ラテン語を皮切りとして古代言語の世界への探索が始まったんですが、まだまだそのラテン語を身につけていないうちに目線が古典ギリシア語に向いてしまった。さらに、その古典ギリシア語もよくわからないうちに、目線がまた古典サンスクリットに向いてしまった。さらに(そう、この繰り返しがまだまだ終わらない(;^_^A)、その古典サンスクリットを全然理解できないうちに、目線がまた印欧祖語に向いてしまった。さらに…あっ、サイクルはここで終わります(笑)印欧祖語はあくまでも「理論の存在」だからどっちの古代民族によって使われた言語なのではない。その印欧祖語の成立・構成についての研究を支える古代言語として言うまでもなくサンスクリット・古典ギリシア語・ラテン語が挙げられている。そのほかには、実は、サンスクリットよりも歴史が古いにもかかわらず、その発見は遅れるので近代までずっと知られていないままだったがそれはヒッタイト語です。どの民族がそのヒッタイト語を使うのかと言うともちろんヒッタイト人ですね。活躍した場所は今のトルコです。この地域にちなんで印欧語の系譜の中でヒッタイト語はAnatolia語族に属している。この語族の最大の特徴としてすべてのメンバーも現代ではもう、存続していなくなるという点。言い換えてみたらサンスクリットや古代ギリシア語などのように姿が現代言語へと変わりつつあって生き残ることはなかったということです。
ここまで読んでくれる読者さんはもしかして、まあまあ、いろいろしゃべってたがそもそも、タイトルのシュメール語は?って不満を抱いているかもしれません。確かに、シュメール語自体は、先に述べてた言語と何の関係を持っていません。ここで言う「関係ない」とは、シュメール語とヒッタイト語の間に何の「親族関係」も持たないこと。言語での親族関係はなかなか理解しにくいと思うのでちょっと説明させてもらおう。言語では、たとえば、英語とドイツ語は同じ語族に属しているが、その理由としてさまざまあるけど一番わかりやすい箇所として、同じ意味の語彙の綴り、音韻の系統的な対応関係、そして、曲用にも活用にも類似性を持っているといった点によって認識されるのです。
一番わかりやすい対応関係、たとえば、語彙的の類似性が挙げられている。
have(英)vs haben(独)
get (英)vs geben(独)
go (英)vs gehen(独)
speak (英)vs sprechen(独)
shall (英)vs sollen(独)
will (英)vs wollen(独)
thing (独)vs Ding(独)
father(英) vs Vater(独)
Mother (独)vs Mutter(独)
Water (英)vs Wasser(独)
under (英)vs unter(独)
for(英)vs für(独)
つまり、これらの基本の基本の語彙を照らし合わせてみたらすぐにその類似性が見つけられるというわけです。とはいえ、これはただ、私だけの粗末で結果的な論法にすぎないので準拠にはなれないが参考に限られるのです。
なんで語彙の類似性だけで判断を下すことが危険的なのかというと、次の文を読んでみてください。
Kodak garantit conformément à la loi tout défaut de fabrication ou vice caché dûment constaté. Le produit contenu dans cet emballage est vendu sans autre garantie, engagement ou responsabilité d’aucune sorte.
