　志（こころざし）を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。生命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい。（『道をひらく』（ＰＨＰ研究所）、p. 14）

　幕末の志士を多数育てた吉田松陰の考えを見てみよう。

《道の精なると精ならざると、業の成ると成らざるとは、志の立つと立たざるとに在るのみ。故（ゆえ）に士たる者は其の志を立てざるべからず。夫（そ）れ志の在る所、氣も亦（また）從ふ。志氣の在る所、遠くして至るべからざるなく、難（かた）くして爲すべからざるものなし》（「松村文祥を送る序」弘化３年：『吉田松陰全集第1巻』（大和書房）、p. 70）

（道が優れているか優れていないか、業が成るか成らないかは、志が立つか立たないかにあるだけだ。だから、士たる者は志を立てない訳には行かない。志があれば、気概もまたそれに従う。物事をなそうとする意気込みがあれば、目標が遠いから辿り着けないなどということもなく、難しいから出来ないなどということもない）

　志が有るか無いかが事の成否を分けると言うのだ。

《苛（いやしく）も能（よ）く志（こころざし）立たば、爲（な）すべからざるの事なく、爲すべからざるの地なし》（「中村士恭の國に歸るを送る序」嘉永４年８月：『吉田松陰全集第１巻』（大和書房）、p. 291

(いやしくも志が立てば、行うべきではない事などなく、行うべきではない所はない）

　志が立てば、後はやるだけだ。

《吾（わ）が志（こころざし）一たび定まりて、沈まず漂（ただよ）はざれば、其れ必ず來り助くる者あらん。而（しか）るを況（いわん）や吾れ往（ゆ）きて之れを求むる、其れ寧（いずく）んぞ應（おう）ぜざる者あらんや。人歸（き）して天與（くみ）す、百人固（もと）より以て千萬人を得べし、而（すなわ）ち何ぞ難からん》（「杉藏を送る序」安政５年７月１１日：『吉田松陰全集第４巻』（大和書房）、p. 369）

（自分の志が一旦定まり、沈まず、ふらふらしていなければ、必ず誰か助けてくれる人が出てくるものだ。そうでなく、自分からそのような人を求めているのだ。どうして応じてくれない人などいようか。いやしない。人は従い、天も味方する。百人どころか、千人万人の人を得ることさえ可能だ。どうして、難しいことなどあろうか。ありはしない）

　高い志をもつ「志士」には、必ずや援軍が現れる。だから、困難なことなど何もないと松陰は言うのだ。

松下幸之助『道をひらく』を読む（20）志を立てよう（その１）