子曰（のたま）はく、君子重からざれば則（すなわ）ち威あらず。学べば則ち固ならず。忠信を主とし、己（おのれ）に如（し）かざる者を友とすること勿（なか）れ。過ちては則ち改むるに憚（はばか）ること勿（なか）れ。― 論語：学而第１

《此章は５句になつてゐて、前２句と後３句とは、强いて結び附ければ附かぬこともないが、どうも別物のやうだ。間に「子曰」があつたのが落ちて２章が續いてしまつたものらしい。

　本章の「君子」は人の上に立つ者の意味で、前２句は其意味の君子の心得、後３句は一般人の心得だ》（穗積重遠『新譯論語』（社會敎育協會）p. 32）

（在上（ざいじょう）者たる君子は、容貌辭氣（じき）を重重しく厚くせんことを要す。若（も）し厚重ならざれば、威光なくして下民に侮（あなど）らるるなり。又在上者は兎角（とかく）權勢を恃（たの）みで學問を修めず、固陋（ころう）の弊（へい）に陷（おちい）り易きものなるが、學問をして古今の事理に通達すれば、智識も發達し、器局も寬弘（かんこう）となりて、固陋の弊に陷ることなし）―菅野道明『論語解義』（明治書院）、pp. 16-18

　ここまでが前段で、君子は「厚重」でなければならないという在上者の心得である。コロコロ意見を変えるような軽薄な態度をとってはならないが、一方、頑迷（がんめい）固陋であってもいけない。だから、視野を広げるべく学問を修めることが必要だと言うのだ。

　後段は、一般の人々に対する心得で、これもまた２つに分かれる。前半は、交友に関するものだ。

（叉人に接するには、忠實にして親切を盡（つく）し、信誠にして言行一致せんことを專一にすべし。叉己（おのれ）を修むるには友の輔（たすけ）を須（ま）つこと多し。故に智德の己に如（し）かざる者を友とすることなかれ）― 同

　＜己に如かざる者を友とすること勿れ＞も解釈の分かれるところだ。ここでは、自分より下の人間とばかり交わる「御山の大将」であってはならないと解釈しておこう。

　後半には、有名な＜過ちては則ち改むるに憚ること勿れ＞がある。

（又人は時に過失なきこと能（あた）はず、只過失ありたる時は、畏（おそ）れ憚（はばか）りて躊躇（ちゅうちょ）することなく、速（すみやか）に悔（く）い改むペしと。己に如かざる者智友として、氣儘（きまま）勝手を爲（な）すと、過（あやまち）を改むることを大儀に思ひて、一時の體面（たいめん）をつくろはんとする弊（へい）とは、特に在上者に多き所なり、故に深く之を戒（いまし）めたまひたるなり）― 同

松下幸之助『道をひらく』を読む（47）日に三転す（その２）