Die Nacherfüllung beschränkt sich auf Ersatz dieses Produktes, sofern sich herausstellt, dass es fehlerhaft hergestellt oder verpackt wurde. Darüber hinausgehende Ansprüche sind ausgeschlossen
たとえば、上のような但し書きを見てみてください。上のほうはフランス語、下のほうはドイツ語。両言語への認識もない場合ではただ英語の語彙との類似性だけでわかりそうな語彙を選び出したら、
フランス語:conformément, défaut ,fabrication ,vice, caché,produit,engagement,responsabilité
ドイツ語:Produktes
英語とドイツ語は同じく、いわゆるゲルマン語族に属している言語にもかかわらず、ロマンス語族に属しているフランス語とは、むしろ、外見的に似ているでしょう?というのも、英語はかつて、フランス語から大量の語彙を借用して輸入したためドイツ語と親しむ言語であってもその語彙はむしろ、フランス語に似ているわけです。この話は中国語と日本語にもふさわしいと思う。日本語も中国語もわからない人の目ではおそらく、二つの言語が似ていると思っているかもしれないが、実際、両言語は語族的の関係を持っていないし統語論と形態論で言っても完全に別々の言語だ。
話が逸れすぎるが一応、こういう感じで言語での親族関係を押さえておこう。
話を戻しますがヒッタイト語は紀元前17世紀ころの言語でその言語を書くのに使われる文字として楔形文字と呼ばれている。でも、楔形文字はヒッタイト語のネイティブな文字ではなくほかのより古い文明から借用したものである。
ここでやっとシュメール語との出会いにたどり付いた。最も古い印欧言語であるヒッタイト語が使用した楔形文字を最初に使うとされている古代文明は二つある。シュメール文明とアッカド文明。(ここから言及した楔形文字は、シュメール語表示に用いられるものに限られる)
シュメール文明を言及したら、その文明を成している人間であるシュメール人、そして、シュメール人が話している言語としてのシュメール語も容易に連想されているのではないでしょうか?シュメール文明がいったいどれくらいの古い文明なのかと言うと、ほかの古代文明の時期と比べたら明瞭になるはず。
中国文明での最古の文字として甲骨文とされているが、その甲骨文は紀元前1500年ころのもの。
インド文明で最古の賛歌であるリグベーダはおおよそ紀元前1000年ころのもの。
線文字Bを考えずにギリシア文明での最古の文学作品としてホメロスによる叙事詩は、紀元前800年後半ころのもの。
そして、今回の記事で紹介したいシュメール語を表記する楔形文字は、紀元前3100年ころのもの。
さらに、シュメール語を見出し語にして大辞林で引いてみたら
シュメール語:
古代シュメール人によって、紀元前18世紀頃まで用いられた言語。
この単純明快な定義からわかるよう、シュメール文明は、中国文明の甲骨文とインド文明のベーダ語の誕生のずっと前にもう、なくなったほど、人類歴史の中でも最古の文明だと言ってもよいものである。
その歴史の古さのおかげでわれわれ現代人は、シュメール語に対する認識も低下するのは現状だが、そんなシュメール語について次のような点が挙げられている。
楔形文字を採用
楔形文字とそれに対応した発音はある程度確立されたが不明の点も多数ある
音韻系統不明(とはいえ、音声の再構築によってある程度認識される)
言語系統不明
活用性質は膠着語
格表現は能格言語
言語の文字(狭義で言えばアルファベットのこと)が一番理解しやすいものなので何かの言語学習に際して最初に学ぶのは、文字(アルファベット)です。英語などの西欧言語ならもちろん、a,b,cを順を追ってアルファベットから始まるんですね。英語のように一つの字母が一つの音素に対応する場合では間違いなく容易ですが、シュメール語に用いられる楔形文字は果たして、同じような仕組みで働いているのでしょうか?
