たった一周のつもりだった。

500mlの水のペットボトルを片手に、財布をズボンのポケットに、ホテルを出た。

門番に止められたけど、一瞬に出たベルギー人が、まぁまぁ、いいじゃんって強引に突破。


そうして歩き始めると、すぐに子どもが数人駆け寄ってきた。

10歳くらいか。夜のバングラデシュに大きな目をしたかわいい子どもたちが、僕らの手を服を引っ張り、ぶら下がる。

彼らは手をお腹に当ててさすり、その手を口にあて、そして別の手の平を僕に差し出す。

お腹空いた、食べ物食べたい、お金ちょうだい、って意味だ。

初めて目にした僕でもその意味は理解出来た。


たった1ドルでも彼らは数日間の食べ物を得ることが出来る。

貧乏旅行をしている僕だけど、それでも数ドル渡すの余裕はあった。
僕は5年前まで、もて余した時間を旅行で埋めていた。

いわゆるバッグパッカーってやつをしていた。

でかいバッグに夢やら欲やら自分自身をパックして、可能な限り、安く長く旅をする、あれ。

僕がバッグに詰めたものは、今は話さない。

それを話すためのこの独白だから。


いや、まぁはっきり言ってそんなことどうでもいいんだ。

とにかく、インドで何をしてきたかって話。






安い航空チケットは、バングラデシュを中継した。

そこで6時間の待機だ。

夜12時から朝6時までの6時間、僕らはホテルに案内された。

この説明はややこしいんだけど、手続き上、僕らはバングラデシュに入国していない。

ただ乗り換えをしているだけで、たまたま乗り換えに6時間かかるから、その間ターミナルにいるのは辛すぎるから、じゃあ仕方ないけど、ホテルにどうぞって。

だから、厳密に言うと、ホテルから出ちゃダメだし、出て犯罪に巻き込まれたら間違いなくややこしいことになる。

入国していない人間が国内で犯罪にあっているんだから。外に出ちゃダメって言われてるんだから。

ただ、確かにバングラデシュという土地を踏んでいる僕は、ホテルの門番を振り切って夜の町を歩き始めた。

だって、もったいないじゃない。

ちなみに、ホテルって言ってもゲストハウスと同じで、ゲストハウスってのは、貧乏な旅人が格安で泊まれる宿のこと。

でかいトカゲと部屋を共有、シャワーは水オンリー、ベッドにはダニ。



あぁ、話が行ったり来たり。これもアルコールの作用の一つ。

で、とにかく、そのホテルから、脱出した。


迷子にならないように、1ブロックをぐるり一周。

そう、たった一周のつもりだった。

だって、僕は今、不法入国中だから。
インドに行けば人生観が変わるって言う人がいる。

けど、僕は変わらなかった。

けど、得たものはある。


それはマリファナと、死にかけた病気と、人間から発せられる匂いの中にあった。


こう言ったって何も分からないだろうから、一から話を始めようと思う。


酔っ払いの東京から、愛を込めて。