Born to Run -23ページ目

Born to Run

人類は走るために進化してきたらしい。


 「こまどり荘」 レストポイントでは気になっていた携帯電話&時計の充電はコンセントプラグに余裕があり、何とかなった。

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皆様が休まれているのでなるべく音を立てずにそっと2段ベッドの上へ、元々寝付きは悪い方なので眠れるのか不安だった、予想通り近くの人のイビキや準備をしている人の音、どらごんさんリタイヤのこと、これから越える三国峠のことなどが気になって一睡もできずに30分ほど目を閉じていたが携帯と時計の充電も終わったし、眠りにつくのは諦めて先に向かうことにした。

17時過ぎ、こまどり荘を出てどちらに向かえばコースに出るのかを青谷さんに親切に教えてもらい応援されながら出発「あなたが挑戦する手本を見せてくれたから今ここにいます、ありがとうございます。」とお礼を言いたかったが言えなかった。
お風呂で足を回復させ、しばらく目を閉じて、肩に食い込むザックを換えた事で大分走れるようになっていた。

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ゴロゴロ石が転がる林道をゆるゆると走る、少しでも足の負担を減らそうと手頃な木の棒を拾って杖にしながら頂上を目指した。
しばらく調子よく進むとライトを点けなくては進めない暗さになってくる、ヘッドライトを点けて登りは早歩き、平坦は小走りを繰り返す。
去年出たUTMFを思い出す。あの時よりずっと足の裏は痛い、でもお腹は減っていないし太ももの筋肉痛も無い、休み休み来たので脚力という点では殆ど消耗していなかった。早く峠を越えて気温が高い下界に降りたい、とこの時はまだ甘いことを考えていた。

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あと3kmの看板を通りすぎて橋を2つ渡りミゾレが降り始める中、三国峠のピークに着く。そこには毎年ボランティアで私設エイド&写真撮影をしてくれている土田さんがいらっしゃった。
素晴らしい機材で夜間撮影してくれる。温かいスープまで頂き感激、手がかじかむような寒さの中ランナーを何時間も待ってくれている。

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何度かお礼を言って近くにあった公衆トイレを借り、体を軽くして下山を目指す。少しトイレに立ち止まるだけでも震える寒さ、何時間もここで待っていてくれる人が居ることに涙が出てくる。

低体温症になっては進めなくなるので体を動かし、高度を下げる。長野県側の道は埼玉県側とは違ってアスファルトで舗装されていて走りやすい。どんどん高度を下げているのだがミゾレは降り続いたままでなかなか暖かくならない。ヘアピンカーブを何度か繰り返し、地図上だと千曲川の源流がある辺りに差し掛かったが真っ暗で遠くで川が流れるような音が聞こえるだけだった。

「こまどり荘」を私より少し先に出ていた中川さんにここで追いつき、寒い事を嘆きながら再び並走する。私はロングスパッツを履いていたが中川さんは短いスパッツにランパンのみ、寒くないわけがない。真夜中の野菜畑が広がる八ヶ岳高原を休める場所求めて進む、足は痛むが止まると寒さが襲ってくるので止まれない、眠気が襲ってきてペースが落ち、また一人になる。
自販機で温かいコーヒーを飲み元気になったつもりになってまた走る。今度は中川さんが眠気でペースダウンしていたが私も進めるうちに進まないとまた眠くなるので、「眠くないうちにちょっとでも進んでおきます!」と先に行かせてもらう。

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しばらく進むとバンバンクラブが出してくれている無人の私設エイドがあったのでありがたく補給させてもらう。「こまどり荘」をでて以来コンビニが無く、夜中なのでこの先も開いている店はずっとない。市場T字路のチェックポイント前でも私設エイドと書かれた看板を出してくれている車を見かけたが、仮眠中だったため起こさずに通過した。

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道路標示の気温は0℃、この辺りから幻覚が見え始める。遠くを見ると沿道に数人の人が見える、工事中の姿だったり、何か撮影していたり。犬の散歩をしていたり、ランナーの後ろ姿だったり・・・全て近づいてみると何もなくて、また先を見ると数人の人が見える。道路標識も人に見える、看板も人に見え、木の陰も人に見えた。真夜中で少々不気味だったが幻覚を見るほどの状況になってきたことに少なからずワクワクしていた。

車も人も通らない真夜中の登り坂を越えてスマートフォンのマップと照らし合わせながらとぼとぼ歩く、眠気と幻覚が酷くなってきてとても走れないので止まっては歩き、思い立って走り、を繰り返した。夜明け前が一番寒いとは言うが、うっすらと明るくなってくると元気が少しずつ出てきて真っ暗だった頃よりも走る距離がのびる。やがて走れるまでに眠気を回復させた中川さんが後ろから来て「先に行ってます!」と言いながら走って行く。エールを送って私もとぼとぼと進む。

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右手に久しぶりのセブン-イレブンが見えた。
「こまどり荘」を出てから実に65km程来ていたので、ありがたい思いでいっぱいになりながら店に入りトイレを借りて朝ごはんを買う。
店員さんに「昨日から何人か同じような人が来るが何をしてるのか」を問われる、川の道レース中に何度もした説明「東京の葛西臨海公園から長野を経て新潟の海まで走ってるんですよ」と説明する。一様に相手は驚いた反応で応援してくれる、この店員さんにも頑張ってと応援をいただいた。

