんだと気づいてる。

永遠とかそういうのは信じてないけど

振り返るとお前が笑ってるから

俺はその先を信じてみたくなった。

 

 

通り雨だと思っていたら本格的に降ってきた雨はどこか優しく心地よかった。

まるでお前みたいな雨。


土砂降りの中、駆けた夏の日をきっと俺は忘れない。お前も忘れないでいて欲しい、そう願いながら走った。

 

 

びしょ濡れの手で開けた玄関のドア。

閉めると同時にチャンミンを壁に強く押し当ててキスをした。

乱暴なキスのせいで、チャンミンの唇が少し切れた。

口の中に広がる血の味がやけに現実的で

ようやく手に入れた恋を噛み締めた。

 

 

俺は、はじめて心の底から永遠を願った。