楔形文字、文字通りに文字の形が、楔形のように見えることでそう名づけられているわけですが、その名前自身は、文字の形しか述べていないものの、その本質について何も示唆していない。英語のような言語は語彙的な意味をなしている音を音素まで分割し、それぞれの音素を一つの字母に当てはめる。これらの字母は言葉を作る素材として働いているわけです。一方で楔形文字は、言葉の発音の構成に基づくのではなく、現実の世界の中で見分けられるそまざまな物事を、一つの音声に対応させ、その音声をさらに、一つの符号に対応させるという仕組みだと考えられている。そうだったら中国語の漢字と同じコンセプトで文字を作ると考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?確かに、文字の「制作」で言えば同じ仕組みだけど、中国語はひたすら表意の言語だから物事ごとに文字を作るのは合理的であろう。シュメール語は事情がやや違う。日本語と同じ膠着語だからこそ、言葉には表意の部分もあれば、実質の意味のないひたすら文法的な意味を明確にするための部分もある。ということで楔形文字には性質や機能に応じて2種類に大別されている。西洋学者の用語に従えば、楔形文字には
logogram
phonogram
がある。これを見ると英語の大文字と小文字のような仕組みみたいと理解しないよう、logogramと phonogramはあくまでも同じものだと考えてほしい。シュメール語の場合では機能によってそれぞれの文字系統を作るのではなく、本来logogramとして用いられる符号を、便宜的にphonogramにも用いられるだけです。そして、
logogramとは、日本語になぞらえて言えば漢字に相当するもの。文字そのものは音を表すのではなく、意味を表している。つまり、表意文字ということ。
phonogramとは、日本語になぞらえて言えば仮名に相当するもの。文字そのものは意味を表すのではなく、音だけ表している。つまり、表音文字ということ。
でも、日本語の表記と決定的に違ってくるのは、楔形文字は原則としてlogogramだからphonogramとしての応用はただ、logogramをそのまま音素表示に転用するものです。日本語の万葉仮名のようなものですね。この原因で一つの楔形文字は時には表意文字として時には表音文字としてその身分がずっと揺れ動いているのです。
シュメール語の研究は西洋学者の中で盛んに行われているので楔形文字をローマ字に転写したら理解や印刷の上でもっと便利です。先に言った諸事情のせいでその転写さえも難しくてなかなか標準化していない。これは、日本語に例えて説明しやすいと思う。たとえば、「物」という漢字を考えてみよう。「物」はlogogramだからlogogramを持たない言語の字母で転写する場合では、音しか表さないだろう?そして、「物」という文字に当てられる音は、私の知る限りでは次のようです。
MONO(例:物)
BUTSU(例:動物の物)
MOTSU例:書物の物)
読み方は計3種類ある。それぞれの「物」の転写をはっきりさせるために、西洋学者のやり方で順序に転写したら次のようです
MONO
MONO2
MONO3
でも、転写のやり方は学者次第、揺れ動くので実は、次のようにアクセント符号で表すのは一般的のようです。
MONO
MÓNO
MÒNO
こんな感じでアクセント符号のない転写はタイプ1、鋭アクセントのついた転写はタイプ2、重アクセントのついた転写はタイプ3。タイプ4(もしあったら)からすべてもMONO数字の小文字で表記していく。
これはやっかいなあと思っている読者もいらっしゃるかもしれませんが、確かにそうですね。このように、同じ大文字つづりの「MONO」を、同音異義字と理解したらいい。中国語のような音節構成の単純な言語はもちろん、英語のようないわゆる音節を複数持つ言語でもこういう同音異義の言葉は存在している。ただし、シュメール語にはほかのやっかいなところがあるのです。それは、たとえば、最初のアクセント符号のついていない「MONO」を、もともとの読み方の/mono/に加えて全然異なった読み方を当ててさまざまな意味を持たせる。どういう意味なのかというと、たとえば、日本語の場合を考えてみましょう。
「物」という漢字を含める言葉として、
物
人物
動物
物事
…
などがあります。それぞれの読み方は違うので表記の方式も違ってくる。ここでいう表記の方式は、「物」、「人物」といった漢字です。一方で、シュメール語はそれよりもむしろ、すべての言葉も「物」と関連しているので一括して「物」という記号だけで済む。結局、シュメール語的な視点で見れば、
