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　最後の請求金額を、きちんと送金完了した。

帳の受験が終わった以上、勿論私たちにはもう、会う理由などなかった。

「これはビジネスであり、か…。」

自分で説教しておいて、馬鹿みたいって笑えてくる。

私は４月から部署異動が決まった。

専門職の司書から少し離れ、新設部署の課長として昇格し、責任も重くなる為、仕組み作りからシステム導入、それから人事まで行わねばならず、その準備で既に大忙しだ。　

忙しさとは時にありがたくもある。

たとえば、何かを忘れたい時には、特に。

コタからの、告白のような最後の言葉を真正面から受け止めるほど、私ももう、若くはなかった。

あの電話越しの低い声が、時折わたしの中でトクンと蘇り、涙腺を刺激しては、両手から血の気が引くように優しい何かが全身を包み込んでくる。

愛では無いはずなのに、とても優しい何か。

君のすべてを感じたあの日に、私は知った。

大きくて、持続性があることが前提の愛が、生まれてはじめて、瞬間的に見えた。

あれは、たった一度の愛で、そう、瞬間でも刹那でも、確かな愛であったことを、私は認める。

「好きって何だよ。　私はね、愛してた。

…答え合わせ、間違ってたね。」

　洸太にとって、私との時間など、一つの人生経験に過ぎなかったのだろう。

もしそれが、責任のある生と死に対峙する君の未来の仕事に、息抜きの役割でも何でも、少しでも加担されていたなら、それだけで嬉しい。

私は、デスクトップのフォルダごと、洸太を削除した。毎月なぜか2ページになっている報告書の事など、もう苛々したり、不思議に思う筈もなかった。

「洸太先生」は、仕事の雑多な文書に混じって、数日後にはごみ箱フォルダからも消去された。

　帳は楽しそうに私立中学に通っている。

チェロは買ってあげられなかったけど、柄にもなく、フルートなんか抱えて。

第一志望、それから、第二志望も叶わなかった中学受験。

だけど、寝坊助なうちの愚息には、近くて雰囲気も合っている、今の学校がピッタリなようだ。

君が、力を加担して、光を当ててくれた、未来への道。

君に感謝をしながら、12歳の帳は、まだまだ小さな体で、そこを真っ直ぐ歩いている。

私も親として、そんな子供の隣を、側溝でも崖っぷちでもちゃんと隣で、共に歩いていく。

今年は、医師の国家試験が控えている。

次は、コタの番だ。

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－完－

小説の断片 65