外に出てコンビニの脇で買ったものを広げて朝ごはん休憩にした、どこで追い越したのかすぐに中川さんもやってきて、ここまで同じようなペースで着ていたウルトラの大先輩、園山さんもコンビニから出て来て久しぶりに話しながらのご飯を摂る。中川さんは昨日の寒さを電話ボックスや自動販売機の脇などで10分くらいずつ仮眠を取りながら凌いできたんだそうでまだまだ走れそう。私は食べたばかりなのもあってとても眠い、しばらく休んで行くと中川さんに告げて再会を約束した。
まだご飯を食べている園山さんは59歳、後々他のランナーから聞いたがトランス・ヨーロッパ(デンマークからスペインまでの4175.9kmを64日間で走る)を完走されている超人で川の道も何度も走っている。どこも痛くないんじゃないか?と思うくらい淡々とした足取りで走って行く。眠くてフラフラするんですけどどうすれば良いですかね?と相談すると「10分でも寝れれば良いけど、20分寝るとすごく回復するよ」と教えてくれた。

しばらくセブン-イレブンの脇でサバイバルブランケットに包まっていたが全く眠れないので仕方なく先を目指す、路側帯が狭い道路なので慎重に進まなければならないがしばらく進むと眠気が顔を出してフラフラしてくる、狭い道なのに交通量が多く道路側に倒れたりしたら大変なことになる。
どこか眠れそうなところは無いかー、と辺りを見回しながら歩く。
このどこか眠れそうな場所は無いか、を探す癖は川の道完走以降しばらく続いた。
良い感じに広く8時とまだ開店には少しあるんじゃないかと予想された蕎麦屋の駐車場端、日当たりの良い場所で靴を脱いで大の字になった。温かい陽射しと眠気でしばらく浅い眠りが訪れ、蕎麦屋の店員さんが開店準備のために駐車場にノボリを立てる音で目が覚めた。
駐車場に見知らぬ人が寝ていて、さぞ不思議だったと思うがしばらく寝かせておいてくれたことに感謝。時間にして7分間だけだったが少し眠れたことで素晴らしく元気になった。

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地元の中学生とすれ違いざま朝の挨拶をしてくれる、東京では見ず知らずの人に話しかける習慣がないし人と目を合わせる事も少ないので一言の挨拶がとても嬉しかった。
さっきまで遠くを見るとたくさんの人が見えていた幻覚も無くなり、足裏の激しい痛みをこらえれば何とか走れる。余裕が生まれてきて風景の写真を撮ったり、SNSに投稿したりしながら250km辺りを通過して佐久市内を目指す。

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遠くに八ヶ岳を見ながらのんびり走っていると前に久しぶりのランナーの姿が見える、近づいて声をかけてみると、どらごんさんのお友達のウッチーさんだった、随分足が痛そうな歩き方でダラダラ続く登り坂を歩いている。どらごんさんDNFの話を少しして、残念だということと大きな怪我では無いことを聞いた。
ウッチーさん自身もかなりキツイ状況のようであと10kmほどまで迫った第二レストポイント「小諸グランドキャッスルホテル」まで足の痛さを堪えて走っている様子だった。

レストポイントまで数キロまで近づいた所でスポーツエイドジャパンのスタッフさんたちの乗る車が横を通り過ぎ声をかけて応援してくれる。
下り坂だったし、応援も頂いたのでレストポイントまでスピードアップ、足の痛さを無視してキロ5分ほどまでペースを上げ駆け下る。

スタッフの岩下さんの姿が見えエイドまで後少しだと言うことと、コンビニは今しがた通り過ぎてきた所が最寄りだということを聞いたので200mほど引き返してホテルで食べるパスタ2個と飲み物を買いレストポイントまでノロノロと走った。

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「小諸グランドキャッスルホテル」2階に選手の荷物が置いてあり、4階に眠れる休憩部屋とお風呂があるようだった。ひとまず荷物の置いてある2階に行くと優勝候補筆頭の吉岡さんが座っていた。
前に小江戸大江戸で少しお話しさせてもらったことを話すと私のことを思い出してくれて、今回は足の故障でリタイヤすることになったと痛々しくテーピングが巻かれた足を見せながら話してくれた。
きっと悔しいからあまり話しかけてはいけないかなと思いながらご飯を食べお風呂へ向かう、吉岡さんと園山さん楽松師匠も入ってきて風呂が賑やかになる。DNFすることについてもあまり気にせず楽しそうに話す話し声を聞き、水風呂とお湯の湯船をウトウトしながら行ったり来たりして、先程の荷物がある部屋に行き寝る支度をする。

吉岡さんが荷物の整理をしていたので、「もう今日は帰るんですか?」と尋ねると
「ボランティアは足りてるって言うし、することないからなぁ。毎年これに出てるからゴールデンウィークの過ごし方知らないんだよね。」と笑いながら少し寂しそうに答えてくれた。
この先のルートのコンビニが無い区間などのアドバイスを貰ったり、眠れないときはアイマスクを活用したらどうかということまで言ってくれる。次回に小江戸大江戸で会えることを確認してお礼を言って4階の出来れば眠りたい休憩部屋に向かった。

~つづく~