「物」という漢字はもちろん、基本の意味を表す「物」とその読み方/mono/を表記している。それだけでなく、「物」という漢字の読み方を/jinbutsu/に変えたら「人物」という意味を表し、/doubutsu/に変えたら「動物」という意味を表し、/monogoto/に変えたら意味はまた「物事」になっているという仕組みです。
ということで「物」という漢字にむりやりに四つの読み方を持たせるのは、シュメール語流といってもよい。
ここで一応、ずっと語ってきた楔形文字の模様を見てみます。

これは楔形文字を説明するための表です。
左側は楔形文字の名前、真ん中は楔型文字そのもの、そして、右側はその楔形文字が持っている値、つまり、読み方。ご覧のように楔形文字の名前とそれによって代表される読み方が同じ場合があるんですけど(名前:AB2、読み方:ab2)、二番目のAB2KUのように違った音(unud)を表すこともある。ちなみにAB2の2は、ABというサイン(西洋学者は楔型文字をサインと呼ぶこともある)は少なくとも二種類があることがわかっている。そして、右側のab2も同じように、abという音を表すサインは少なくとも2種類がある。そして、ご覧のように上のAB2はab2という音を表しているものの、下のAB2KUはabという音をいっさい表していないことも明白なはず。楔形文字の難解さもここにある。
このあたりで話を終わりたいと思いますが、またの機会で書こうと思うけどね。
ここまで読んでくれる読者さんはもしかして、まあまあ、いろいろしゃべってたがそもそも、タイトルのシュメール語は?って不満を抱いているかもしれません。確かに、シュメール語自体は、先に述べてた言語と何の関係を持っていません。ここで言う「関係ない」とは、シュメール語とヒッタイト語の間に何の「親族関係」も持たないこと。言語での親族関係はなかなか理解しにくいと思うのでちょっと説明させてもらおう。言語では、たとえば、英語とドイツ語は同じ語族に属しているが、その理由としてさまざまあるけど一番わかりやすい箇所として、同じ意味の語彙の綴り、音韻の系統的な対応関係、そして、曲用にも活用にも類似性を持っているといった点によって認識されるのです。
一番わかりやすい対応関係、たとえば、語彙的の類似性が挙げられている。
have(英)vs haben(独)
get (英)vs geben(独)
go (英)vs gehen(独)
speak (英)vs sprechen(独)
shall (英)vs sollen(独)
will (英)vs wollen(独)
thing (独)vs Ding(独)
father(英) vs Vater(独)
Mother (独)vs Mutter(独)
Water (英)vs Wasser(独)
under (英)vs unter(独)
for(英)vs für(独)
つまり、これらの基本の基本の語彙を照らし合わせてみたらすぐにその類似性が見つけられるというわけです。とはいえ、これはただ、私だけの粗末で結果的な論法にすぎないので準拠にはなれないが参考に限られるのです。
なんで語彙の類似性だけで判断を下すことが危険的なのかというと、次の文を読んでみてください。
Kodak garantit conformément à la loi tout défaut de fabrication ou vice caché dûment constaté. Le produit contenu dans cet emballage est vendu sans autre garantie, engagement ou responsabilité d’aucune sorte.
Die Nacherfüllung beschränkt sich auf Ersatz dieses Produktes, sofern sich herausstellt, dass es fehlerhaft hergestellt oder verpackt wurde. Darüber hinausgehende Ansprüche sind ausgeschlossen
たとえば、上のような但し書きを見てみてください。上のほうはフランス語、下のほうはドイツ語。両言語への認識もない場合ではただ英語の語彙との類似性だけでわかりそうな語彙を選び出したら、
フランス語:conformément, défaut ,fabrication ,vice, caché,produit,engagement,responsabilité
ドイツ語:Produktes
英語とドイツ語は同じく、いわゆるゲルマン語族に属している言語にもかかわらず、ロマンス語族に属しているフランス語とは、むしろ、外見的に似ているでしょう?というのも、英語はかつて、フランス語から大量の語彙を借用して輸入したためドイツ語と親しむ言語であってもその語彙はむしろ、フランス語に似ているわけです。この話は中国語と日本語にもふさわしいと思う。日本語も中国語もわからない人の目ではおそらく、二つの言語が似ていると思っているかもしれないが、実際、両言語は語族的の関係を持っていないし統語論と形態論で言っても完全に別々の言語だ。
話が逸れすぎるが一応、こういう感じで言語での親族関係を押さえておこう。
話を戻しますがヒッタイト語は紀元前17世紀ころの言語でその言語を書くのに使われる文字として楔形文字と呼ばれている。でも、楔形文字はヒッタイト語のネイティブな文字ではなくほかのより古い文明から借用したものである。
ここでやっとシュメール語との出会いにたどり付いた。最も古い印欧言語であるヒッタイト語が使用した楔形文字を最初に使うとされている古代文明は二つある。シュメール文明とアッカド文明。(ここから言及した楔形文字は、シュメール語表示に用いられるものに限られる)
シュメール文明を言及したら、その文明を成している人間であるシュメール人、そして、シュメール人が話している言語としてのシュメール語も容易に連想されているのではないでしょうか?シュメール文明がいったいどれくらいの古い文明なのかと言うと、ほかの古代文明の時期と比べたら明瞭になるはず。
中国文明での最古の文字として甲骨文とされているが、その甲骨文は紀元前1500年ころのもの。
インド文明で最古の賛歌であるリグベーダはおおよそ紀元前1000年ころのもの。
線文字Bを考えずにギリシア文明での最古の文学作品としてホメロスによる叙事詩は、紀元前800年後半ころのもの。
そして、今回の記事で紹介したいシュメール語を表記する楔形文字は、紀元前3100年ころのもの。
さらに、シュメール語を見出し語にして大辞林で引いてみたら
シュメール語:
古代シュメール人によって、紀元前18世紀頃まで用いられた言語。
この単純明快な定義からわかるよう、シュメール文明は、中国文明の甲骨文とインド文明のベーダ語の誕生のずっと前にもう、なくなったほど、人類歴史の中でも最古の文明だと言ってもよいものである。
その歴史の古さのおかげでわれわれ現代人は、シュメール語に対する認識も低下するのは現状だが、そんなシュメール語について次のような点が挙げられている。
楔形文字を採用
楔形文字とそれに対応した発音はある程度確立されたが不明の点も多数ある
音韻系統不明(とはいえ、音声の再構築によってある程度認識される)
言語系統不明
活用性質は膠着語
格表現は能格言語
言語の文字(狭義で言えばアルファベットのこと)が一番理解しやすいものなので何かの言語学習に際して最初に学ぶのは、文字(アルファベット)です。英語などの西欧言語ならもちろん、a,b,cを順を追ってアルファベットから始まるんですね。英語のように一つの字母が一つの音素に対応する場合では間違いなく容易ですが、シュメール語に用いられる楔形文字は果たして、同じような仕組みで働いているのでしょうか?
楔形文字、文字通りに文字の形が、楔形のように見えることでそう名づけられているわけですが、その名前自身は、文字の形しか述べていないものの、その本質について何も示唆していない。英語のような言語は語彙的な意味をなしている音を音素まで分割し、それぞれの音素を一つの字母に当てはめる。これらの字母は言葉を作る素材として働いているわけです。一方で楔形文字は、言葉の発音の構成に基づくのではなく、現実の世界の中で見分けられるそまざまな物事を、一つの音声に対応させ、その音声をさらに、一つの符号に対応させるという仕組みだと考えられている。そうだったら中国語の漢字と同じコンセプトで文字を作ると考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?確かに、文字の「制作」で言えば同じ仕組みだけど、中国語はひたすら表意の言語だから物事ごとに文字を作るのは合理的であろう。シュメール語は事情がやや違う。日本語と同じ膠着語だからこそ、言葉には表意の部分もあれば、実質の意味のないひたすら文法的な意味を明確にするための部分もある。ということで楔形文字には性質や機能に応じて2種類に大別されている。西洋学者の用語に従えば、楔形文字には
logogram
phonogram
がある。これを見ると英語の大文字と小文字のような仕組みみたいと理解しないよう、logogramと phonogramはあくまでも同じものだと考えてほしい。シュメール語の場合では機能によってそれぞれの文字系統を作るのではなく、本来logogramとして用いられる符号を、便宜的にphonogramにも用いられるだけです。そして、
logogramとは、日本語になぞらえて言えば漢字に相当するもの。文字そのものは音を表すのではなく、意味を表している。つまり、表意文字ということ。
phonogramとは、日本語になぞらえて言えば仮名に相当するもの。文字そのものは意味を表すのではなく、音だけ表している。つまり、表音文字ということ。
でも、日本語の表記と決定的に違ってくるのは、楔形文字は原則としてlogogramだからphonogramとしての応用はただ、logogramをそのまま音素表示に転用するものです。日本語の万葉仮名のようなものですね。この原因で一つの楔形文字は時には表意文字として時には表音文字としてその身分がずっと揺れ動いているのです。
シュメール語の研究は西洋学者の中で盛んに行われているので楔形文字をローマ字に転写したら理解や印刷の上でもっと便利です。先に言った諸事情のせいでその転写さえも難しくてなかなか標準化していない。これは、日本語に例えて説明しやすいと思う。たとえば、「物」という漢字を考えてみよう。「物」はlogogramだからlogogramを持たない言語の字母で転写する場合では、音しか表さないだろう?そして、「物」という文字に当てられる音は、私の知る限りでは次のようです。
MONO(例:物)
BUTSU(例:動物の物)
MOTSU例:書物の物)
読み方は計3種類ある。それぞれの「物」の転写をはっきりさせるために、西洋学者のやり方で順序に転写したら次のようです
MONO
MONO2
MONO3
でも、転写のやり方は学者次第、揺れ動くので実は、次のようにアクセント符号で表すのは一般的のようです。
MONO
MÓNO
MÒNO
こんな感じでアクセント符号のない転写はタイプ1、鋭アクセントのついた転写はタイプ2、重アクセントのついた転写はタイプ3。タイプ4(もしあったら)からすべてもMONO数字の小文字で表記していく。
これはやっかいなあと思っている読者もいらっしゃるかもしれませんが、確かにそうですね。このように、同じ大文字つづりの「MONO」を、同音異義字と理解したらいい。中国語のような音節構成の単純な言語はもちろん、英語のようないわゆる音節を複数持つ言語でもこういう同音異義の言葉は存在している。ただし、シュメール語にはほかのやっかいなところがあるのです。それは、たとえば、最初のアクセント符号のついていない「MONO」を、もともとの読み方の/mono/に加えて全然異なった読み方を当ててさまざまな意味を持たせる。どういう意味なのかというと、たとえば、日本語の場合を考えてみましょう。
「物」という漢字を含める言葉として、
物
人物
動物
物事
…
などがあります。それぞれの読み方は違うので表記の方式も違ってくる。ここでいう表記の方式は、「物」、「人物」といった漢字です。一方で、シュメール語はそれよりもむしろ、すべての言葉も「物」と関連しているので一括して「物」という記号だけで済む。結局、シュメール語的な視点で見れば、
「物」という漢字はもちろん、基本の意味を表す「物」とその読み方/mono/を表記している。それだけでなく、「物」という漢字の読み方を/jinbutsu/に変えたら「人物」という意味を表し、/doubutsu/に変えたら「動物」という意味を表し、/monogoto/に変えたら意味はまた「物事」になっているという仕組みです。
ということで「物」という漢字にむりやりに四つの読み方を持たせるのは、シュメール語流といってもよい。
ここで一応、ずっと語ってきた楔形文字の模様を見てみます。

これは楔形文字を説明するための表です。
左側は楔形文字の名前、真ん中は楔型文字そのもの、そして、右側はその楔形文字が持っている値、つまり、読み方。ご覧のように楔形文字の名前とそれによって代表される読み方が同じ場合があるんですけど(名前:AB2、読み方:ab2)、二番目のAB2KUのように違った音(unud)を表すこともある。ちなみにAB2の2は、ABというサイン(西洋学者は楔型文字をサインと呼ぶこともある)は少なくとも二種類があることがわかっている。そして、右側のab2も同じように、abという音を表すサインは少なくとも2種類がある。そして、ご覧のように上のAB2はab2という音を表しているものの、下のAB2KUはabという音をいっさい表していないことも明白なはず。楔形文字の難解さもここにある。
このあたりで話を終わりたいと思いますが、またの機会で書こうと思うけどね。